限定承認と相続財産管理人制度の使い分けについて〜負債のある相続にどう対応すべきか〜

目次

1. はじめに  相続には「プラスの財産」だけでなく「マイナスの財産」もある

相続というと、預金や不動産などの「財産を引き継ぐ」イメージが強いですが、実際には借金や未払金などの「負債」も相続の対象になります。
被相続人に借入金や税金の滞納がある場合、相続人は原則としてそれらの債務も引き継がなければなりません。

このようなときに活用できるのが、限定承認相続財産管理人制度の2つです。
どちらも「負債がある場合の救済制度」ですが、目的や申立てのタイミング、効果には大きな違いがあります。

この記事では、この2つの制度の違いと、実務上どちらを選ぶべきかを詳しく解説します。

2. 限定承認とは何か

限定承認とは、民法922条以下に規定された制度で、
「相続によって得たプラスの財産の範囲内でのみ、マイナスの財産(債務)を引き継ぐ」という手続きです。

簡単に言えば、相続財産の範囲を限って責任を負う制度です。
通常の「単純承認」では借金もすべて相続することになりますが、限定承認をすれば自分の財産から債務を支払う必要はありません。

限定承認の主な特徴

(1)相続人が複数いる場合は、全員で申立てが必要
(2)被相続人が亡くなったことを知ってから3か月以内に家庭裁判所へ申述
(3)相続財産を調査し、債権者に公告・弁済を行う
(4)残った財産があれば、相続人が受け取る

限定承認が有効なケース

・負債があるか不明な場合(例えば事業をしていた方の相続)
・不動産など、価値のある資産もあるため相続放棄はしたくない場合
・マイナスとプラスのどちらが多いか判断できないとき

3. 相続財産管理人制度とは何か

一方の相続財産管理人制度は、相続人がいない場合や、相続放棄がされた後に残った財産を処理するための制度です。
民法951条に基づき、家庭裁判所が選任します。

相続財産管理人の役割

・相続財産を調査し、目録を作成
・債権者や受遺者へ公告して請求を受け付ける
・財産の換価・清算を行い、債権者に弁済
・残余財産があれば、最終的に国庫に帰属させる

相続財産管理人制度が利用される主なケース

・すべての相続人が相続放棄した
・相続人が存在しない(血縁が絶えた)
・相続人が不明で、誰も手続をしない
・相続放棄後に、債権者や利害関係人が財産清算を求める

4. 限定承認と相続財産管理人制度の主な違い

この2つの制度は、似ているようで根本的な目的が異なります。
以下に主要な違いを整理します。

比較項目限定承認相続財産管理人制度
主な目的相続人が負債の責任を限定して相続する相続人がいない財産を清算する
手続開始の主体相続人債権者・利害関係人など
申立て時期被相続人死亡を知ってから3か月以内相続放棄後または相続人不存在が判明した後
財産の所有者相続人(限定的に)相続財産そのもの(相続人不在)
財産の行方残余があれば相続人へ残余があれば国庫へ
管理者相続人自身家庭裁判所が選任する管理人
実務負担相続人が公告・弁済などを実施管理人が調査・換価・弁済を実施

5. どちらを選ぶべきかの判断基準

(1)相続人がいる場合

まず、相続人が存在する場合には、限定承認の検討が優先されます。
たとえ負債があっても、限定承認によってリスクを限定しつつ、プラス財産を確保することができます。

ただし、相続人全員が合意して家庭裁判所へ申立てる必要があるため、家族間の意思統一が欠かせません。

(2)相続人がいない、または全員が相続放棄した場合

この場合は、相続財産管理人制度の出番です。
債権者や受遺者などの利害関係人が、家庭裁判所に管理人選任の申立てを行います。
管理人が選任されると、財産調査・公告・換価・弁済などが順に進められ、最終的に残余財産は国庫に帰属します。

(3)不動産や事業資産を残したい場合

もし被相続人の遺産に、価値のある不動産や事業資産がある場合には、限定承認の方が有利です。
管理人制度では財産は最終的に清算されてしまうため、残すことはできません。

6. 江東区・那覇市での実務上のポイント

東京都江東区では、都市部特有のケースとして「マンションの一室が被相続人名義のまま放置されている」問題があります。
限定承認によって売却・清算することが可能ですが、相続人が放棄してしまうと、管理人制度での清算に移行します。
江東区内の家庭裁判所(東京家庭裁判所)では、こうした都市型の事例が頻繁に取り扱われています。

一方、沖縄県那覇市では、土地が未登記であったり、祖先名義のまま長期間放置されているケースが多く見られます。
このような場合、限定承認で相続人が登記名義を整えることができる一方、全員が放棄すると相続財産管理人が土地を調査・処分することになります。
実務上は、那覇地方裁判所での管理人選任申立てが必要です。

7. 実際の流れの違いをイメージで理解する

限定承認の流れ

  1. 相続人全員で申立て
  2. 家庭裁判所の審理・受理
  3. 相続財産の調査
  4. 債権者公告・弁済
  5. 残余財産を相続人に分配

相続財産管理人制度の流れ

  1. 債権者・利害関係人が申立て
  2. 家庭裁判所が管理人を選任
  3. 財産調査・公告
  4. 債権者への弁済
  5. 残余財産を国庫へ帰属

このように、限定承認では「相続人が財産を守りつつ清算する」のに対し、相続財産管理人制度は「誰も引き継がない財産を国が整理する」という性格を持ちます。

8. まとめ  制度の目的を見極めることが大切

両制度の最大の違いは、「誰が財産を最終的に引き継ぐのか」という点にあります。
・財産の一部を残したい場合 → 限定承認
・誰も相続しない場合 → 相続財産管理人制度

相続財産に借金や税金の滞納があると、感情的に「放棄した方が安心」と考えがちですが、
安易な放棄によって大切な不動産や事業資産を失うこともあります。

まずは財産の全体像を調査し、どちらの制度を使うのが適切かを冷静に判断することが大切です。
実際の手続きには家庭裁判所への申立書作成や公告・弁済などが伴うため、行政書士や弁護士など専門家の支援を受けながら進めるのが確実です。

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