外国に住んでいる相続人がいる場合の遺産分割協議書の作り方と注意点

相続のご相談の中で、近年特に増えてきているのが「相続人の中に外国に住んでいる方がいる」というケースです。

例えば、

  • 長男が海外赴任中でアメリカに住んでいる
  • 相続人の一人が国際結婚をして韓国に移住した
  • 海外にいる親戚が相続権を持っている

など、グローバル化が進む現代では、こうした相続も決して珍しくありません。

今回は、東京都江東区や沖縄県那覇市にお住まいの方で、相続人が外国に住んでいる、あるいは外国籍の相続人がいる場合に、「遺産分割協議書」をどのように作成すればよいか、実務に基づいた具体的な方法と注意点を丁寧に解説いたします。


目次

「外国人の相続人」がいても、相続手続きは可能?

まず、基本的な点ですが、相続人に外国人がいても、日本の相続手続きに大きな支障はありません。相続に関する基本的なルール(法定相続分や手続きの流れ)は、日本国内にある財産については「日本法」が適用されます。

つまり、相続人が外国籍であっても、または国外に住んでいても、相続手続きには日本の法律が適用されるため、問題なく相続人として権利を主張できます。

しかし、ここで問題となるのが、遺産分割協議書の形式と証明書類の取り扱いです。


遺産分割協議書とは?

相続が発生し、相続人が複数いる場合には、遺産の分け方を話し合う必要があります。この話し合いを「遺産分割協議」といい、その結果を書面にしたものが「遺産分割協議書」です。

この協議書には、相続人全員の署名・実印の押印と、印鑑登録証明書の添付が必要となります。これにより、「相続人全員がこの内容に同意しています」という法的な証明を整えるのです。

しかし、ここで大きな問題が生じます。


日本に住んでいない人は「印鑑登録証明書」が取れない!

印鑑登録証明書とは?

日本国内では、「実印(じついん)」という個人が役所に登録した印鑑と、それを証明する「印鑑登録証明書」をセットで使います。これは公的な契約書類や登記手続きなどで、本人の意思確認を裏付けるための非常に重要な書類です。

しかし、この印鑑登録証明書は「日本に住民登録がある人」でないと取得できません。

つまり、海外に長期滞在して住民票を抜いている日本人や、もともと外国籍で日本に住民登録がない方は、印鑑登録証明書を取得することができないのです。

では、どうすればよいのでしょうか?


「印鑑証明書の代わり」に使える書類とは?

サイン証明(署名証明)

日本の印鑑文化に対応できない国では、「サイン」が本人確認の手段となります。こうした国では、在住国の公的機関にて「サイン証明書(署名証明書)」を取得することで、印鑑証明書の代用が可能となります。

サイン証明の取得先(国によって異なります)

  • アメリカ:在米日本大使館や、Notary Public(公証人)
  • イギリス・カナダ:現地の公証人(Notary Public)
  • EU諸国:市役所、弁護士、公証人など
  • オーストラリア・ニュージーランド:公証人または在外公館

日本大使館・領事館でのサイン証明

海外在住の日本人であれば、日本大使館や領事館で「在外公証人制度」に基づき、サイン証明を取得することができます。これは、本人が署名したことを大使館・領事館が公的に証明するもので、日本国内の印鑑証明書と同等の効力を持ちます。

また、大使館では印鑑証明書の作成(条件付き)も可能です。海外で実印相当の印鑑を作成し、大使館に届け出ることで、日本の印鑑証明書と同様の扱いを受けることができます(※すべての公館で対応しているわけではありません)。


台湾・韓国などの「印鑑文化圏」の場合

台湾・韓国・中国など、一部アジアの国では日本と同様に印鑑文化があります。これらの国の印鑑登録制度に基づく現地の印鑑証明書を提出することで、日本の印鑑証明書の代用とすることが可能です。

ただし、日本の法務局や銀行等により扱いが異なるため、事前に提出先に確認することが非常に重要です。


遺産分割協議書へのサイン・証明の実務

遺産分割協議書に関して、外国に住む相続人の方には以下のステップをお願いすることになります:

  1. 遺産分割協議書の内容を確認・同意する
  2. 協議書に署名(サイン)
  3. 現地の公的機関でサイン証明を取得
  4. 協議書とサイン証明を日本へ返送

※国際郵便の遅延や翻訳が必要なケースもあるため、十分な期間に余裕を持って対応することが大切です。


実際によくあるご相談

◆ Q. 英語しか話せない外国籍の相続人がいて心配です…

→遺産分割協議書の英訳を添付することで、相続人が理解したうえで署名したことを証明できます。英語だけでなく、中国語、韓国語、スペイン語など多言語での対応も可能です。行政書士として、翻訳文の作成や公証対応もサポートいたします。

◆ Q. サイン証明を取るには現地で何をすればいいの?

→「公証人の前で署名をし、身分証(パスポート)を提示する」のが一般的な手続きです。大使館では予約が必要なことが多く、対応日も限られるため、早めに確認をしておくと安心です。


江東区・那覇市の方へ 海外に相続人がいる場合は専門家の力を借りましょう

江東区や那覇市では、都市部や国際空港に近いため、海外に居住するご家族・親族がいらっしゃる方も多いのではないでしょうか?

遺産分割協議書は一度作成してしまえば原則やり直しができません。また、印鑑証明書やサイン証明の不備により、相続登記や銀行の名義変更がストップしてしまうこともあります。

行政書士は、遺産分割協議書の作成から外国書類のチェック、公証人との連携、翻訳対応など、トータルでサポートが可能です。少しでも不安がある場合は、専門家に相談することをおすすめします。


まとめ 外国に住んでいても相続はできる! ただし準備と証明に注意

  • 相続人が外国に住んでいても、相続手続き自体は可能です。
  • 重要なのは、印鑑登録証明書の代わりになる「サイン証明書」の取得です。
  • 書類の不備や手続きの遅れを防ぐためにも、早めの準備と専門家のサポートを受けるのが安心です。

当事務所では、海外に相続人がいる相続手続きに特化した支援を行っております。
東京都江東区・沖縄県那覇市を中心に、全国対応も可能です。お気軽にご相談ください。

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