
公共工事の入札に参加するには、「経営事項審査(経審)」の点数が大きなカギを握っています。
「今のままで何点取れるのか」「あと何点上げればランクが上がるのか」を把握しておくことは、営業戦略や財務・技術者の整備にも大いに役立ちます。
この記事では、自社の経審点数を事前にシミュレーションする方法と、点数アップに向けた実務対策について詳しく解説していきます。
1. 経審点数の基本構成をおさらい
まず、経審は以下の5つの項目で構成され、それぞれ点数が付けられます。
項目 | 内容 | 満点 | 実務での重要性 |
X1点 | 完成工事高(売上) | 2,375点 | 受注規模の大きさ |
X2点 | 自己資本・利益剰余金など | 850点 | 財務内容の健全性 |
Y点 | 技術者の数・資格 | 2,275点 | 技術力と人材 |
Z点 | 社会性(法令遵守・労働環境など) | 400点 | 組織としての信頼性 |
W点 | 経営状況(財務指標分析) | 偏差値換算(-200~+200) | 財務バランス |
上記を合計し、総合評定値(P点)を算出します。
このP点によって、自治体などが定める入札等級(A〜Eなど)が決まるため、非常に重要な指標です。
2. 評点シミュレーションの意義とは?
「経審は毎年受けてみないと点数がわからない」と考えている方も多いですが、申請前に点数の概算を出すことは十分可能です。
以下のような場面でシミュレーションが役立ちます。
- 入札等級の維持・ランクアップを狙う際の目安
- 経営改善の成果を確認
- 新たに経審を取得したい事業者の準備
- 自治体の参加資格審査(格付け)への対応方針の判断材料
実際、多くの建設業者は決算期直後や申請前に専門家とともに点数をシミュレートしています。
3. 実際にどうやってシミュレーションするか?
ステップ①:最新の決算データを整理する
まずは、以下の情報を基に経審で使うデータを整理します。
- 貸借対照表(B/S)
- 損益計算書(P/L)
- 完成工事原価報告書
- 技術職員名簿(資格・経験年数など)
- 完成工事高(過去3年分)
これらをもとに、経審専用の様式に沿って数値を入力します。
ステップ②:各点数を試算する
以下に各点数の概要とシミュレーション時の着目点を示します。
【X1点】…売上高(完成工事高)に応じた点数
直近3年の完成工事高を元に算出。過去3年平均が高いほど点数が上がるため、大規模工事がある年は特に重要です。
チェックポイント:
- 下請ではなく元請工事の比率を増やす
- 決算期末の工事進捗を適切に調整
【X2点】…財務内容の良し悪し
自己資本額、利益剰余金、純利益などを評価します。赤字決算や債務超過は大幅減点の原因となります。
対策例:
- 利益剰余金を積み増す(黒字経営を維持)
- 仮払金・貸付金などを減らし、B/Sを健全化
【Y点】…技術職員の質と量
専任技術者(営業所常駐)や監理技術者の保有資格・経験年数に応じて加点されます。
対策例:
- 国家資格(1級施工管理技士など)の取得推進
- 若手技術者の継続的な雇用と実務経験蓄積
【Z点】…社会性の評価
以下のような取り組みが加点対象になります。
項目 | 評価内容 |
建設業退職金共済制度 | 加入事業者は加点あり |
法令違反 | 建設業法・労基法違反で減点対象 |
建設機械の保有 | ISO取得・CPD実施なども評価 |
【W点】…経営状況分析(偏差値方式)
登録機関による財務指標の分析。以下のような指標で構成されます。
評価項目 | 内容 |
自己資本比率 | 安定性の指標 |
総資本回転率 | 事業効率の高さ |
営業利益率 | 収益性の高さ |
売上高増加率 | 成長性の評価 |
借入金依存度 | 財務リスクの評価 |
決算前にあらかじめこれらの数値を計算し、偏差値換算することでW点の見込みを出せます。
4. シミュレーションを支えるツールと方法
(1)エクセル計算表
多くの行政書士事務所・税理士事務所では、経審専用のエクセルテンプレートを用意しています。数値を入力することで自動でP点が出る仕組みです。
(2)国交省のシミュレーションツール
国土交通省が提供する以下のツールも活用可能です。
- 経審シミュレーションシート(Excel)
- 経営状況分析機関の試算フォーム(民間機関)
ただし、一般的なシートでは技術職員の点数や社会性点数の詳細入力に限界があるため、実務では行政書士などの専門家のフォローが効果的です。
5. 点数アップの目標設定とスケジューリング
点数シミュレーションができたら、以下のように計画を立てましょう。
時期 | 取組内容 |
1年前 | 技術者の資格取得計画、黒字経営方針の再確認 |
6ヶ月前 | 決算見通しと利益調整、工事台帳の整備 |
決算後 | 財務書類の作成、経審様式の入力開始 |
経審申請 | 実績と数値をもとに正式評価を受ける |
6. シミュレーションを活かすコツ
- 「あと何点で入札等級が上がるのか」を具体的に把握
- 財務改善や資格取得の効果を事前に確認
- 決算処理の時点で会計士・税理士・行政書士と連携
- 毎年記録を残し、前年との比較でPDCAを回す
7. まとめ|点数の「見える化」が経審対策の第一歩
経審における点数は、自社の現状を数値で把握し、どこをどう改善すべきかの道しるべとなります。
シミュレーションによって、「次年度に向けてどの部分に注力すべきか」が明確になるため、経審対策の出発点として非常に有効です。
公共工事の入札は、単に資格を持っているだけではなく、経審点数の積み上げがなければ等級が上がらず受注機会が限られます。
自社の実力をしっかりと見える化し、戦略的に点数を上げていくことで、より有利な入札環境を築いていきましょう。