特別寄与料請求の実務〜相続人以外でも報われる「介護・貢献」の法的評価〜

目次

1. はじめに 介護をしても相続できない理不尽さをなくすために

被相続人の介護や生活支援を長年続けてきたのが「相続人ではない家族」だった場合、これまでの制度ではその労苦が相続に反映されませんでした。
たとえば次のようなケースです。

  • 長男の妻が義父を10年間介護してきた
  • 内縁の配偶者が長年、被相続人を支えてきた
  • 孫が祖父母の生活を経済的に支援してきた

これらの人は相続人ではないため、被相続人の死亡後は一切の見返りを受け取れないのが原則でした。
こうした不公平を是正するため、2019年7月の民法改正により新設されたのが、特別寄与料請求制度(民法1050条)です。

この制度により、相続人以外であっても被相続人の財産維持・増加に特別な貢献をした場合、相続人に対して金銭を請求できるようになりました。

2. 寄与分との違い

まず、従来からある「寄与分」との違いを明確にしておきましょう。

項目寄与分特別寄与料
対象者相続人相続人以外(親族など)
根拠条文民法903条民法1050条
請求先他の相続人相続人全員
手続き遺産分割協議の中で主張相続開始後に独立して請求可能
効果相続分が増加金銭の支払いを受ける

つまり、寄与分は相続分の調整特別寄与料は金銭請求権の発生という違いがあります。
特別寄与料は「相続人でないため相続分を増やすことはできないが、その労苦をお金で補う」制度といえます。

3. 特別寄与料が認められる要件

民法1050条によると、次の要件をすべて満たす必要があります。

  1. 被相続人の財産の維持または増加に特別の寄与をしたこと
  2. 寄与の内容が無償で行われたこと
  3. 寄与を行った者が相続人でないこと
  4. 相続開始後に相続人へ請求すること

この「特別の寄与」とは、単なる家族的な扶助を超えた貢献であり、被相続人の財産的価値を保ったり増やしたりした行為を指します。

4. 特別寄与料が認められる具体例

(1)長期間の介護・看護

被相続人が高齢や病気のため介護を必要としていた場合に、相続人でない家族(たとえば長男の妻、孫、甥姪など)が長年介護を行ったケース。
介護施設を利用していれば支出が必要だったことを考慮し、その代替的価値が評価されます。

(2)生活・家業の援助

被相続人の事業(飲食店、農業、不動産管理など)を長年手伝い、財産の維持や収益向上に貢献した場合。

(3)経済的支援

被相続人の医療費や生活費を継続的に援助していた場合も、特別寄与と認められる可能性があります。

(4)その他、特別な労務提供

たとえば、被相続人の不動産の維持管理を無償で続けていたような場合なども該当することがあります。

5. 特別寄与料の金額はどう決まるのか

法律上、金額の明確な算定基準は定められていません。
実務上は、介護や労務提供の内容を金銭的に評価し、「同様のサービスを有償で依頼した場合の費用」を目安に計算します。

算定例(介護の場合)

  • 介護期間:8年間
  • 平均1日3時間程度の介護
  • 介護サービスの時給換算:1,200円

1,200円 × 3時間 × 365日 × 8年 = 約1,050万円

ただし、相続財産の総額や寄与の程度によって減額されることもあります。
裁判所の実務では、おおむね数百万円〜1,000万円前後が認められることが多い傾向です。

6. 特別寄与料請求の手続きの流れ

(1)請求できるタイミング

相続開始(被相続人の死亡)後に行います。
相続開始前には、請求権はまだ発生していません。

(2)請求の方法

まずは、相続人全員に対して「特別寄与料の支払いを求める旨」を通知します。
この段階では内容証明郵便を用いるのが望ましいです。

その後、話し合い(任意の協議)で金額や支払い方法について合意できれば、「特別寄与料に関する合意書」を作成して解決します。

(3)協議がまとまらない場合

家庭裁判所に「特別寄与料の調停」を申し立てます。
調停で合意に至らない場合は、審判に移行し、裁判所が金額を決定します。

(4)時効

特別寄与料請求権には明確な期間制限は定められていませんが、
実務上は相続開始後 1年以内 に請求するのが望ましいとされています。
時間が経つほど、介護等の証拠が失われやすくなるためです。

7. 実務上のポイント

(1)記録と証拠の確保が最重要

介護記録、出勤簿、医療機関の通院履歴、介護用品の購入記録など、
「いつ・どの程度・どのような支援を行ったか」を裏付ける資料を整理しておくことが大切です。

(2)相続人との関係性を考慮

請求は感情的な摩擦を生むことがあります。
突然「お金をください」と言うよりも、貢献内容を丁寧に説明し、
「法に基づく正当な補償」であることを理解してもらうことが大切です。

(3)専門家への相談を活用

行政書士や弁護士に依頼することで、請求書や証拠資料の整理、家庭裁判所への申立書作成などがスムーズに進みます。

8. 江東区・那覇市における特別寄与料の相談傾向

東京都江東区の場合

江東区では、高齢化の進行とともに、嫁や婿による在宅介護が増えています。
介護サービスが整っている一方、在宅介護を選択した場合の家族の負担は大きく、
相続後に特別寄与料を請求するケースが増加傾向にあります。
証拠資料として「介護認定書」「ケアマネージャーの記録」「介護日誌」が有効です。

沖縄県那覇市の場合

那覇市では、親族間のつながりが深く、同居家族による介護・生活支援が一般的です。
しかし「家族だから当然」として金銭的補償を求めにくい風潮もあり、
特別寄与料の請求をためらう方も少なくありません。
この制度は、そうした「家族の善意を正当に評価する仕組み」として活用する価値があります。

9. 特別寄与料と他制度との関係

(1)遺贈との違い

遺言書による遺贈は、被相続人の意思による財産移転です。
一方、特別寄与料は被相続人の意思に関係なく、法律上の請求権として認められる点で異なります。

(2)寄与分との関係

相続人が寄与分を主張するのに対し、相続人以外が特別寄与料を請求します。
双方が存在する場合、それぞれが独立した評価対象となります。

10. まとめ 家族の思いやりを「権利」として守るために

特別寄与料請求制度は、家族の中で「無償の愛情や支援」をしてきた人が報われるための重要な制度です。
かつては「介護しても相続できない」という理不尽な結果になることが多くありましたが、
今では法的にその貢献を正当に評価できるようになりました。

実務上は、感情的な対立を避けつつ、記録や証拠を整え、
冷静かつ丁寧に主張していくことが大切です。

江東区・那覇市のいずれにおいても、家族が支え合う文化が根付いています。
その努力が相続の場で適切に報われるよう、制度を理解し、早めに準備しておくことをおすすめします。

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