
相続が発生した際に必要となる手続きのひとつに「遺産分割協議書」の作成があります。しかし実際のところ、「遺産分割協議書って絶対に作らないといけないの?」「いつまでに作る必要があるの?」と疑問に思われる方も多いのではないでしょうか。
この記事では、東京都江東区や沖縄県那覇市にお住まいの方々に向けて、遺産分割協議書の必要性や作成時期について、専門家の視点から詳しく解説いたします。
結論 遺産分割協議書には義務も期限もない
まず最初に結論をお伝えします。
遺産分割協議書には、法律上「必ず作成しなければならない義務」や「いつまでに作成しなければならない」といった明確な期限は存在しません。
極端に言えば、被相続人(亡くなった方)が亡くなってから10年後に遺産分割協議を行うことも法律上は可能です。
しかし、「期限がないから」といって遺産分割協議書の作成を後回しにしてしまうと、さまざまなデメリットやリスクが生じる可能性があります。
遺産分割協議書とは?なぜ必要?
遺産分割協議書とは、相続人全員で話し合い、どの財産を誰が取得するのかを明確にし、それを文書として取りまとめたものです。相続人全員の署名と実印の押印が必要となります。
遺産分割協議書が必要となる主なケースは以下の通りです:
- 遺言書がない場合
- 遺言書があるが、全ての財産が記載されていない場合
- 遺言によらず、相続人全員で協議して分ける場合
法定相続分通りに分ける場合であっても、多くの手続きでは協議書の提出を求められることがあります。
遺産分割協議書の作成を先延ばしにするとどうなる?
① 名義変更ができない
相続財産のうち、預貯金や不動産などは、名義変更の際に遺産分割協議書の提出が求められることがほとんどです。
- 遺言書がある場合は、基本的にその内容に従って手続きが可能です。
- 遺言書がない場合は、名義変更には遺産分割協議書が不可欠です。
例えば、被相続人名義の不動産を売却したい場合、名義変更ができなければ売却もできません。また、預金口座も凍結されたままになり、解約・払戻しができません。
つまり、遺産分割協議書がなければ、相続財産を活用したり処分したりすることが事実上できなくなるのです。
② 相続税の申告に支障が出る
相続税が発生するご家庭では、もう一つ注意が必要な点があります。
相続税の申告・納付期限は「被相続人が亡くなった日から10か月以内」と法律で定められています。
この期限までに遺産分割がまとまっていない場合、いったん法定相続分に従って仮に申告・納税を行う必要があります。
その後、実際の分割が確定したら、再度申告し直すことになります。この際、「申告期限後3年以内の分割見込書」という書類を併せて提出すれば、実態に即した税額の修正が可能です。
しかし、初回の申告時に特例(配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例など)が使えない場合があり、一時的に高額な納税を余儀なくされるケースもあります。
③ 相続人の死亡によって相続関係が複雑化する(数次相続)
遺産分割協議が終わらないうちに、相続人の一人が亡くなってしまった場合、いわゆる「数次相続」が発生します。
たとえば、
- 父が亡くなった後、遺産分割協議が済んでいない状態で、
- 長男も亡くなってしまった場合、
本来は父の相続人だった長男の配偶者や子ども(長男の相続人)が、新たに遺産分割協議に参加しなければならなくなります。
これにより、
- 相続人の数が増える
- 関係が複雑になる
- 全員の実印と印鑑証明書が必要になる
- 協議の合意が難しくなる
といった手間やトラブルが発生するリスクが高くなります。
遺産分割協議書を作成するベストなタイミングとは?
上述の通り、法律上の期限は存在しないとはいえ、実務的にはできるだけ早く作成することが強く推奨されます。
特に以下のタイミングがベストです。
- 相続人全員の連絡がつく時点
- 相続財産の調査が完了した時点
- 相続税の申告が必要な場合は、10か月の期限に間に合うように
相続開始後の初期手続き(死亡届・年金や保険の手続き等)が一段落した頃から、遺産分割に向けた準備を始めるのが理想です。
江東区・那覇市の方へ 実際の手続きで注意すべきポイント
東京都江東区や沖縄県那覇市では、相続人が全国に散らばっていることも珍しくありません。以下のような点に注意してください。
- 印鑑証明書の取り寄せに時間がかかることもある
- 不動産が複数都道府県にまたがるケースでは管轄法務局が異なる
- 遺産分割協議書に不備があると、不動産の登記手続きが却下される可能性がある
専門家である行政書士や司法書士と連携して、正確な協議書を作成し、必要な添付書類も漏れなく準備することがスムーズな相続の鍵です。
まとめ 遺産分割協議書は早めの準備が安心
遺産分割協議書には法的な作成義務も期限もありませんが、作成を先延ばしにすることには多くのデメリットが伴います。
- 名義変更ができない
- 相続税申告で不利益を受ける
- 相続人の死亡により相続関係が複雑化する
これらのリスクを回避するためには、相続開始後、できるだけ早い段階で協議を整え、文書化しておくことが最善策です。
ご家庭の事情に応じて、行政書士などの専門家の助言を受けながら、円滑でトラブルのない相続手続きを進めていきましょう。