
建設業許可を取得した後、公共工事を請け負うために欠かせない手続きの一つが「経営事項審査(経審)」です。特に地方公共団体や国などが発注する公共工事に参加するには、この経審を受け、発注機関ごとの「入札参加資格審査申請」を行う必要があります。
経審は大きく分けて「経営状況」と「経営規模・技術力・社会性など」の2つの評価項目から構成されており、この記事ではその中でも最初に行うべき「経営状況分析」について詳しく解説していきます。
1. 経営事項審査(経審)とは
建設業者が公共工事に参加するためには、「この業者は信用に足る経営状態であり、一定の技術力を持っているか」を客観的に示す必要があります。それを点数という形で表すのが経営事項審査です。
経審の点数(いわゆる「P点」)は、以下のような項目から成り立っています。
- 経営状況(Y点)
- 経営規模(X点)
- 技術力(Z点)
- 社会性等(W点)
この中の「経営状況(Y点)」を算出するために行うのが「経営状況分析」です。
2. 経営状況分析とは何か?
経営状況分析とは、建設業者の経営の健全性や安定性を数値化して評価する手続きです。評価の内容は、企業の財務データ(貸借対照表・損益計算書など)に基づいて、以下のような8つの指標が算出されます。
評価指標(財務指標) | 内容の簡単な説明 |
純支払利息比率 | 借入金の負担がどれくらいか |
負債回転期間 | 借金をどれだけ早く返済しているか |
総資本売上総利益率 | 会社の資本に対する粗利益の効率性 |
売上高経常利益率 | 売上に対してどれくらい利益が出ているか |
自己資本対固定資産比率 | 固定資産への健全な投資か |
自己資本比率 | 会社の自己資本の比率(倒産リスクの目安) |
営業キャッシュフロー比率 | 本業による現金収入があるか |
利益剰余金 | 利益をどれだけ社内に蓄えているか |
これらの指標を総合して、Y点(経営状況評価点)が計算されます。点数は0点〜120点程度の範囲で推移し、一般的に60点を超えていれば健全な経営とされる傾向にあります。
3. 経営状況分析はどこに依頼するのか?
経営状況分析は、国土交通大臣の登録を受けた「登録経営状況分析機関」に依頼して行います。全国に十数の登録機関があり、代表的なものとして以下のような機関があります。
- ワイズ公共データシステム株式会社
- 株式会社ネットコア
- 一般財団法人建設業情報管理センター(CIIC) など
これらの機関は、分析手数料や提供サービス(例えばオンライン申請の使いやすさ、分析結果の早さ、サポート体制など)に違いがありますが、分析結果そのものはどの機関でもまったく同じです。
したがって、江東区や那覇市の業者さまは、自社にとって「申請しやすい」「書類提出が簡便」「サポートが手厚い」などの観点から、自由に選ぶことができます。
4. 経営状況分析を行うタイミングと必要書類
経営状況分析は、最新の決算に基づいて毎年実施するのが一般的です。これを行わないと、その後の「経審本審査」や「入札参加資格審査」に進めません。
必要書類の一例:
- 財務諸表(貸借対照表・損益計算書・完成工事原価報告書)
- 建設業許可通知書の写し
- 税務申告書の写し(法人税申告書・勘定科目内訳明細書など)
- 前年の経営事項審査結果通知書(あれば)
- 経審用のCD-Rや電子データ(分析機関による)
これらの書類を元に、指定の登録分析機関へ申請を行います。紙ベースでの郵送申請もありますが、現在では多くの機関で電子申請が主流となっており、郵送よりも早く結果が得られる傾向があります。
5. 分析結果の通知と次のステップ
登録機関に申請すると、通常1~2週間程度で「経営状況分析結果通知書」が発行されます。この通知書を受け取った後、次のステップとして「経営事項審査(本審査)」の申請に移行します。
つまり、公共工事に参加するための最終目的である「入札参加資格審査申請」を行うには、以下のような順序が必要となります。
6. 入札参加までの全体フロー
① 決算を締める
② 建設業許可の決算変更届を提出
③ 経営状況分析を申請(今回の主題)
④ 経営事項審査(本審査)を申請
⑤ 各発注機関への入札参加資格審査申請
経営状況分析から入札参加登録までには、少なくとも2〜3ヶ月、通常は5〜6ヶ月以上の期間が必要になります。したがって、余裕をもった計画が重要です。
7. 江東区・那覇市の業者の方へ:地域に応じた注意点
東京都江東区の事業者様へ
江東区を含む東京都の発注機関では、東京都入札参加資格審査(工事部門)への対応が必須です。東京都の審査受付は毎年一定の期間に集中して行われ、登録は基本的に2年ごとです。年末〜年明けの時期に経審を終えられるよう、スケジュール管理が大切です。
沖縄県那覇市の事業者様へ
沖縄県や那覇市も独自の入札制度を持っており、審査期間や登録の有効期限が異なるため、各自治体の公示をよく確認する必要があります。特に那覇市は入札情報サービスがWEBで提供されていますので、こまめな確認をおすすめします。
まとめ
「経営状況分析」は、公共工事を受注するための登竜門とも言える重要な手続きです。この分析をしなければ、その先の経審も入札参加資格審査も受けられません。
江東区・那覇市を拠点とする中小の建設業者さまにとっては、日々の工事に加えてこれらの申請業務は大きな負担になりがちですが、スケジュール管理と適切なサポート(たとえば行政書士の活用)によって、負担を減らすことも可能です。
公共工事への第一歩として、まずは自社の決算状況を確認し、余裕をもって「経営状況分析」に取り組んでみてはいかがでしょうか。