
公共工事に参入するためには、建設業者としての技術力や施工実績に加えて、「財務内容の健全性」が重要な評価項目となります。
経営事項審査(経審)では、財務諸表に基づいた評価点(X2点・W点)が、企業の評点を大きく左右します。つまり、決算書の内容と構成次第で、入札のチャンスも大きく変わってくるということです。
この記事では、経審に強い財務諸表を作成するためのポイントを、会計・実務の観点からわかりやすく解説します。
1. なぜ財務諸表が経審に大きな影響を与えるのか
経審において、財務に関係する点数は以下の2つです。
点数 | 内容 | 評価項目 |
X2点 | 財務諸表をもとに、自己資本額・利益剰余金などを評価 | 経営規模等評価 |
W点 | 国の登録機関が行う「経営状況分析」 | 経営状況分析評価 |
これらは合算すると100点以上の配点があるため、建設業財務諸表の中身がそのまま評点に反映されることになります。
特に、自己資本がマイナス(債務超過)や赤字決算などが続くと、評点が大きく下がり、入札参加資格の等級が低下する原因となります。
2. 経審に対応する財務諸表とは?
通常の会計とは異なり、経審で用いる財務諸表は国土交通省が定める建設業用の様式に基づいて作成する必要があります。
主な様式(法人の場合):
- 様式第十七号の三:貸借対照表(B/S)
- 様式第十七号の四:損益計算書(P/L)
- 様式第十七号の五:完成工事原価報告書
- 様式第十七号の六:一般管理費明細書
- 様式第十七号の七:株主資本等変動計算書
※個人事業主の場合は様式が異なります。
これらの様式は、決算変更届として都道府県に提出し、経審の前提となる資料になります。
3. 評価が上がるための財務改善ポイント
ポイント①:利益剰余金を積み増す
利益剰余金が多いほど、自己資本が厚くなり、X2点とW点の両方にプラスの影響があります。以下のような対策が有効です。
- 設備投資を抑え、利益を積み立てる
- 役員報酬を適正化し、経常利益を確保する
- 赤字決算を避ける(特に2期連続は厳しい評価に)
注意点: 節税を意識しすぎて赤字決算を出すと、逆に経審評価が大きく下がる可能性があります。
ポイント②:不必要な資産を圧縮する
貸借対照表の健全性を高めるために、以下のような項目を見直すことが重要です。
- 仮払金・立替金・貸付金などの滞留資産はなるべく計上しない
- **遊休資産(使っていない車両や土地)**は売却も検討
- 在庫や前払費用も、適正な水準に管理
これらの資産は、金融機関にもマイナス評価となりやすく、経審のW点(経営状況)にも悪影響を与えます。
ポイント③:短期借入金・長期借入金の見直し
W点の構成要素の一つに「負債依存度」があり、借入が多すぎる企業は評価が下がります。
- 可能な限り自己資本での運営を目指す
- 設備投資の借入は、返済計画と財務バランスを意識
- 親族・役員からの借入金も「他人資本」とみなされるため注意
必要に応じて、借入金を増資に振り替えること(デットエクイティスワップ)も効果的です。
ポイント④:工事原価と売上の整合性を確保
完成工事高(売上)と完成工事原価、一般管理費の整合性が取れていないと、審査で不審に思われる可能性があります。
- 売上原価率(原価÷売上)が極端でないか確認
- 工事台帳の内容と財務諸表を照合
- 工事進行基準(未成工事支出金や未成工事受入金)の記帳方法の正確性
特に、「元請工事」と「下請工事」の区分管理が重要です。経審では「元請実績」がより高く評価されるため、売上構成も意識しましょう。
4. 会計ソフトだけに頼らず、建設業向けに調整を
市販の会計ソフトは、一般企業向けに設計されていることが多く、建設業特有の原価区分・工事進行基準などに完全には対応していません。
以下のような対応を検討しましょう:
- 建設業対応型の会計ソフト(例:建設奉行、建設大臣など)の活用
- 決算時に、建設業専門の税理士または行政書士に相談
- 財務データと現場データ(原価・工期)の照合による帳簿の整備
5. 決算前のシミュレーションが鍵
経審に対応するためには、決算が確定する前の「事前シミュレーション」が欠かせません。決算期直前に以下のような点を確認しましょう。
- 今年のP点(総合評定値)を試算しておく
- 必要に応じて、利益調整や費用の先送りも検討
- 技術職員の資格取得状況・常勤確認も並行してチェック
特に3月決算の法人であれば、1月〜2月の段階で「このままだと点数がどうなるか」を把握しておくことが重要です。
6. よくある失敗とその対策
よくあるミス | 影響 | 対策 |
赤字決算を続けてしまう | 評点が急落、入札等級が下がる | 2期連続黒字を目指す運営を税理士と連携して実施 |
貸付金・仮払金が多い | 財務健全性が低く見られる | 見直し・回収を進め、BSのスリム化を |
借入金依存が高い | W点が下がり格付けに影響 | 増資や繰上返済で資本比率を改善 |
会計処理が建設業仕様でない | 数値が正しく反映されない | 建設業専用の財務様式での再作成を |
7. まとめ|財務体質の改善は経審の根幹
建設業の経審においては、「財務内容」がそのまま評点として現れます。いくら施工実績や技術者が揃っていても、赤字や債務超過が続けば、公共工事の土俵に立つことさえ難しくなるのが現実です。
しかし、財務改善は短期的には難しくても、2〜3年かけて段階的に整備することが可能です。定期的な試算とシミュレーションを行い、「経審に強い決算書」を目指すことで、公共工事参入の可能性が大きく開けていきます。
江東区・那覇市といった都市部でも、地場の中小建設業者が公共事業で活躍するチャンスは十分あります。経審に対応した財務づくりを第一歩として、ぜひ公共工事の世界に踏み出してみてください。