
相続手続きや遺産分割を進める際、相続人の中に「判断能力が不十分な方」や「未成年者」が含まれることがあります。このような場合、本人の代わりに手続きを行う人として「成年後見人」や「特別代理人」が関わることがあります。
しかし、これら二つは似ているようで大きく異なる制度です。
実務では間違えられやすく、東京都江東区や沖縄県那覇市でも「どっちを選ぶべき?」という相談が非常に多いテーマです。
本記事では、両者の違いや選ぶ基準を分かりやすく解説していきます。
1 成年後見人と特別代理人の制度の目的
まずは、それぞれの制度が何のために設けられているのかを押さえましょう。
1-1 成年後見人
成年後見人制度は、認知症・知的障害・精神障害などにより判断能力が十分でない成人の権利を守るための制度です。
目的:本人の財産管理や契約などで不利益が生じないよう保護すること
つまり、継続的に本人の生活と財産を支える制度です。
1-2 特別代理人
特別代理人は、未成年者が法律行為をする際、親権者と利益が対立する場合に代理を行う人です。
目的:未成年者が不当な不利益を受けないように、個別の法律行為を代理すること
こちらは一時的・個別の行為に限られる制度です。
2 どんな場面で必要になるのか
両者が登場する典型的な場面を比較します。
2-1 成年後見人が必要な主な場面
- 相続手続き(遺産分割協議・預金解約・不動産相続など)
- 不動産の売買
- 施設入居契約
- 預貯金の管理
- 書類の作成や契約行為全般
認知症が進んで自分で判断できない、書類に署名できないといったケースで選任されます。
2-2 特別代理人が必要な主な場面
典型例は遺産分割協議です。
例:
父が亡くなり、相続人が「母+未成年の子」の場合
母は子の法定代理人である一方、母自身も相続人
→ 利益相反が発生
→ 子の代わりに特別代理人を立てなければならない
なお、特別代理人は「その場限りの手続きだけを代理する」点が特徴です。
3 権限の広さ・継続性の違い
成年後見人と特別代理人の根本的な違いは、権限の広さと期間にあります。
3-1 成年後見人の権限
成年後見人は、本人の財産管理・契約行為など、広範囲かつ継続的な権限を持ちます。
・預金の管理
・契約書の作成
・財産の売却
・福祉サービス契約
など、本人の生活全般を支えます。
さらに、家庭裁判所の監督のもと、毎年収支報告が必要です。
3-2 特別代理人の権限
一方、特別代理人が扱えるのは家庭裁判所が許可した行為のみです。
たとえば、遺産分割協議の場合:
家庭裁判所へ提出した「遺産分割案」の範囲だけ代理でき、それ以外の行為はできません。
期間も短期で、該当の法律行為が完了したら役割も終了します。
4 選任してもらうための手続きの違い
4-1 成年後見人の申立先
・東京都江東区の方:東京家庭裁判所
・沖縄県那覇市の方:那覇家庭裁判所
申立書類も多く、医師の診断書(成年後見制度用)が必要になります。
4-2 特別代理人の申立先
同じく家庭裁判所ですが、診断書は不要です。
必要書類の中心は「遺産分割協議案」など、該当行為に関する資料となります。
5 選ばれる人の違い
5-1 成年後見人
・親族
・専門家(弁護士・司法書士など)
が選ばれますが、最近は親族が選ばれないケースも増えています。
理由:財産トラブルを避けるため、家庭裁判所が専門職を選任する傾向があるため
5-2 特別代理人
・親族
・弁護士
・司法書士
などが選任されますが、未成年者の利益が守れる人が優先されます。
特別代理人は一時的であるため、親族が選ばれることも比較的多いです。
6 費用の違い
6-1 成年後見人
・申立費用
・鑑定費用
・後見人への報酬(継続的)
月額2万円~5万円ほどの報酬が発生することもあります。
6-2 特別代理人
・申立手数料程度
・専門家が代理人となる場合のみ報酬が発生することもある
一般的には成年後見制度より費用負担は軽めです。
7 どちらを選ぶべきかの基準
判断基準は、その人が長期的に判断能力を欠くのか、今回の手続きのみ代理が必要なのかで決まります。
7-1 成年後見人が適しているケース
- 認知症が進行しており、判断能力が低下している
- 日常的な財産管理が必要
- 相続手続き以外にも支援が必要
自治体としては江東区も那覇市も、相談件数が多く、成年後見制度の利用を推奨しています。
7-2 特別代理人で十分なケース
- 未成年の相続人がいて、遺産分割協議の代理だけ必要
- 利益相反が発生するのが今回の手続きのみ
- 未成年者の生活全般の管理は不要
あくまでも単発の手続きのため、完了した後は代理人の役割も終了します。
8 江東区・那覇市での実務上の注意点
地域別に多い相談と注意点を紹介します。
8-1 江東区の特徴
・持ち家の不動産が遺産に含まれる
・親子同居世帯が多い
・預貯金と不動産の分け方で揉めるケースが多い
成年後見制度を利用する際は、不動産売却の際の家庭裁判所の許可が必要になるため、手続きが長期化しやすい点に注意が必要です。
8-2 那覇市の特徴
・本土に親族がいて手続きが分散しがち
・相続財産が土地・建物中心である
・高齢の親が認知症を発症しているケースが多い
特別代理人の申立ては比較的スムーズですが、成年後見が必要な場合は医師の診断書取得の負担が大きい傾向があります。
9 まとめ
成年後見人と特別代理人は、どちらも本人の利益を守るための制度ですが、役割も権限も大きく異なります。
・成年後見人
継続的に本人の財産管理・契約を行う制度
判断能力が低下している成人が対象
・特別代理人
未成年者が親権者と利益相反となる場面で、特定の行為だけを代理する制度
一時的・個別の手続きのみ
どちらを選ぶべきか迷った場合、状況の確認を丁寧に行い、本人の利益を最優先した制度選択が重要です。

