外国人従業員を雇用する際の就業規則、母国語で作成するべき?

近年、日本では労働力不足を背景に、多くの企業が外国人材の採用を進めています。外国人従業員を雇用する企業からよく寄せられる質問のひとつに、「就業規則は従業員の母国語で作成する必要があるのか?」というものがあります。この問題を解説するため、労働基準法の観点や実務上のポイント、そして現実的な対応方法をわかりやすくご紹介します。

労働基準法における就業規則の作成言語について

まず、労働基準法には「就業規則をどの言語で作成しなければならない」という具体的な規定はありません。日本語で作成された就業規則を使用すること自体は、法律上問題ありません。

しかし、労働基準法第106条には、就業規則を労働者に「周知」する義務があるとされています。この「周知」とは、単に就業規則を従業員に見せるだけでなく、従業員がその内容を理解できる状態にすることを意味します。そのため、日本語だけで作成された就業規則を、外国人従業員が理解できなかった場合、周知義務を果たしていないと判断される可能性があるのです。

就業規則の役割と重要性

就業規則は、職場におけるルールや労働条件を定めたものです。これにより、経営者と従業員の間でお互いの権利・義務を明確にし、職場環境を円滑に運営するための基盤を作ります。

特に外国人従業員がいる職場では、文化や価値観の違いが原因で誤解やトラブルが起こることもあります。そのため、就業規則を従業員全員が理解できる形で提供することは、信頼関係の構築や職場の秩序維持において非常に重要です。

外国人従業員が母国語で書かれた就業規則に触れることで、自分がどのようなルールのもとで働いているのかを正しく理解し、トラブルを未然に防ぐことが可能になります。

就業規則を外国語で作成するべきか?

では、外国人従業員のために母国語で就業規則を作成するべきなのでしょうか?必ずしもそうとは限りません。以下のポイントを踏まえて検討しましょう。

1. 外国人従業員が理解できる言語での対応が重要

就業規則を必ず母国語で作成する必要はありませんが、外国人従業員が十分に理解できる言語で提供することは必要です。たとえば、英語が共通語として理解される場合は、英語訳を用意することで問題が解消されるケースもあります。

2. 日本語と外国語の両方を用意するのが一般的

就業規則は、日本人従業員や経営者も理解する必要があるため、基本的には日本語で作成し、それを必要に応じて外国語に翻訳するという手順が一般的です。翻訳版を「参考訳」として扱い、正式な規定は日本語の原本とする方法がよく採用されます。

3. 翻訳する範囲を優先順位で決める

翻訳には手間やコストがかかるため、全ての内容を最初から翻訳するのが難しい場合もあります。そのような場合は、以下の項目を優先的に翻訳することをおすすめします。
• 基本的な労働条件(労働時間、賃金、休日など)
• 職場で遵守すべき最低限のルール
• 違反した場合の懲戒規定や罰則

このように、従業員の立場に大きな影響を与える箇所から翻訳を進めると、効率的かつ効果的に対応できます。

翻訳の方法と注意点

外国語に翻訳する際には、次の点に注意しましょう。

1. 専門家による正確な翻訳

就業規則には法律的な内容が含まれており、曖昧な表現や誤訳がトラブルを招く可能性があります。そのため、専門知識を持った翻訳者や、労務関連の知識がある専門家に依頼することが重要です。

2. 簡潔で明確な表現を心がける

就業規則は法律文書としての性質を持つため、難解な表現になりがちです。しかし、外国人従業員にとってわかりやすい内容にするため、簡潔で明確な表現を心がけましょう。

3. 継続的な見直し

労働法の改正や職場の状況の変化に応じて、就業規則を見直すことは欠かせません。翻訳した外国語版も、定期的に更新して最新の内容を反映させるようにしましょう。

外国人従業員が就業規則を理解するための補足措置

就業規則を外国語で提供するだけでは不十分な場合もあります。以下のような補足措置を併用することで、外国人従業員の理解をさらに深めることができます。

1. オリエンテーションの実施

入社時に、外国人従業員を対象としたオリエンテーションを行い、就業規則の内容を説明する場を設けましょう。必要に応じて通訳を付けると、より効果的です。

2. 職場でのサポート体制

外国人従業員が相談しやすい環境を整えることも重要です。たとえば、外国語に対応できるスタッフを配置したり、相談窓口を設けたりすることが効果的です。

3. 視覚的な補助ツールの活用

文字だけでなく、イラストや図解を用いることで、視覚的にわかりやすい説明を行う方法も有効です。特に、安全規則や緊急時の対応については、図を活用することで言語の壁を越えることができます。

まとめ

外国人従業員を雇用する際、就業規則をその母国語で作成する必要はありませんが、従業員が十分に理解できる形で提供することが求められます。日本語で作成した原本をベースに、必要な箇所を外国語に翻訳し、職場全体で共有することで、トラブルを未然に防ぎ、良好な職場環境を築くことが可能です。

また、翻訳だけでなく、オリエンテーションや相談体制の整備など、補足的な取り組みを行うことで、さらに従業員の理解を深めることができます。外国人材が安心して働ける環境を整えることは、企業にとっても長期的な利益につながるでしょう。

今後、外国人従業員の増加が見込まれる中、適切な対応を心がけて職場の信頼関係を築いていきましょう。

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