
相続手続を進める際、多くの方が最初に疑問に思うのが「遺言書がある場合、遺産分割協議書は作成しなければならないのか」という点です。結論から言うと、遺言書の内容によって回答が変わります。遺言書がある場合でも、遺産分割協議書が必要となるケースがあり、また、不要となるケースもあります。ここでは実務に基づいて分かりやすく整理し、東京都江東区および沖縄県那覇市の事例を交えながら解説します。
1.遺言書がある場合の基本的な考え方
まず大前提として、遺言は遺産分割協議に優先します。法律上、被相続人の最後の意思が最大限尊重されるため、遺言が有効であれば、そのとおりに財産を分けるのが原則です。
例として、不動産を長男に相続させる、預金を長女に相続させる、というように、誰に何の財産を渡すかを明確に指定している遺言書があれば、遺産分割協議書は原則不要です。その遺言書を根拠にして、法務局や銀行で各種名義変更手続を進めることができます。
ただし、遺言書があるからといって、必ず遺産分割協議書が不要になるわけではありません。遺言書の内容次第で異なる対応が必要になります。
2.遺産分割協議書が不要となるケース
遺産分割協議書が不要となるのは、次のようなケースです。
1.遺言書が「誰に」「どの財産を」相続させるか、明確に記載されている
2.記載内容に相続人間の争いがない
3.遺言執行者が選任されている、または円滑に名義変更が可能である
この場合は遺言書を確認し、法務局や金融機関が求める書類を整えれば手続を進められます。
実務では以下の書類を準備します。
1.遺言書
2.被相続人の出生から死亡までの戸籍一式
3.相続人の戸籍
4.固定資産評価証明書(不動産登記の場合)
5.遺言執行者がいる場合はその資格証明書
不動産の場合には、固定資産評価証明書を取得し、法務局で登記申請を進める流れが一般的です。
3.遺産分割協議書が必要になるケース
遺言書があっても、次のような場合には遺産分割協議書の作成を検討することになります。
1.遺言書に「財産の一部しか記載がない」
2.遺言書が財産を特定できない内容になっている
3.遺言書が古く、新しい財産が記載されていない
4.遺言書が「遺産は相続人で話し合って決めること」という内容になっている
5.遺言書が有効性に疑問があり、相続人間で調整が必要な場合
特に、遺言書に不動産は書いてあるが預貯金が書かれていないというケースは非常に多く見られます。この場合、遺言書が示している財産については遺言に従って相続し、それ以外の財産については遺産分割協議を行い、その結果を遺産分割協議書にまとめる必要があります。
また、遺言書の文言が曖昧な場合(自宅を長男に渡す、など)では、登記官が財産特定できず申請が却下される可能性があります。この場合、協議書を作成し、補足説明として利用することで円滑に手続が進む場合があります。
4.遺言書がある場合でも注意すべきポイント
遺言書の有無だけでは判断できない、実務で非常に重要な点を整理します。
1.遺留分の問題
遺言書の内容が偏りすぎている場合、他の相続人から遺留分の請求を受ける可能性があります。この場合、協議書で調整しないと手続が進まないことがあります。
2.遺言執行者の有無
遺言執行者がいない場合は、相続人全員が手続に関与しなければならず、結果として協議書の作成が必要になることがあります。
3.財産調査の不足
遺言書に書かれていない財産が後から見つかることは珍しくありません。特に江東区、那覇市ともに不動産の権利関係が複雑なことがあり、漏れがないよう調査が重要となります。
5.まとめ
遺言書がある場合の遺産分割協議書は「必ず必要」でも「必ず不要」でもありません。遺言書の内容が明確で適切であれば協議書は不要ですが、財産が一部しか記載されていなかったり、特定できない記載になっている場合には協議書の作成が必要になります。
相続において最も大切なのは、書類の形式ではなく、将来のトラブルを防ぎ、相続人全員が納得できる形で財産を整理することです。遺言書を正しく読み取り、必要に応じて遺産分割協議書を併用することが、相続を円滑に進める最も現実的な方法と言えます。
江東区や那覇市で相続手続を検討される方は、財産調査、遺言の確認、登記手続など、状況に応じて早期の対策を取ることが非常に重要です。

