
1 遺言の限界とその背景
相続の場面で最もよく使われるのが「遺言書」です。遺言書を作成することで、自分が亡くなった後に「特定の財産を誰に相続させるか」を決めることができます。例えば「自宅の土地建物は長男に相続させる」「預金は妻に相続させる」といった指定が可能です。
しかし遺言には明確な限界があります。それは「一代限りの承継しか決められない」という点です。
仮に「自宅を妻に相続させ、その後は長男に承継させる」と記載しても、遺言の効力は自分の死後に一度だけ発揮されるため、妻の死後のことまでは拘束できません。妻が自宅を自由に処分したり、別の相続人へ承継したりすることは止められないのです。
このため「財産を自分の死後は配偶者に、その後は必ず子や孫に残したい」と考える方にとって、遺言書だけでは希望を完全に反映できないケースが多いのです。
2 家族信託という仕組み
こうした遺言の限界を補うのが「家族信託」です。
家族信託とは、信頼できる家族に財産を託し(=信託)、その財産の管理・承継方法を契約で細かく決めておく仕組みです。信託財産の所有権は受託者に移りますが、財産から生じる利益を受け取るのは「受益者」となります。
このとき、家族信託では「受益者を世代ごとに指定できる」点が大きな特徴です。
例えば以下のような契約を結ぶことが可能です。
- 委託者兼第一次受益者:父(自分)
- 第二次受益者:妻
- 第三次受益者:長男A
- 第四次受益者:長男Aの子(孫B)
こうして「自分の死後は妻が利益を受け、その妻が亡くなったら長男へ、その後は孫へ」という流れを事前に決めておけるのです。
つまり、家族信託は「自分の想いを世代を超えて反映できる財産承継の仕組み」と言えます。
3 実際の活用事例
沖縄県那覇市や東京都江東区では、次のような相談が多く見られます。
事例1 夫婦と一人息子のケース
夫(委託者)は那覇市に自宅を所有しています。夫は「私が亡くなったら妻に住み続けてもらいたい。その後は息子に相続させたい」と考えています。
遺言では「妻の次に息子へ」と定められませんが、家族信託なら以下の設計が可能です。
- 夫生存中:夫が受益者として生活費に活用
- 夫死亡後:妻が受益者として居住権や家賃収益を受け取る
- 妻死亡後:息子が最終的に所有権相当の利益を受ける
このように、夫の希望を確実に実現できます。
事例2 江東区の賃貸マンションを持つ家庭
父が賃貸マンションを所有しており、相続後も安定した収益を子孫に残したいと考えています。
信託契約では「父 → 母 → 長男 → 孫」と受益者を順に指定し、賃料収益が世代ごとに確実に承継されるよう設計できます。
この仕組みを使えば、資産が分散せず、将来の家族の生活基盤を守ることができます。
4 信託財産の所有権と受益権
ここで注意が必要なのは、信託で承継されるのは「所有権」ではなく「受益権」である点です。
受益者は財産を直接所有するのではなく、その財産から得られる利益(使用・収益・処分に基づく経済的利益)を享受します。所有権は受託者に移りますが、受託者はあくまで信託契約のルールに従って管理・運用する立場です。
そのため「一度承継人に渡った財産が勝手に売却される」といったリスクを抑えられるのが信託の強みなのです。
5 家族信託の設計ポイント
家族信託を設計する際には、次の点を明確にしておく必要があります。
- 受託者は誰にするか(管理能力と信頼性が重要)
- 受益者を何代先まで指定するか(2代先、3代先までが一般的)
- 財産の使途や管理方法をどう定めるか
- 信託が終了した後の最終帰属先をどこにするか
特に那覇市のように親族関係が濃い地域では、親族間の調整が重要です。一方、江東区のように核家族化が進んでいる地域では、受託者の選定や将来の管理体制が課題になることが多いです。
6 遺言との併用
家族信託を利用しても、遺言を併用することが望ましい場合があります。例えば信託に含めなかった財産(預金や日用品など)については遺言で指定しておくと円滑です。また、信託契約で漏れがないよう補完的に遺言を活用することで、全体としてスムーズな相続対策が可能となります。
7 費用感と実務上の留意点
家族信託の設計には専門家の関与が必要です。一般的な費用感は以下の通りです。
- 信託契約書の作成支援:30万円〜80万円程度
- 公証役場での公正証書作成費用:数万円〜十数万円
- 登記費用(不動産が信託財産の場合):登録免許税および司法書士報酬
遺言書の作成よりは高額になりますが、その分「複数世代にわたる財産承継」を実現できるという大きなメリットがあります。
実務上は、受託者の負担を減らす工夫(専門家によるサポート契約や監督人の設定など)も検討すると安心です。
8 まとめ
遺言ではできない「次の次の代」まで財産承継を指定できるのが家族信託の最大の特徴です。那覇市や江東区の方々からも、「配偶者の生活を守りつつ、その後は必ず子や孫に残したい」といった希望は多く寄せられています。
家族信託を活用すれば、自分の想いを世代を超えて確実に実現でき、相続トラブルを防止することもできます。遺言と組み合わせることでより万全な対策となりますので、早めに専門家へ相談されることをおすすめします。