
1. はじめに 長年の介護や支援は相続でどう評価されるのか
相続の場面では、「自分は長年親の面倒を見てきたのに、他の兄弟と同じ相続分では納得できない」と感じる方が少なくありません。
被相続人の介護や看護、または事業の手伝いを長期間続けてきた人が、そうでない人と全く同じ割合で財産を受け取るのは、感情的にも不公平に思えることでしょう。
このような不公平を調整するために、民法では「寄与分(きよぶん)」という制度が設けられています。
寄与分とは、生前に被相続人の財産の維持や増加に特別な貢献をした相続人に対し、その貢献度を考慮して相続分を増やす制度です。
この記事では、寄与分の法律的な考え方から認められる具体例、実際の手続きの流れまでを詳しく解説します。
2. 寄与分が認められる理由と法律の考え方
民法903条には、次のように規定されています。
「共同相続人の中に、被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした者があるときは、
その者の寄与に応じて、被相続人の財産の分配において、相続分を増加することができる。」
つまり、相続分の公平を図るために、
・特別な貢献をした相続人
・そうでない相続人
の差を調整する目的で寄与分が認められているのです。
寄与分の制度がなければ、例えば「親の介護を20年間続けた長女」と「一切関わらなかった長男」が同額を受け取ることになり、不公平が生じます。
法律は、このような不公平を防ぎ、「家族内での正当な評価」を行うために寄与分制度を定めています。
3. 寄与分が認められる具体的なケース
寄与分として認められるのは、一般的な親子の扶養義務や同居生活を超えた「特別な貢献」がある場合に限られます。
以下のような事例が典型です。
(1)事業への貢献
被相続人が経営していた会社や店舗を、無報酬または低報酬で長年手伝っていた場合。
例:家業の建設業を支え、被相続人の財産形成に大きく貢献した。
(2)療養看護
病気や高齢で介護が必要だった被相続人の世話を、長期間にわたって行った場合。
例:介護施設に入れず自宅で10年以上介護した。
(3)財産の維持・増加への寄与
被相続人の不動産の修繕・管理、賃貸経営の手伝い、税金や借入金の返済援助を行った場合。
(4)金銭や資産の提供
被相続人の生活費や医療費を負担していた場合、または債務の肩代わりをした場合。
このような行為が、単なる「親孝行」や「生活上の援助」を超え、被相続人の財産に実質的なプラスの効果を与えた場合に、寄与分として認められる可能性が高くなります。
4. 寄与分の金額はどう決まるのか
寄与分の金額は、被相続人の財産の増加や維持にどれだけ貢献したかを基準に算定されます。
たとえば、介護を長期間続けた場合には、同様の介護サービスを利用した場合の費用(例:訪問介護・施設介護の費用)を参考に評価されることがあります。
具体的な算定方法の一例
・介護サービスを10年間、週5日行っていた
・1日あたりの相当額を8,000円とすると
→ 8,000円 × 5日 × 52週 × 10年 = 約2,080万円
この金額を寄与分として、他の相続人との調整に使うことができます。
ただし、これはあくまで参考例であり、実際には裁判所の判断や相続人間の話し合いによって決まります。
5. 寄与分を主張する手続きの流れ
寄与分は、相続人が自動的に受け取れるものではありません。
遺産分割協議の中で自ら主張し、他の相続人の同意を得る必要があります。
(1)遺産分割協議での主張
まず、他の相続人に対して「自分は寄与分を主張したい」と伝え、話し合いの場で具体的な内容と金額を提示します。
このとき、介護の期間・内容・費用の記録、被相続人の通院記録や領収書などを提出すると説得力が高まります。
(2)協議がまとまらない場合
協議が整わない場合、家庭裁判所に寄与分の調停申立てを行うことができます。
それでも合意が得られない場合は、審判手続に移り、裁判所が寄与分の有無と金額を判断します。
6. 相続人以外の寄与(特別寄与料制度)
2019年の民法改正により、相続人でない人にも報われる仕組みが設けられました。
これが「特別寄与料制度」(民法1050条)です。
たとえば、被相続人の介護をしていたのが「長男の妻」や「内縁の配偶者」だった場合、従来は相続人でないため寄与分を主張できませんでした。
しかし現在では、「特別の寄与をした」と認められれば、相続人に対して特別寄与料を請求できるようになっています。
特別寄与料の金額も、寄与分と同じように介護や支援の内容・期間などをもとに算定されます。
7. 江東区・那覇市での実務上の特徴
東京都江東区の場合
江東区では、親の介護をしていたお子さんが寄与分を主張するケースが多く見られます。
特に、都内では介護施設が充実している一方で、費用負担が大きいため、家族が自宅介護を選ぶ例が少なくありません。
こうした介護の実態を記録しておくこと(介護日誌・医療費明細など)が、寄与分を認めてもらう上で非常に重要です。
沖縄県那覇市の場合
那覇市を含む沖縄では、親族同士のつながりが強く、同居家族による長期的な介護や生活支援のケースが多くあります。
しかし、寄与分を主張する際には「同居していた=特別な貢献がある」とは限りません。
単なる扶養の範囲を超え、被相続人の財産維持にどのような具体的貢献をしたかを丁寧に示すことが重要です。
8. 寄与分を認めてもらうためのポイント
- 客観的な証拠を残す
介護記録、医療費領収書、日記、銀行の出金記録など。 - 貢献の具体的内容を明確にする
単なる手伝いではなく、財産の維持や増加にどう寄与したかを説明。 - 早めに専門家へ相談
寄与分の証明は感情的な主張だけでは不十分。行政書士や弁護士が書面整理をサポートできます。 
9. まとめ 寄与分は「感情の公平」を「法の公平」に変える制度
寄与分は、被相続人に長年尽くした人の努力を、法的に評価するための制度です。
「感謝の気持ち」だけで終わらせず、相続分として形にすることができます。
ただし、寄与分の主張は相続人間の感情に触れるため、協議が難航しやすい点にも注意が必要です。
公平な分割のためには、事実を整理し、証拠に基づいて冷静に主張することが大切です。
江東区や那覇市でも、家族間の介護・支援をめぐる相続トラブルは少なくありません。
寄与分は、そうしたトラブルを防ぐための「法的な橋渡し」として非常に重要な制度といえるでしょう。
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