相続人がいない場合の救済制度、「特別縁故者への財産分与」とは?

相続や遺言の手続きでは、相続人が明確に存在していることが前提となります。しかし、実際の生活の中には、被相続人(亡くなった方)に相続人がいないケースも少なくありません。たとえば、子も親族もいないまま亡くなった方、または親族と長年疎遠で交流がなかった方などです。

このような場合、「その人の遺産はいったい誰のものになるのか?」と疑問を抱く方も多いのではないでしょうか。そうしたケースにおいて、特別な関わりがあった人が遺産を受け取れる可能性がある制度が「特別縁故者への財産分与」です。

今回は、この特別縁故者制度について、東京都江東区や沖縄県那覇市で相続を考えている方々に向けて、具体的な手続きや注意点を交えてわかりやすく解説します。


目次

1.「特別縁故者」とは?

法律上の相続人ではないけれど、被相続人と特別な関係にあった方を「特別縁故者(とくべつえんこしゃ)」といいます。具体的には、次のような関係の方がこれにあたる可能性があります。

  • 被相続人と生計をともにしていた人(同居人や事実婚の配偶者など)
  • 被相続人の療養看護を長年していた人(友人、知人、介護者など)
  • 被相続人の生活を精神的・経済的に支えていた人
  • 被相続人の財産管理や生活全般のサポートをしていた人

このように、「形式的な家族関係」にとどまらず、実質的な関わりが重視されます。


2.特別縁故者が財産を受け取るための条件

(1)まず「相続人が存在しない」ことが前提

特別縁故者への財産分与を受けるためには、被相続人に法定相続人が一人もいないということが必要です。法定相続人とは、配偶者・子・親・兄弟姉妹など、民法で定められた相続人のことです。

相続人の有無は、戸籍をたどって調査する必要があります。自力で行うには限界があるため、専門家(行政書士や弁護士など)に依頼して調査するのが一般的です。

(2)「相続財産管理人」の選任が必要

相続人がいないことが判明した場合、そのまま遺産分与ができるわけではありません。まず、家庭裁判所に「相続財産管理人」の選任を申し立てる必要があります。

相続財産管理人とは、相続人がいない相続財産を一時的に管理するために家庭裁判所が選任する人で、通常は弁護士が選ばれることが多いです。

この相続財産管理人が遺産の調査・債権者への対応などを行い、相続財産を整理していきます。


3.財産分与の申立ての流れ

相続財産管理人が選任された後、すぐに特別縁故者への分与が認められるわけではありません。次のような手続きが必要です。

(1)公告期間の経過(6か月)

相続財産管理人は、「相続人がいれば申し出てください」と官報で公告を出します。この公告は6か月間続きます。この期間中に名乗り出る相続人がいなければ、はじめて「相続人がいない」ことが確定します。

(2)特別縁故者からの申立て

公告期間の終了後、特別縁故者であると考える人が家庭裁判所に対して「財産分与の申立て」を行います。この申立てにあたっては、被相続人とどのような関係であったか、生前どのように支援していたかなどを詳しく説明し、**それを裏付ける証拠(写真・通帳・手紙・診療記録など)**を提出する必要があります。

(3)家庭裁判所による審査と判断

家庭裁判所は提出された資料を基に、申立人が本当に「特別縁故者」であるかを判断します。この判断は厳格で、単なる主観的な主張だけでは認められません。

「私は長年一緒に暮らして支えてきた」という思いがあっても、それを証明する客観的な証拠がなければ認定されにくいのが実情です。


4.誰が特別縁故者と認められやすいのか?

実際に特別縁故者として認められるケースの多くは、以下のような例です。

(1)内縁の配偶者(事実婚)

長年事実上の夫婦関係にあり、生計をともにしていた場合、配偶者と同様の関係性が認められることがあります。ただし、婚姻届を出していないため法定相続人にはなりません。そのため、この制度を利用することで救済が図られます。

(2)養子縁組をしていない養子同然の存在

生前、実の子のように接し、生活の援助や介護をしていた人が認められることもあります。たとえば、甥や姪、近所の若者を引き取って育てていたようなケースです。

(3)長期間介護・看護を続けた人

親族ではなくても、地域の知人や近所の人が無償で看病を続けていた場合なども、認定される可能性があります。


5.特別縁故者として認められなかったらどうなる?

家庭裁判所が申立てを認めなかった場合、その人は特別縁故者とは認められないことになります。その場合、遺産は国庫に帰属(国に没収)されることになります

そのため、分与を受けたいと考える場合は、早めに行動し、証拠を十分にそろえることが非常に重要です。


6.生前の備えとしてできること

もしも、ご自身に相続人がいない、あるいは身近な人に財産を残したいと考えている場合には、遺言書の作成が最も確実な方法です。

遺言によって、内縁の配偶者や知人、介護してくれた人に財産を譲ることができます。遺言があれば、特別縁故者の認定や家庭裁判所の判断を経ることなく、スムーズに遺産を渡すことができます。


まとめ

特別縁故者への財産分与は、法定相続人が存在しない場合に限り、被相続人と深い関係にあった人が遺産を受け取れる救済制度です。しかし、制度を利用するためには、家庭裁判所への申立てや証拠資料の提出など、ハードルは低くありません。

江東区や那覇市にお住まいの方で、相続人のいない親族の遺産整理や、特別縁故者としての立場に関心のある方は、早めに専門家にご相談いただくことをおすすめします。また、ご自身の死後に備えて、信頼できる人に財産を残したいとお考えの方は、公正証書遺言の作成もご検討ください。

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