
相続が始まると、相続人には「プラスの財産」だけでなく、「マイナスの財産(借金や未払い債務など)」も相続されます。
そのため、相続が発生したときに「本当に相続して良いのか」を慎重に判断しなければなりません。
特に被相続人(亡くなった方)に借金があった場合、相続放棄という手続きを取らないと、知らないうちにその負債を引き継いでしまう可能性があります。
一口に「相続放棄」といっても、法律上は大きく分けて
① 家庭裁判所に正式に申述して行う「法的な相続放棄」
② 相続人同士の話し合いの中で行う「事実上の相続放棄」
の二つがあります。
この記事では、それぞれの手続きの違いや注意点を、東京都江東区および沖縄県那覇市での実務経験を踏まえて詳しく解説します。
1.家庭裁判所を通した「正式な相続放棄」とは
まず、最も基本的で確実な方法が、家庭裁判所に申述(もうしで)を行う正式な相続放棄です。
これは、法律(民法第938条)で定められた正式な手続きであり、裁判所の受理決定を得て初めて「相続しない」ことが法的に確定します。
(1)手続きの流れ
- 相続が始まり、自分が相続人であることを知る
- 被相続人の財産(プラス・マイナス両方)を調査
- 相続放棄の申述書を作成し、家庭裁判所へ提出
- 裁判所の審査後、「相続放棄申述受理通知書」が交付される
この手続きは、相続が開始したことを知った日から3か月以内(熟慮期間)に行わなければなりません。
期限を過ぎると、自動的に「単純承認」(すべてを相続する扱い)になってしまいます。
(2)手続きを行う家庭裁判所
相続放棄の申述先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
東京都江東区にお住まいの方であれば「東京家庭裁判所(本庁)」、
沖縄県那覇市の方であれば「那覇家庭裁判所」が管轄となります。
この申述が受理されると、法律上その相続人は最初から相続人でなかったものとみなされ、負債の返済義務なども一切なくなります。
つまり、債権者(お金を貸していた側)からの取り立ても完全に免れることができるわけです。
2.家庭裁判所を通さない「事実上の相続放棄」とは
一方で、相続人同士の話し合い(遺産分割協議)で「自分は財産を受け取らない」と合意することがあります。
これが、事実上の相続放棄と呼ばれるものです。
この方法は、裁判所を通さず、協議書の中で「一部の相続人がすべての財産を相続する」旨を明記することで実現します。
形式的には「相続放棄」と呼ばれていますが、法的には相続分の譲渡・放棄に準じる合意行為にすぎません。
(1)事実上の相続放棄が利用される場面
- 被相続人に借金がなく、プラスの財産のみである
- 相続人の一人に財産を集中させたい
- 家族関係が複雑で、関わりたくないために「実質的に相続しない」意思を示したい
- 実務上の簡便さを優先したい
このように、「負債のない相続」や「親族内の調整目的」で使われるケースが多く見られます。
(2)メリットとリスク
事実上の相続放棄は、裁判所を通さないため手続が簡単で、費用や時間の負担も少ないのが利点です。
ただし、法律的には正式な相続放棄ではないため、債務免除の効力はありません。
そのため、被相続人に借金があった場合、この方法を取っても債権者から返済を求められる可能性があります。
特に、不動産や預金などのプラスの財産のみに着目して協議を行い、のちに負債が発覚した場合、
「協議上は放棄したけれども、法的には相続人のまま」という状態になるのです。
3.負債がある場合は必ず家庭裁判所での手続きを
ここで最も重要なポイントを明確にしておきましょう。
被相続人に借金や債務がある場合、事実上の相続放棄では負債を免れることはできません。
たとえば、江東区や那覇市でよくあるケースとして、
- 「父に借金があることは知っていたが、兄に全財産を相続させるつもりで遺産分割協議書を作った」
- 「借金が少しあるかもしれないけれど、家庭裁判所に出すのは面倒なので話し合いで済ませた」
このような場合でも、法的には債権者からの請求を免れることができません。
あくまで相続放棄の効力を持つのは、家庭裁判所で受理された申述のみです。
4.生前の相続放棄はできない
しばしば「将来の相続を放棄することはできるのか」という相談を受けます。
結論から言えば、生前の相続放棄は法律上無効です(民法第915条等の趣旨による)。
これは、相続人同士の間で圧力や不当な影響が生じることを防ぐためです。
「自分の相続分はいらないから、今のうちに放棄しておく」という約束をしても、被相続人が亡くなる前には何の法的効力もありません。
相続が実際に始まってから、家庭裁判所に申述して初めて相続放棄の効力が生じます。
5.債権者の同意が必要となるケース
事実上の相続放棄を行う場合に、被相続人に負債があるときは、債権者(お金を貸している側)の同意が必要になります。
なぜなら、債権者の立場からすると、ある相続人が勝手に「私は相続しない」と言っても、負債を回収できる範囲が狭まってしまうからです。
債権者の同意が得られないまま、遺産分割協議で負債を誰か1人に押し付けたとしても、
他の相続人が法定相続分の範囲で債務を負う責任を免れることはできません。
したがって、借金や保証債務がある相続の場合には、必ず家庭裁判所での正式な相続放棄を行うことが安全です。
6.相続放棄の判断に迷ったら早めの調査を
相続放棄をすべきかどうかを判断するためには、まず被相続人の財産調査が欠かせません。
不動産、預金、株式などのプラスの財産だけでなく、借入金、未払い税金、保証債務などのマイナスの財産を正確に把握する必要があります。
特に江東区や那覇市では、
・地元の信用金庫やJAなどに未整理の借入がある
・地方銀行の支店が遠方にあり、照会に時間がかかる
といった地域的事情で調査に時間がかかることもあります。
熟慮期間(3か月)は延長申立ても可能ですが、放置していると自動的に単純承認となってしまうため、
早い段階で専門家に相談し、「放棄」「限定承認」「単純承認」のいずれを選ぶかを検討することが重要です。
まとめ
相続放棄には、
- 家庭裁判所を通した正式な相続放棄
- 相続人間の話し合いによる事実上の相続放棄
の2種類があります。
しかし、両者の効力はまったく異なります。
被相続人に借金がある場合は、必ず家庭裁判所での手続きを経なければ債務から解放されません。
一方、負債がないケースであれば、遺産分割協議により「事実上の相続放棄」を選択することも可能です。
ただし、どちらの方法を取るにしても、後からトラブルにならないように慎重な判断と記録の残し方が大切です。
東京都江東区や沖縄県那覇市では、家庭裁判所の窓口での相談も可能ですが、申述書の作成や相続関係の整理は行政書士が丁寧にサポートできます。
相続放棄は一度行うと原則として撤回できません。
「負債があるかもしれない」「放棄すべきか迷っている」という段階で、早めに専門家へご相談ください。

