建設業許可における経営経験で認められる3つの基準(①〜③)の具体例と判断基準

建設業許可を取得するためには、「適正な経営体制」が整っていることが要件の一つとなります。2020年10月の建設業法改正により、この「経営体制」に関する要件は従来の「経営業務の管理責任者(いわゆる経管)」制度から大きく見直され、柔軟な体制構築が認められるようになりました。

このシリーズ第2回では、「適正な経営体制」を構成するために必要な要件のうち、常勤役員として認められる「①~③」の経営経験について、その具体的な内容や判断のポイント、実際にどのような資料で証明するのかについて詳しく解説します。

目次

1.「①取締役等として5年以上の建設業経営経験」の具体例と判断基準

まずは最もオーソドックスな基準である「①建設業に関し5年以上取締役、執行役、組合理事としての経験を有する者」です。この基準に該当する方が常勤役員として在籍していれば、他の補佐体制がなくても「適正な経営体制」があると認められます。

判断基準と必要な経験

この基準では、以下の3点が求められます。

  • 建設業に関する業務を行っていた会社や組合に所属していたこと
  • 役員等(取締役、執行役、組合理事など)として在籍していたこと
  • その期間が通算して5年以上であること

建設業に関してという点では、29業種のいずれかを扱う会社であれば、どの業種でも構いません。つまり、これから取得しようとする業種と異なる業種の経験でも問題ありません。

証明資料の例

  • 法人の履歴事項全部証明書(旧商業登記簿謄本)
  • 建設業許可通知書の写し
  • 役員の就任・退任の議事録
  • 工事請負契約書や請求書類(建設業を行っていた証明)

実務上のポイント

この基準が最も証明しやすく、建設業許可申請でもよく使われる方法です。法人の登記簿謄本で過去の役員履歴が確認できれば、証明資料がシンプルにまとまるため、申請もスムーズになります。ただし、在籍期間がちょうど5年あるかどうかで微妙なラインになるケースもあるため、月単位で在任期間を確認することが重要です。

2.「②執行役員等として5年以上の業務執行経験」の具体例と判断基準

次にご紹介するのは、やや複雑な「②建設業に関し5年以上経営業務の管理責任者に準ずる地位にあり、経営業務を管理する経験を有する者」です。

この「準ずる地位」とは、主に執行役員や部門責任者など、一定の意思決定権限を持ったポジションにいた方を想定しています。

判断基準と必要な経験

以下の要素が求められます。

  • 法人の役員でなくてもよいが、経営業務の実行権限を有していたこと
  • 建設工事の受注・契約・資金繰り・人事などの管理に携わっていたこと
  • その経験が5年以上あること

ここで重要なのは、「経営業務を管理する権限が形式的に与えられていたか」という点です。単なる部課長や主任といった職位では認められにくく、取締役会等からの権限委譲の根拠が必要とされます。

証明資料の例

  • 社内組織図と役職辞令
  • 取締役会の議事録(業務執行権限の委任を示すもの)
  • 工事契約の決裁書や指示書(意思決定に関与していた証拠)
  • 営業日報・月報(業務執行の内容)

実務上のポイント

中小企業では、執行役員の定義があいまいであるため、「実質的に任されていた」ことの証明が難航するケースが多くあります。その場合、社内文書や過去の実績から「経営に関与していた」ことを多角的に立証する必要があります。

また、経験した会社が建設業許可を持っていたかどうかを示す資料も求められるので、会社の許可証や通知書の写しも提出が必要です。

3.「③補助者として6年以上の経験」の具体例と判断基準

最後に紹介するのが、「③建設業に関し、6年以上経営業務の管理責任者に準ずる地位にある者として管理責任者を補助する経験を有する者」です。

これは、取締役や執行役員の下で補佐的な立場で経営に携わっていた方を対象にしています。

判断基準と必要な経験

この基準では、以下の条件を満たす必要があります。

  • 経営業務を直接執行する権限はなかったが、それを補助する立場にあったこと
  • 部署の副責任者、副支店長、副所長などの役職にあり、現場を管理していたこと
  • その立場で6年以上の経験があること

つまり、業務の実行に直接の決定権はなくても、経営層の指示を受けながら現場で実務を遂行していた経験が評価されます。

証明資料の例

  • 人事辞令書や役職任命通知
  • 現場管理日報、工事記録簿
  • 所属部署の業務内容を示す社内資料
  • 役職名の記載された名刺やメール

実務上のポイント

この基準での証明は、書類の整備がポイントです。中小企業では文書化された辞令がない場合も多く、その場合は業務の内容を具体的に説明する補足資料を準備する必要があります。

また、補助的な役職であるため、第三者から見て「補助していた」と納得できるような補完資料(例:上司とのメール記録、業務分担表)を集めておくと良いでしょう。

経営経験基準の選定と申請の進め方

「①〜③」のいずれを採用するかは、申請者の過去の職歴や在籍企業の規模によって異なります。以下のような判断フローが参考になります。

  1. まずは①の基準に該当するかを確認
    → 登記簿で5年以上の役員経験があるかを調査。
  2. が難しければ②の執行役員等としての経験を検討
    → 権限委譲の記録や業務記録を確認。
  3. も該当しない場合は③の補助者経験を探る
    → 副責任者としての職歴を明確化する。

まとめ 適切な基準を選び、早めの準備を

建設業許可における「適正な経営体制」の立証は、単に「経験がある」と主張するだけでは不十分で、文書等による客観的な証明が求められます。特に②・③の基準については、日頃から業務記録を残すことや、役職の明確な辞令を発行しておくことが、将来の許可取得の際に役立ちます。

東京都江東区や沖縄県那覇市で建設業許可申請をご検討中の方は、早めに過去の職歴や資料を整理し、どの基準での申請が最も適しているかを専門家と相談の上で進めることをおすすめします。

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