
建設業を営むうえで「建設業許可を持っていること」は、信用力を示すうえで非常に重要です。
しかし一方で、「うちは小規模だから」「最近は工事を受けていない」という理由から、許可の維持を迷う事業者の方も少なくありません。
実際、建設業許可は“常に必要”というわけではなく、工事の内容や金額によっては「許可がなくても施工できるケース」もあります。
この記事では、建設業許可が不要な軽微工事の範囲、許可を維持するメリット・デメリット、そして廃業届を出すべきタイミングについて、実務的に分かりやすく整理します。
1. 建設業許可が不要な「軽微工事」とは?
建設業法では、一定の小規模工事については「建設業許可を持っていなくても施工できる」と定められています。
これを「軽微な建設工事」といい、具体的には次のとおりです。
(1)建築一式工事の場合
1件の請負代金が 1,500万円未満(税込)、
または延べ面積が 150㎡未満の木造住宅 の工事。
(2)建築一式工事以外のすべての工事(専門工事など)
1件の請負代金が 500万円未満(税込) の工事。
この基準以下の工事であれば、建設業許可を取得していなくても請け負うことができます。
たとえば、小規模な外壁補修や住宅の簡易リフォーム、エアコン設置工事などは、金額や内容によっては許可不要で施工可能です。
ただし、金額の範囲内であっても「公共工事」や「元請からの下請契約で許可業者が求められる場合」などでは、実質的に許可がないと取引が難しいことが多いため注意が必要です。
2. 許可を維持するメリットとデメリット
軽微工事しか行っていない場合でも、「許可を持ち続けるか、それとも廃業するか」は慎重に判断すべきです。
ここでは許可を維持する場合の主なメリットとデメリットを整理します。
メリット
- 取引先からの信用を維持できる
建設業許可は、法的な信頼の証です。特に元請や官公庁との取引では「許可業者であること」が条件になることも多く、許可を維持していることで安定した受注につながります。 - 公共工事や大規模案件への参入が可能
建設業許可がないと入札資格を得られないため、公共工事を視野に入れている場合は、許可を継続することが将来的なビジネスチャンスになります。 - いざというときの機動性が高い
一度廃業すると、再取得には再び要件の確認・書類作成・審査などの手続きが必要です。
「今は小規模でも、将来的に拡大する可能性がある」という場合は、維持しておく方がスムーズです。
デメリット
- 維持のための事務負担とコストがかかる
毎年度の「決算変更届(営業報告)」、5年ごとの「許可更新申請」などが必要で、これらの書類作成には手間と費用がかかります。 - 社会保険加入義務などの法的負担が発生する
建設業許可業者は社会保険の加入が義務化されており、保険料の負担が続きます。小規模事業者にとっては、この固定費が負担になることもあります。 - 廃業手続きを怠ると、更新時にトラブルになる
許可を維持していると、更新や報告を怠った場合に「許可失効」や「指導対象」になることがあります。活動実態がない場合は、適切に廃業届を提出した方が良いケースもあります。
3. 廃業届を出すべきタイミング
建設業許可を返上する「廃業届」には、一部廃業と全部廃業があります。
どちらを選ぶかは、今後の事業方針によって判断します。
(1)一部廃業
複数の業種で許可を受けているうち、特定の業種だけ不要になった場合に提出します。
たとえば、電気工事業と内装仕上工事業の両方で許可を受けていた事業者が、電気工事をやめる場合などです。
他の業種の許可はそのまま維持できるため、柔軟な選択が可能です。
(2)全部廃業
すべての許可を返上する場合です。
事業そのものを縮小・停止する場合や、代表者の高齢化、後継者不在などで建設業を辞める場合に該当します。
また、個人事業主が亡くなられた場合にも、相続人が「建設業許可廃業届」を提出する必要があります。
4. 廃業届の提出先と提出期限
建設業許可の廃業届は、
- 東京都の場合:東京都都市整備局 市街地建築部 建設業課
- 沖縄県の場合:土木建築部 技術・建設業課
へ提出します。
提出期限は「廃業の日から30日以内」とされています。
遅れて提出しても受理されますが、行政上の記録では“期限超過”となるため、早めの届出が望ましいです。
提出書類は以下のような内容になります。
- 廃業届書(指定様式)
- 許可証(原本)
- 登記事項証明書(法人の場合)
- 代表者の印鑑証明書 など
5. 廃業後に再度建設業を始めたくなった場合は?
「しばらく休業するつもりで廃業届を出したが、再び建設業を始めたい」
このようなケースでは、新規申請として改めて建設業許可を取り直すことになります。
以前の許可情報は引き継がれないため、経営業務管理責任者・専任技術者・財務要件などを再度満たす必要があります。
ただし、過去に許可を受けていた実績や提出資料を残しておけば、再申請の際に手続きがスムーズになります。
6. 許可維持と廃業の判断基準
最後に、実務上よくある判断の目安を整理しておきます。
| 状況 | 許可維持を推奨 | 廃業届提出を検討 |
| 元請からの仕事が今後もある | ○ | - |
| 公共工事・入札に参加予定 | ○ | - |
| 現在は軽微工事のみだが将来拡大予定 | ○ | - |
| 建設業の売上が数年ゼロ | - | ○ |
| 代表者の高齢・後継者不在 | - | ○ |
| 別業種に転換予定 | - | ○ |
このように、廃業はあくまで「撤退」ではなく、「現状に応じた選択肢のひとつ」です。
将来の再取得を視野に入れながら、今の経営状況と照らして判断することが大切です。
7. まとめ
建設業許可は、事業の信用を支える大切な制度ですが、すべてのケースで維持が必要なわけではありません。
軽微工事を中心とした小規模事業者の場合、許可維持のためのコストや事務負担が経営を圧迫することもあります。
一方で、公共工事や元請との取引を継続するなら、許可を持ち続けることが大きな武器になります。
重要なのは、「今後の事業の方向性」を見据え、必要に応じて適切な届出・手続きを取ることです。
東京都江東区では「東京都都市整備局 建設業課」、
沖縄県では「土木建築部 技術・建設業課」が相談窓口となっています。
不明点がある場合は、早めに相談し、無理のない形で許可維持または廃業の判断を進めていきましょう。
建設業許可申請に精通している行政書士見山事務所までお気軽にご相談下さい。

