3か月以内に相続の方法を決められないときの対処法〜「熟慮期間の伸長申立て」でトラブルを防ぐ〜

相続が始まると、相続人には「相続を受けるかどうか」を決める大きな選択が迫られます。
しかし、相続財産の中にはすぐに把握できないものも多く、3か月という短期間で判断するのは簡単ではありません。

預金、不動産、株式などのプラスの財産に加えて、借金や連帯保証などのマイナスの財産があるかもしれません。
このように、相続財産の内容が複雑な場合、期限内に判断できないまま3か月が過ぎてしまうと、思わぬ不利益を受けることがあります。

この記事では、相続方法を決めるための「3か月ルール」と、期限内に決められない場合の有効な対処法である熟慮期間の伸長申立てについて、東京都江東区および沖縄県那覇市での手続実務を交えながら詳しく解説します。

目次

1.相続の方法を決める「3か月ルール」とは?

相続が発生すると、相続人は次の3つの方法のいずれかを選ぶ必要があります。

  1. 単純承認
     すべての財産(プラス・マイナス含め)を引き継ぐ方法。特に手続きをしなくても、原則3か月が経過すれば自動的に単純承認になります。
  2. 限定承認
     相続で得た財産の範囲内でのみ借金を返済し、超える負債については支払義務を負わない方法。家庭裁判所への申立てが必要です。
  3. 相続放棄
     一切の財産(プラス・マイナスともに)を受け取らず、初めから相続人でなかったものとみなされる方法。こちらも家庭裁判所への申立てが必要です。

この3つのいずれを選ぶかは、「相続の開始を知ったときから3か月以内」に決めなければなりません(民法第915条)。
この3か月の期間を「熟慮期間(じゅくりょきかん)」といいます。

2.なぜ3か月で決める必要があるのか?

この3か月という期間は、被相続人の財産を確認し、
「相続すべきか」「放棄すべきか」を検討するために与えられた猶予期間です。

しかし実際には、財産調査に時間がかかるケースが多々あります。たとえば、次のような場合です。

  • 被相続人が複数の銀行に預金を持っており、照会に時間がかかる
  • 不動産登記簿や固定資産評価証明書の取得に日数を要する
  • 借金や保証契約の有無がすぐにわからない
  • 遠方にある資産・負債を確認する必要がある
  • 相続人が海外や別の地域(例:江東区の家族と那覇市の家族)に分かれており、連絡調整に時間がかかる

こうした状況では、3か月では到底判断できないことも少なくありません。

もし期限内に判断できず、そのまま3か月が過ぎてしまうと、単純承認(すべて相続)したとみなされることになります。
つまり、知らなかった借金や保証債務まで引き継いでしまう危険があるのです。

3.3か月で決められないときの救済制度「熟慮期間の伸長申立て」

このように、3か月以内に相続方法を決めることが難しい場合は、
家庭裁判所に対して「熟慮期間の伸長(しゅくりょきかんのしんちょう)」を申し立てることができます。

これは、相続人が「財産の内容を調べているが、3か月では決められない」という正当な理由を示せば、
家庭裁判所が期間を延長してくれる制度です。

4.熟慮期間の伸長申立ての手続き

(1)申立て先

被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
東京都江東区の方は「東京家庭裁判所(霞が関)」
沖縄県那覇市の方は「那覇家庭裁判所」がそれぞれの管轄となります。

(2)必要書類

  • 熟慮期間伸長申立書
  • 被相続人の戸籍謄本(死亡の記載があるもの)
  • 申立人(相続人)の戸籍謄本
  • 相続関係がわかる資料(戸籍のつながり)
  • 理由書(なぜ期間内に判断できないのかを説明)

(3)申立てのタイミング

熟慮期間の満了前に申立てなければなりません。
たとえば、相続開始を知った日が7月1日であれば、9月30日が期限です。
この場合、遅くとも9月下旬には申立て書を裁判所に提出する必要があります。

(4)審理と決定

裁判所が申立内容を確認し、「やむを得ない事情がある」と判断すれば、熟慮期間を一定期間延長します。
延長期間は一律ではなく、事情に応じて1か月〜3か月程度が多い傾向です。
ただし、状況により再延長も可能です。

5.熟慮期間の伸長が認められる主な理由

家庭裁判所が「相続財産の全体を把握するのに時間がかかる」と判断すれば、原則として伸長が認められます。
具体的には次のような事情です。

  • 被相続人の財産・負債の内容が不明確で、調査に時間を要する
  • 相続人が遠方や海外にいて、連絡や手続きが遅れている
  • 不動産や株式などの評価に時間がかかる
  • 銀行・保険会社への照会に回答まで日数を要している
  • 相続人間での意見調整が難航している
  • 相続人が高齢や病気などの理由で判断が遅れている

江東区や那覇市の場合、特に不動産関係の調査で時間がかかることが多くあります。
たとえば、江東区の区分マンションと、那覇市の実家の土地が両方遺産として存在するようなケースでは、
それぞれ別の役所・法務局・金融機関から資料を取り寄せる必要があるため、3か月では到底足りないこともあります。

6.申立てを怠るとどうなるか

もし熟慮期間内に申立てをせず、何の判断もしないまま3か月が経過すると、
法律上は自動的に「単純承認」したものとみなされます。

つまり、被相続人の借金や保証債務など、すべてを相続することになります。
たとえ「相続放棄するつもりだった」と主張しても、後から撤回することはできません。

相続放棄や限定承認は、あくまで熟慮期間内に家庭裁判所で申述しなければならないのです。

7.申立てを検討すべき典型的なケース

  • 被相続人が自営業をしていて、負債の規模が不明
  • 生命保険や未解約口座の存在が確認できていない
  • 被相続人の通帳や契約書類が見当たらない
  • 親が地方に住んでいて、財産の確認に時間がかかる
  • 相続人の中に行方不明者がいる
  • 相続人の間で協議が進まない

こうしたケースでは、まず熟慮期間の伸長申立てを行い、時間的余裕を確保することが最善策です。

8.まとめ 期限を過ぎる前に「申立て」という一歩を

相続の判断には時間がかかるものです。
しかし、法律は「3か月」という短い期間しか与えてくれません。

財産調査や相続人の確認に時間がかかる場合は、熟慮期間の伸長申立てを活用することで、落ち着いて正しい判断を下すことができます。

江東区や那覇市では、家庭裁判所の窓口での相談も可能ですが、申立書の作成や添付書類の準備は専門的な知識が求められます。
行政書士がサポートすることで、書類の不備や期限切れを防ぎ、確実に申立てを行うことができます。

「まだ相続財産が全部把握できていない」「借金があるかどうかわからない」といった状況では、
焦って決断せず、まずは熟慮期間の延長を検討しましょう。
時間を確保し、冷静に判断することが、後々の相続トラブルを防ぐ最善の方法です。

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