
相続が発生した後、相続人の方からよく聞かれる言葉の一つが
「まだ時間があると思っていた」
というものです。
相続税の申告・納付期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内と法律で定められています。一見すると余裕があるように感じられますが、実際の相続実務では、この10か月は決して長い期間ではありません。むしろ、何も考えずに過ごしていると、あっという間に期限が迫ってしまいます。
この記事では、相続税の申告期限を確実に守るために、どの時期に何をすべきか、スケジュール管理の考え方を中心に解説します。東京都江東区、沖縄県那覇市で相続を控えている方にとって、実務の全体像をつかむ参考になれば幸いです。
1.相続税申告の10か月はどこから始まるのか
まず確認しておきたいのは、10か月の起算点です。相続税の申告期限は、死亡日からではなく、「相続の開始があったことを知った日の翌日」から起算されます。通常は死亡日が基準になります。
この時点から、相続人の確定、財産調査、遺産分割協議、申告書作成、納税までをすべて完了させなければなりません。途中でどこかが止まると、期限に間に合わなくなるリスクが一気に高まります。
2.死亡後1か月以内に行うべきこと
相続発生直後の1か月は、今後の相続手続全体の土台を作る重要な期間です。
この時期に行う主な作業は次のとおりです。
1.死亡届の提出と火葬許可手続
2.遺言書の有無の確認
3.相続人の把握
4.金融機関への死亡連絡
遺言書が見つかった場合、公正証書遺言か自筆証書遺言かで手続が異なります。自筆証書遺言の場合は、家庭裁判所での検認手続が必要となるため、早めの確認が欠かせません。
この段階で「遺言があるかどうか」を確認しておくことで、後の遺産分割協議の進め方が大きく変わります。
3.2か月目から3か月目までに相続人を確定させる
相続税申告の前提となるのが、相続人の確定です。被相続人の出生から死亡までの戸籍をすべて取得し、誰が法定相続人なのかを確定させます。
江東区、那覇市ともに、本籍地が複数の自治体にまたがるケースは少なくありません。戸籍収集には想像以上に時間がかかることがあり、早めに着手しないと後半のスケジュールを圧迫します。
相続人が確定しなければ、遺産分割協議も相続税の計算も進めることができません。この作業は「できるだけ早く終わらせる」ことが重要です。
4.3か月目から5か月目で財産調査を進める
相続税申告において最も時間と労力を要するのが財産調査です。不動産、預貯金、有価証券、生命保険、借入金など、すべての財産と債務を洗い出す必要があります。
不動産については、固定資産税評価証明書の取得や登記事項証明書の確認が必要になります。江東区では複数の不動産を所有しているケース、那覇市では土地と建物の権利関係が複雑なケースも多く、調査に時間がかかりやすい傾向があります。
財産調査が不十分なまま遺産分割を進めてしまうと、後から財産が見つかり、協議のやり直しや修正申告が必要になることもあります。
5.5か月目から7か月目で遺産分割協議を行う
相続税は、誰がどの財産を相続するかによって税額が大きく変わります。そのため、遺産分割協議は申告期限を見据えて進めなければなりません。
この段階で注意すべきなのが、話し合いが長期化するリスクです。意見がまとまらない場合でも、申告期限は待ってくれません。
もし期限までに遺産分割が成立しない場合、原則として法定相続分で相続税を申告・納付する必要があります。後日、分割が成立すれば修正は可能ですが、手続の負担は大きくなります。
6.7か月目から9か月目で申告書作成と納税準備
遺産分割がまとまったら、相続税申告書の作成に入ります。この時期には、税額の試算、各種特例の適用可否の確認、納税資金の準備を進めます。
相続税は原則として現金一括納付です。不動産中心の相続では、納税資金をどう確保するかが大きな課題になります。必要に応じて、不動産の売却や金融機関からの借入を検討することになります。
7.10か月目は「余裕期間」ではない
多くの方が誤解しがちですが、10か月目は余裕期間ではありません。申告書の提出、納税、必要書類の最終確認など、実務的には最も忙しい時期です。
この段階でトラブルが起きると、期限内申告が難しくなり、加算税や延滞税のリスクが生じます。
8.まとめ
相続税の申告期限10か月は、計画的に動かなければ簡単に過ぎてしまいます。特に、相続人が複数いる場合や不動産が含まれる場合には、早期のスケジュール管理が不可欠です。
相続は「いつかやる手続」ではなく、「期限が決まっている手続」です。江東区、那覇市で相続を控えている方は、相続発生後すぐに全体像を把握し、段階ごとに進めていくことが、余計な負担やトラブルを防ぐ最大のポイントとなります。

