
相続が発生しても、誰も財産を受け取る相続人がいない場合、遺産は最終的に国に帰属します。
しかし、単純に「相続人がいない=すぐ国のものになる」というわけではありません。家庭裁判所による手続や公告、特別縁故者への分与など、いくつかの段階を経て最終的に国庫へ帰属します。
今回は、相続人がいない場合に遺産がどのように処理されるのか、その流れを実務的な観点から詳しく解説します。
1.「相続人がいない」とはどのような状態か
相続人がいないとは、被相続人(亡くなった方)に法定相続人となるべき人が存在しない、または全員が相続を放棄した状態を指します。
民法上の相続人は、次の順序で決まります。
- 配偶者(常に相続人になる)
- 第1順位:子(子が死亡していれば孫などの直系卑属)
- 第2順位:父母などの直系尊属
- 第3順位:兄弟姉妹(兄弟姉妹が死亡していれば甥・姪)
このいずれにも該当する人がいない、または全員が相続放棄をした場合、相続人不存在とされます。
特に高齢化が進む現代では、身寄りのない高齢者が亡くなるケースも増えており、相続人不存在の事案は年々増加しています。
2.相続人がいない場合の第一歩、相続財産管理人の選任
相続人がいない場合、まず家庭裁判所に「相続財産管理人の選任申立て」を行います。
この申立ては、利害関係人(債権者・遺言執行者・内縁の配偶者など)や検察官が行うことができます。
選任された相続財産管理人は、被相続人の財産を保全・管理し、債務を弁済するなどの職務を担います。
管理人には、弁護士や司法書士、行政書士などの専門職が選任されることが一般的です。
管理人の主な職務は以下の通りです。
- 被相続人の財産の調査・把握
- 債権者・受遺者への通知および公告
- 債務の弁済、遺言執行など必要な処理
- 特別縁故者の申立て対応
- 国庫帰属に向けた手続の準備
3.債権者や受遺者への公告と清算手続
相続財産管理人が選任されると、家庭裁判所は官報などを通じて公告を行い、債権者や受遺者に対して一定期間内に請求を申し出るよう通知します。
公告期間は、通常2か月以上です。
もし被相続人に借金があった場合、この期間中に債権者が届け出を行い、管理人が遺産から支払うことになります。
反対に、受遺者(遺言により財産を受け取る人)がいれば、その遺言の内容に従って財産が引き渡されます。
債務の支払いや遺贈の履行などを終えた時点で、残った財産が「清算後の相続財産」として次の段階に進みます。
4.特別縁故者への財産分与
相続人がいない場合でも、被相続人の生前に特別な関係にあった人がいることがあります。
たとえば、長年介護をしていた人、生活を共にしていた内縁の妻(夫)、あるいは生前に経済的な援助をしていた人などです。
このような人は、「特別縁故者」として家庭裁判所に財産の分与を申立てることができます(民法958条の3)。
申立てができる期間は、相続人不存在の公告が終わってから3か月以内です。
この期間を過ぎると申立ては認められなくなります。
裁判所は、
- 被相続人との関係の深さ
- 財産形成や生活への貢献の程度
などを考慮し、分与を認めるかどうかを判断します。
特別縁故者に認定されれば、裁判所の決定に基づき、相続財産管理人から相応の財産が交付されます。
5.特別縁故者がいない場合、国庫への帰属
特別縁故者への分与申立てがない、または棄却された場合、相続財産管理人は残余財産を国庫に引き渡します。
これが、いわゆる「相続人のいない遺産は国のものになる」という状態です。
この段階で、管理人の職務は終了し、家庭裁判所に終了報告が提出されます。
6.国庫帰属の実務上の流れ(まとめ)
相続人がいない場合の財産の流れを、時系列で整理すると次のようになります。
- 相続発生
- 相続人の不存在が確認される
- 家庭裁判所に相続財産管理人選任を申立て
- 相続財産管理人が財産を調査・公告を実施
- 債務・遺贈の処理
- 特別縁故者がいれば分与申立て(公告終了後3か月以内)
- 分与がなければ、残余財産を国庫に帰属
- 管理人が職務を完了・報告して終了
7.注意すべき実務ポイント
相続人不存在の場合、家庭裁判所の判断と公告が中心となるため、手続には時間がかかります。
特に以下の点に注意が必要です。
- 相続財産管理人の選任には費用(数十万円前後)が必要
- 公告期間など、すべて裁判所の監督下で進むため数か月~1年以上かかることもある
- 相続財産の中に不動産がある場合、管理・処分には専門知識が求められる
被相続人と関係のあった人が財産を受け取りたい場合は、特別縁故者として申立てを行う必要があり、タイミングを逃すと財産を受け取る権利を失ってしまいます。
8.まとめ 身寄りのない方の遺産は「手続によって整理される」
相続人がいない場合でも、遺産は法に基づき順序立てて処理されます。
相続財産管理人が中心となり、債権者・受遺者・特別縁故者への対応を経たうえで、最終的に国庫へ帰属します。
ただし、被相続人が遺言書を残していた場合には、財産の行方を自ら指定することができます。
たとえば、信頼できる知人や公益法人、自治体などに寄附することも可能です。
「自分に相続人はいない」と感じている方は、生前に遺言書を作成しておくことで、財産の意思を反映させることができます。
一方、身近な人が亡くなり相続人が見当たらない場合は、早めに家庭裁判所への相談や専門家への依頼を検討しましょう。
生前・終活相談、遺言作成、相続手続きに精通した行政書士見山事務所にお気軽にご相談下さい。

