一般建設業から特定建設業へ移行する際に必要な準備と注意点について

目次

1.一般建設業から特定建設業への移行とは

建設業許可には「一般建設業」と「特定建設業」の2種類があります。
新規に建設業許可を取得する際は、多くの事業者がまず「一般建設業」を選択します。理由としては、許可要件が比較的緩やかであり、初期段階での事業運営に適しているためです。

しかし、事業が軌道に乗り、元請としてより大規模な工事を受注するようになると、「特定建設業」への移行が必要となる場面が出てきます。
特定建設業は、下請契約の金額が高額になる工事を元請として請け負うための許可であり、公共工事や大手民間工事の入札に参加するためには、特定建設業の取得が求められるケースが多いのが実情です。

たとえば、元請として一つの工事現場で下請契約金額の合計が4,000万円(建築一式工事の場合は6,000万円)を超えるような場合には、特定建設業許可が必要です。
この基準を超える工事を受注することを想定している場合、事前に特定建設業許可の取得を検討することが重要です。

2.特定建設業と一般建設業の違い

特定建設業と一般建設業の主な違いは、「専任技術者の要件」と「財産的基礎(経営事項審査に準ずる資本力等)」の2点です。

(1) 専任技術者の要件

一般建設業の場合、専任技術者は「実務経験10年」や「一定の国家資格(例:2級施工管理技士)」で足りますが、
特定建設業の場合はより高い専門性が求められます。
たとえば、次のいずれかを満たす必要があります。

  • 1級施工管理技士の資格を有する者
  • 国土交通大臣が指定する技術資格を持つ者
  • 指定学科を卒業後、一定の実務経験を有する者(通常5年以上)

つまり、専任技術者の選任には、より高度な資格または豊富な実務経験が必要となります。
特定建設業への移行を見据える場合、社内に1級施工管理技士等の人材を確保しておくことが、最初のハードルです。

(2) 財産的基礎の要件

特定建設業では、一般建設業よりも厳しい財務基準が設定されています。
申請時点で次のすべての条件を満たす必要があります。

  • 資本金が2,000万円以上
  • 自己資本が4,000万円以上
  • 直前の決算で負債超過でないこと
  • 流動比率が75%以上であること

このうち特に注意すべきは、「自己資本4,000万円以上」という要件です。
自己資本とは、貸借対照表上の純資産の金額であり、会社の経営体力を示す指標です。
黒字決算を続けて内部留保を増やす、または増資によって資本金を増やすなど、複数年にわたる計画的な財務改善が必要な場合があります。

3.移行のタイミングと準備期間

特定建設業許可を申請する際、審査では「直前期の決算書」に基づいて財務要件を判断します。
そのため、申請直前の決算で要件を満たしていない場合、許可を受けることができません。
この点が非常に重要です。

(1) 顧問税理士との連携が不可欠

特定建設業を見据える場合、少なくとも申請の1期前、できれば2~3期前から顧問税理士と相談し、財務内容の改善を図る必要があります。
自己資本比率を高めるための具体的な手段としては以下のような方法があります。

  • 利益計上による内部留保の積み上げ
  • 代表者や株主からの増資
  • 負債の圧縮(借入金の返済など)
  • 過剰な資産の処分による資金繰り改善

これらはすぐに達成できるものではないため、数年単位の準備期間を見込むことが現実的です。

(2) 申請の最適な時期を見極める

特定建設業許可は、「決算変更届」で提出した直前期の財務諸表が審査対象になります。
したがって、要件を満たした決算を組んだ直後のタイミングで申請するのが理想です。

決算の内容によっては、申請を数か月先送りして次期決算を待つ方が良い場合もあります。
たとえば、当期純利益が少なく自己資本比率が下がっている場合、増資を行って次期の決算で改善を確認したうえで申請する方が確実です。

4.申請手続きの流れ

特定建設業への移行は、「業種追加」や「般・特新規」の手続きとは異なり、既存の許可を基にした「般→特変更許可申請」となります。
基本的な流れは次のとおりです。

  1. 事前準備
    財務内容・専任技術者・役員構成などの確認を行い、要件を満たすことを確認します。
  2. 必要書類の収集
    ・決算書類(直前期)
    ・登記簿謄本
    ・技術者資格証・実務証明書
    ・役員全員の身分証明書・登記されていないことの証明書
    ・経営業務の管理責任者に関する証明書類
  3. 申請書作成・提出
    東京都の場合は「東京都都市整備局 建設業課」、沖縄県の場合は「土木建築部 技術・建設業課」が窓口です。
    提出後、書類審査および面談を経て、概ね1~2か月で許可が下りるのが一般的です。
  4. 許可取得後の注意
    許可後は、従前の一般建設業許可が特定建設業許可に切り替わるため、許可番号や有効期間は引き継がれます。
    また、毎期の「決算変更届」や5年ごとの「更新申請」は引き続き必要です。

5.技術者・経営業務管理責任者の確認

特定建設業では、専任技術者に加えて「経営業務の管理責任者」も審査対象となります。
経営業務管理責任者は、一定年数以上の経営経験が必要であり、
一般建設業と特定建設業で要件に大きな差はありませんが、役員や支店長など実質的な経営権限を有していることが求められます。

また、申請時には次の点にも注意が必要です。

  • 欠格要件(破産・禁固刑・暴力団関係など)に該当しないこと
  • 専任技術者が他社との兼務になっていないこと
  • 経営管理者や技術者の常勤性を証明できること(社会保険・給与支払い記録など)

これらの人的要件は、財務要件と同様に厳格に審査されます。

6.実務上のポイントとアドバイス

(1) 「申請直前に慌てない」ための事前計画

特定建設業許可は、資本金の増額や内部留保の積み上げなど、数千万円単位の準備が必要になるケースがあります。
したがって、早い段階で自社の財務状況を分析し、どの程度の期間で要件を満たせるか見通しを立てることが大切です。

(2) 人材確保を先に

専任技術者を確保できないと、財務面を整えても申請できません。
建設業は慢性的な技術者不足が続いており、特に1級施工管理技士は需要が高いです。
早期に資格者を採用・育成し、社内で将来の専任技術者候補を育てておくことが重要です。

(3) 江東区・那覇市での相談先

東京都江東区での申請は「東京都都市整備局 建設業課」へ、
沖縄県那覇市の場合は「沖縄県土木建築部 技術・建設業課」が所管窓口です。
どちらも申請前の事前相談に応じており、要件や書類の確認を行うことができます。
特に財務要件や技術者資格の細部については、事前確認を行うことで申請後の差し戻しを防げます。

7.まとめ

一般建設業から特定建設業への移行は、単なる「許可区分の変更」ではなく、
企業として次の成長段階に進むための大きな転換点です。

そのためには、

  • 専任技術者の確保
  • 財務体質の強化
  • 経営管理体制の整備
    という3つの柱を長期的に計画・準備していくことが不可欠です。

特定建設業を取得することで、より大規模な工事への参入や元請としての事業拡大が可能になります。
江東区・那覇市の地域特性に応じた工事受注のチャンスを広げるためにも、
早めに現状を見直し、無理のないスケジュールで移行準備を進めていくことをおすすめします。

建設業許可申請に精通した行政書士見山事務所までお気軽にご相談下さい。

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