
今回は、東京都江東区や沖縄県那覇市にお住まいの方からもご相談の多い、「相続手続き・遺言において認知症の方がいる場合の遺産分割協議」について、詳しくご説明いたします。
高齢化社会が進む現在、相続の場面で「相続人の中に認知症の方がいる」というケースは決して珍しくありません。こうした場合、遺産分割協議はどう進めれば良いのでしょうか? 特別代理人との違いや、成年後見制度の利用についても、具体的にご紹介します。
■ 遺産分割協議とは?
まず、「遺産分割協議」とは、亡くなった方(被相続人)の遺産を相続人全員でどのように分けるかを話し合う手続きのことです。
民法上、遺言がない場合や遺言で定められていない財産については、相続人全員の同意により遺産を分ける必要があります。この同意内容を書面にしたものが「遺産分割協議書」です。
ここで重要なのが「相続人全員の合意が必要」という点。相続人のうち誰か一人でも協議に参加できなかったり、無効な同意だったりすると、遺産分割協議書全体が無効となってしまいます。
■ 認知症の方が相続人だった場合、どうなる?
認知症と診断された方は、症状の程度によっては、自分の意思で契約を結ぶことができないと判断される場合があります。遺産分割協議も一種の契約行為ですから、「判断能力」が必要となります。
◆ 判断能力が不十分な場合は無効
認知症が進行しており、医師により「契約などの法律行為を理解・判断する能力が欠けている」と診断された場合、その方が同意した遺産分割協議は無効とされる可能性が非常に高いです。
◆ 家族が代わりに署名してもダメ!
「家族だから代わりに署名した」というケースがたまに見られますが、これは法律上無効です。たとえ配偶者や子であっても、本人に代わって勝手に署名・押印することはできません。これは私文書偽造の可能性すらあり、後々トラブルになることも。
では、認知症の相続人がいる場合はどうすればよいのでしょうか?
■ 成年後見制度の利用が必要です
認知症などで判断能力が不十分な方の法律行為を支援する制度が、「成年後見制度」です。家庭裁判所に申し立てをして、本人の代わりに法律行為を行うことができる「成年後見人」を選任してもらいます。
◆ 成年後見制度とは?
成年後見制度には、大きく分けて以下の3種類があります:
- 任意後見制度(事前に契約)
- 法定後見制度(既に判断能力が低下している場合)
今回は、相続手続きの段階で認知症と診断されているケースが前提ですので、「法定後見制度」の中でも「後見開始審判」を受けることになります。
◆ 後見人の役割
選任された成年後見人は、本人の財産を保護するために、遺産分割協議に参加します。つまり、認知症の本人の代理人として協議に出席し、適切な分割内容に同意することができます。
ただし、このとき成年後見人は「本人にとって不利益にならない内容かどうか」を厳しく審査する立場にあります。たとえば「他の相続人が多くを取得し、本人はごくわずか」といった内容には安易に同意することはできません。
■ 成年後見人と特別代理人の違い
ここで、「未成年の相続人がいる場合には特別代理人を立てると聞いたけど?」というご質問をいただくことがあります。
たしかに、未成年者や胎児などが相続人となる場合、その法定代理人(親権者)が他の相続人でもあると利益相反となるため、家庭裁判所に「特別代理人」の選任を申し立てる必要があります。
一方、認知症の方の場合は、「そもそも判断能力が欠けていること」が問題です。したがって、まずはその人の財産を一貫して管理・保護する後見人を選ぶ必要があります。
つまり、認知症の方の場合は「成年後見人」、未成年者の場合は「特別代理人」が必要になるという点に注意しましょう。
■ 成年後見人の申立て手続きの流れ
成年後見人を選任してもらうためには、家庭裁判所に申立てを行う必要があります。主な流れは次のとおりです:
- 申立ての準備
・申立書の作成
・診断書(成年後見制度用)の取得
・本人の戸籍謄本、財産目録などの提出書類を整える - 申立ての提出
家庭裁判所(江東区の場合は東京家庭裁判所、那覇市の場合は那覇家庭裁判所)に申立てを行います。 - 調査・審問
裁判所が調査官による面談や家庭訪問を行う場合があります。 - 審判・後見人選任
およそ1〜3か月程度で、家庭裁判所から後見開始の審判と後見人の選任が行われます。
■ よくあるご相談と注意点
◆「遺産分割を急ぎたいが、後見人選任に時間がかかる…」
たしかに、後見人選任には一定の時間がかかります。しかし、成年後見制度を経ずに進めた遺産分割は、後々トラブルの火種となりかねません。無効とされてしまえば、相続登記も抹消される可能性があります。
「急がば回れ」。適切な手続きを踏むことが、最終的には家族全体の安心と円満な解決につながります。
◆「後見人には誰がなれるのか?」
候補者としては、家族や親族、弁護士、司法書士、行政書士などが考えられます。ただし、裁判所が選任するため、希望どおりの人が選ばれるとは限りません。家庭裁判所は「本人の利益を最優先に考えられる人物かどうか」を基準に判断します。
■ 江東区・那覇市の方へ 地域のサポートも活用しましょう
成年後見制度は専門性が高く、申立てに必要な書類の量や内容も複雑です。東京都江東区では「高齢者あんしん相談センター」や「地域包括支援センター」、沖縄県那覇市では「市民福祉部・高齢福祉課」など、各地域で支援窓口もあります。
行政書士として、私たちも成年後見の申立て手続きのサポートや、家庭裁判所への書類作成支援を行っていますので、安心してご相談ください。
■ まとめ
認知症の方が相続人となっている場合、適切な方法で成年後見人を選任し、遺産分割協議を進めることが、法的にも道義的にも最善の道です。
誰かの「善意」や「家族だから」という曖昧な感覚だけで手続きを進めてしまうと、将来思わぬトラブルになる可能性があります。
大切なご家族の権利を守るためにも、早めの準備と、専門家への相談をおすすめします。