遺言執行者とは何をしてくれる人なのか 〜沖縄県那覇市および東京都江東区の皆様へ〜

相続や遺産にまつわる問題は、誰にとっても避けては通れない人生の一部です。遺言書を作成する際には、その内容を確実に実行してもらうために「遺言執行者」を指名することが一般的です。しかし、多くの方が「遺言執行者」と聞いても、その役割や重要性について具体的なイメージが湧かないのではないでしょうか?

この記事では、遺言執行者の役割や必要性、そして遺言執行者に指定された場合の手続きや義務について解説します。沖縄県那覇市や東京都江東区にお住まいの方々が安心して相続手続きを進められるように、丁寧に説明いたします。

1. 遺言執行者とは

遺言執行者(ゆいごんしっこうしゃ/いごんしっこうしゃ) とは、遺言書の内容を実現するために遺産相続に関連する手続きを単独で行う権限を持つ人物です。遺言書に基づき、相続手続きをスムーズに進める役割を担います。「遺言執行人」とも呼ばれることがありますが、法的には同じ意味です。

1-1. 遺言執行者の権限の明確化

平成30年7月1日に施行された民法改正により、遺言執行者の権限が明確化されました。それまでは、遺言執行者が「相続人の代理人」として機能していましたが、改正後は遺言執行者が独立した強い権限を持つことが認められました。これにより、遺言執行者が遺言書の内容を確実に実行できるようになりました。

  • 遺言執行者の権利義務(民法第1012条1項)
    遺言執行者は、遺言書の内容を実現するために、相続財産の管理やその他遺言執行に必要な全ての行為を行う権利を有します。
  • 遺言執行者の行為の効果(民法第1015条1項)
    遺言執行者がその権限内で行った行為は、相続人に対して直接的に効力を持ちます。
  • 妨害行為の禁止(民法第1013条1〜3項)
    相続人は、遺言執行者が行う遺言執行の妨害行為をすることができず、違反行為は無効となります。

1-2. 遺言執行者の通知義務

遺言執行者に選任された場合、相続人に対して自分が遺言執行者に就任したことを通知する義務があります。これは、遺言執行者が誰かを相続人が正確に把握できるようにするためです。もし、この義務を怠った場合には、相続人から損害賠償を求められる可能性もありますので、慎重に進める必要があります。

2. 遺言執行者を選任する意味と役割

遺言執行者がいることで、遺言書の内容を確実に実行するためのプロセスがスムーズになります。遺産相続に関わる手続きは複雑で、特に相続人が複数いる場合や、相続人同士が疎遠である場合には、手続きが難航することが少なくありません。遺言執行者がいれば、こうした問題を回避し、手続きを迅速かつ円滑に進めることができます。

2-1. 遺言書が無効の場合

遺言書が無効であれば、遺言執行者の権限も当然ながら失われます。遺言書には「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」がありますが、自筆証書遺言は書き方や形式に厳しいルールがあり、ミスがあると無効となることがあります。公正証書遺言は法的に無効となるリスクが少ないものの、遺言者が精神的に判断能力が欠如しているとみなされると無効となることもあります。

3. 遺言執行者は必要か?

遺言書の内容によっては、必ずしも遺言執行者が必要ない場合もありますが、実務的には多くの場合、遺言執行者を指定しておくことが推奨されます。特に、遺言書に「特定遺贈」や「相続廃除」など、特定の手続きを必要とする事項が記載されている場合には、遺言執行者がいないとその手続きが進められません。

3-1. 遺言執行者の選任が必須な場合

以下の場合には、遺言執行者の選任が必須となります。

  • 特定遺贈
    遺産の特定の部分を特定の人に遺贈する場合、その手続きを進めるのは遺言執行者だけです。
  • 子の認知(遺言認知)
    非嫡出子の認知を遺言で行う場合、遺言執行者が認知の手続きを行います。
  • 相続廃除(遺言廃除)
    推定相続人の権利を剥奪する場合や、その廃除を取り消す場合、遺言執行者が必要です。

3-2. 遺言執行者が不要な場合

一方で、遺言書に「包括遺贈」や「遺産分割方法の指定」が含まれているだけの場合、遺言執行者の選任は必須ではありません。相続人が直接手続きを進めることが可能です。

4. 遺言執行者になれる人と資格がない人

遺言執行者になれるのは、法律的に特定の資格がある人だけではありません。しかし、「未成年者」と「破産者」は遺言執行者になることができません(民法第1009条)。

4-1. 遺言執行者になれる人

遺言執行者になれるのは、遺言書で指定された相続人や専門家などです。遺言執行者は、遺産相続のプロセスに関与しますが、その業務に利害関係があるかどうかは問題ではありません。たとえば、相続人自身が遺言執行者に就任することもよくあります。

4-2. 遺言執行者になる資格がない人

一方、未成年者や破産者は遺言執行者にはなれません。遺言執行者の資格は遺言者の死亡時に判断されるため、遺言書作成時には問題がなくても、後に破産した場合は遺言執行者にはなれません。

5. 遺言執行者の選任方法

遺言執行者を選任する方法は、主に以下の2つです。

5-1. 遺言書で指定する方法

遺言書に明確に遺言執行者を指定するのが一般的です。遺言書の中で、遺産分割の方法を記載した後に、遺言執行者を指名する条項を設けるとよいでしょう。また、複数の遺言執行者を指定したり、代替の遺言執行者をあらかじめ定めておくことも可能です。

5-2. 第三者に決めてもらう方法

遺言者が遺言書の中で遺言執行者を指定しなかった場合や、遺言執行者が就任できなかった場合、相続人や利害関係者が家庭裁判所に申し立てて遺言執行者を選任してもらうことができます。この場合、裁判所が遺言執行者の適任者を決定します。

6. 遺言執行者に指定された場合の手続き

遺言執行者に指定された場合、その役割を遂行するために、法的に必要な手続きを適切に進めなければなりません。以下では、遺言執行者が実際に行うべきステップを説明します。

6-1. 遺言執行者の受諾

遺言執行者に指定されたとしても、必ずその役割を引き受けなければならないわけではありません。遺言執行者に指名された人は、まずその役割を「受諾する」か「辞退する」かを決定することができます。
受諾を決めた場合には、その旨を相続人に通知する義務が生じます。もし遺言執行者が辞退する場合、遺言に代替の遺言執行者が指定されていなければ、相続人や利害関係者が家庭裁判所に申し立てて新たな遺言執行者を選任することが必要になります。

6-2. 遺言書の検認手続き

遺言執行者は、遺言書が「自筆証書遺言」である場合、家庭裁判所での「検認手続き」を経る必要があります。検認とは、遺言書の内容や形式を確認し、改ざんや偽造がないかを確かめるための法的手続きです。

なお、公正証書遺言の場合は、検認手続きは不要です。公正証書遺言は、公証人が作成し、法律に基づいて厳格に管理されているため、検認が不要とされています。

6-3. 相続財産の調査・管理

遺言執行者は、遺言書に基づいて相続財産の詳細な調査を行い、必要に応じてそれを管理します。遺産目録を作成し、相続人に提供することが求められます。相続財産には、土地や家屋などの不動産、預貯金、株式などの有価証券が含まれます。負債がある場合は、それも含めた詳細な財産の確認が必要です。

6-4. 遺産分割と手続き

遺言執行者は、遺言書に記載されている通りに相続財産を分割し、相続人に遺贈や分配を行います。遺言書で具体的な遺産分割方法が定められている場合、それに基づいて手続きを進めるのが基本です。また、遺産分割協議が必要な場合、遺言執行者はその調整役として、遺言に基づいた分割を進めるよう相続人と協議することになります。

6-5. 債務や税金の支払い

相続財産に関連する債務の支払いや税金の手続きも、遺言執行者の役割です。遺言執行者は、相続税や登記手続きに必要な手続きを進め、適切に支払いを行います。特に相続税は、相続が発生してから原則10か月以内に申告・納税しなければならないため、スケジュールに沿って迅速に行う必要があります。

6-6. 遺言の内容の実行

最終的に、遺言執行者は遺言書に記載された内容を実現します。遺贈が含まれている場合は、特定の財産を受贈者に引き渡す手続きを行い、相続人に対しては遺産の分配を適切に実行します。全ての手続きが完了した後、遺言執行者は役割を終えます。

7. 遺言執行者の報酬

遺言執行者には、報酬が支払われることがあります。報酬については、遺言書に具体的な金額が記載されている場合と、遺言書に記載がない場合で扱いが異なります。

7-1. 遺言書に報酬が記載されている場合

遺言書に報酬額が指定されている場合、その金額が報酬として支払われます。この場合、相続財産の一部から支払われるのが一般的です。

7-2. 遺言書に報酬が記載されていない場合

遺言書に報酬額が明記されていない場合でも、遺言執行者は家庭裁判所に報酬額を決定してもらうことができます。報酬の金額は、遺産の規模や遺言執行者の業務の複雑さによって決定されるため、裁判所の判断に基づきます。

8. 遺言執行者に関するよくある質問

Q1. 遺言執行者は専門家に依頼するべきですか?

遺言執行者は、相続人や信頼できる友人・知人が務めることもありますが、手続きが複雑な場合や法的な知識が必要な場合には、専門家に依頼するのが安全です。専門家に任せることでトラブルを避けることができます。

Q2. 遺言執行者が辞任した場合はどうなりますか?

遺言執行者が辞任した場合、遺言書に代替の執行者が記載されていればその人が執行者となります。もし遺言書に代替の執行者が記載されていない場合、相続人や利害関係者が家庭裁判所に申し立てて、新たな執行者を選任してもらうことが可能です。

Q3. 遺言執行者に選任されたが、どのように手続きを進めれば良いですか?

遺言執行者に選任された場合、まずは遺言書の内容を確認し、必要であれば家庭裁判所での検認手続きを行います。次に、相続財産を調査し、相続人に遺産目録を提供し、遺言に基づく手続きを進めます。不安がある場合は、専門家に相談することをお勧めします。

まとめ

遺言執行者は、遺言書の内容を実現する重要な役割を担います。特に複雑な相続や多額の財産が絡む場合には、遺言執行者を選任することで相続手続きをスムーズに進めることができます。沖縄県那覇市や東京都江東区にお住まいの方も、遺言書の作成時に遺言執行者を指定し、万が一の際の相続手続きを確実に行う準備をしておくことが大切です。

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