
相続と聞くと、多くの方が「財産の分け方」ばかりを思い浮かべがちです。しかし、相続されるのは財産だけではありません。被相続人(亡くなった方)に借金やローンがあった場合、それもまた相続の対象となるのです。
今回は、東京都江東区および沖縄県那覇市の方々向けに、借金(債務)がある場合の遺産分割協議書の作成ポイントについて、行政書士の視点から詳しく解説します。相続人同士のトラブルを防ぐためにも、正しい知識と文書の取り扱いが重要です。
1. 借金(債務)は相続される
被相続人に借金がある場合、法定相続人はその借金を「財産」と同じように相続することになります。これは民法896条に基づいており、被相続人の「権利義務の一切」を承継する仕組みです。
つまり、預貯金や不動産をもらえる代わりに、借金も一緒に受け継ぐことになるのです。借金の金額が財産を上回る場合、「相続放棄」や「限定承認」という手段もありますが、今回は相続する前提で遺産分割協議書を作成するケースに絞って説明します。
2. 遺産分割協議書に債務を記載する理由
「借金なんて銀行との話だし、遺産分割協議書には書かなくていいのでは?」と思われるかもしれません。確かに、裁判所の見解としては「借金(債務)は遺産分割の対象ではない」とされています。つまり、債務の負担割合は民法で定める法定相続分に従って自動的に決まるというのが原則です。
しかし、遺産分割協議書に借金の取り扱いを明記しておくことで、以下のような利点があります。
- 相続人同士の合意内容を明文化し、後日のトラブルを防止できる。
- 特定の相続人が債務を全額引き受ける場合、その事実を明確にできる。
- 「求償権」に関するトラブル(あとから払えと請求されること)を回避できる。
このように、債務の承継は相続人間の取り決めとして意味を持ち、しっかり記載しておくことが重要です。
3. 実務上の記載方法と注意点
では、実際に遺産分割協議書にどのように債務の記載をすればよいのか、以下の3つのポイントに沿って説明します。
(1)継承される債務の内容
債務の記載は、ケースバイケースで記載方法が異なります。
【一括承継する場合】
相続人の一人がすべての債務を承継する場合、次のようなシンプルな書き方で十分です。
「相続人Aは、被相続人の有する一切の債務を承継し、負担する。」
これは、「どの銀行のどの契約」などを個別に書かなくても問題ありません。ただし、負担する人の合意が大前提です。
【個別に記載する場合】
複数の債務があり、それぞれ承継する人を分けたい場合は、次のように具体的に書く必要があります。
「相続人Bは、平成○年○月○日付金銭消費貸借契約に基づく株式会社○○銀行○○支店に対する借入債務(相続時残高金○○万円)を承継する。」
どの契約で、どの金融機関に対して、残高がいくらかという情報を明確に記載します。
(2)誰がどの割合で債務を継承するか
債務をどのように分担するかについても、自由に取り決めることができます。
- 相続人Aが全額を承継する。
- 相続人Aと相続人Bが1/2ずつ承継する。
- 将来判明する債務については相続人Cが承継する。
このように、柔軟に決めることができます。
ただし、繰り返しになりますが、金融機関など債権者に対してはこの分担は効力を持ちません。債権者は誰に対しても法定相続分に応じて請求することが可能です。相続人間の取り決めでしか効力を持たないため、その点をしっかり理解したうえで記載しましょう。
(3)「求償しない」旨の明記
非常に重要なのがこの項目です。債務を全て承継した相続人が後から、「やっぱりみんなで払うべきだ」と他の相続人に請求してくる可能性があります。
これを防ぐには、次のような文言を遺産分割協議書に明記することがポイントです。
「なお、相続人Aは、上記債務の弁済について、他の相続人に対して求償しないものとする。」
これにより、相続人Aは後から他の相続人に「払ってくれ」と言うことができなくなります。将来的なトラブルを回避するためには、必ずこの一文を入れておくことをお勧めします。
4. 債権者との関係はどうなる? 免責的債務引受契約とは
相続人同士で「この人が全部払います」と決めたとしても、銀行などの債権者はその内容に拘束されません。では、どうすれば対外的にも効力を持たせることができるのでしょうか。
それが「免責的債務引受契約」という制度です。
これは、債務者(相続人)と債権者(銀行など)が合意し、特定の相続人だけが債務を引き受け、他の相続人を免責するという契約です。債権者の同意が必要ですが、成立すれば他の相続人は債務から解放されます。
ただし、金融機関が同意するケースはそれほど多くないため、あくまで選択肢の一つと考えるのが現実的です。
5. 遺産分割協議書の作成は専門家と相談を
債務のある相続では、遺産分割協議書の作成ミスが将来的なトラブルに直結するおそれがあります。
- 書き方が曖昧で、求償請求が可能になってしまう
- 債務の内容が不明確で、誰が負担するか揉める
- 債権者との認識に齟齬があり、想定外の請求を受ける
こうしたリスクを防ぐためにも、行政書士などの専門家に相談することをおすすめします。特に東京都江東区や沖縄県那覇市では、地域ごとの金融機関や家庭裁判所の運用傾向を把握した専門家に依頼することで、スムーズかつ安全な手続きを進めることができます。
まとめ
借金がある場合の遺産分割協議書は、単に財産をどう分けるか以上に注意を要する文書です。
- 債務の内容と承継者を明記する
- 相続人間での取り決めに意味がある
- 「求償しない」旨を記載し、後の紛争を予防する
- 債権者に効力を及ぼすには別途契約が必要
正しい知識と丁寧な書面の作成が、相続人全員の安心につながります。相続の場面で借金があるとわかったときには、早めに専門家へ相談し、納得できる解決を目指しましょう。