一般建設業から特定建設業へ変更後の注意点、実務面・実績の出し方など

建設業許可において「特定建設業」は、元請として一定規模以上の工事を請け負うために必要な許可です。
特に公共工事や大手企業との取引を拡大したい事業者にとっては、事業の飛躍に向けた大きな一歩といえるでしょう。

しかし、「特定建設業の許可を取ったら終わり」ではありません。
むしろ、許可取得後の実務対応・書類整備・経営判断の方が、会社の将来に大きな影響を与えることになります。

本記事では、一般建設業から特定建設業へ変更した後に注意すべきポイントについて、行政実務の現場から解説いたします。

目次

1. 「発注者から直接請ける1件4,000万円以上の工事」の意味

特定建設業の対象となる工事とは、以下の通りです。

  • 建築一式工事の場合:1件の請負金額が6,000万円以上(税込)
  • 建築一式工事以外の工事:1件の請負金額が4,000万円以上(税込)
  • かつ、下請業者に工事の全部または一部を発注(下請契約)するもの

つまり、4,000万円を超える工事でも自社で完結(自社施工)する場合は一般建設業で足りるため、「下請に出す予定があるか」がポイントです。

実務上の注意点:

  • 工事契約時点で請負金額が4,000万円(税込)を超えるかを明確に判断
  • 1件の工事を複数契約に分けても、実態として一体的な工事であれば「1件」として扱われます(名目分割は不可)

2. 特定建設業取得後の工事実績管理

特定建設業では、1件あたり4,000万円超の元請工事を受注・遂行することが許容されるため、受注状況や下請契約の管理が極めて重要になります。

実務対応のポイント:

(1) 契約書の整備

  • 発注者との契約書(元請契約)には、工事金額、工期、請負範囲が明確に記載されている必要があります
  • 下請契約書も、金額・契約日・工事内容が明記された正式な書面を作成

(2) 工事ごとのファイル管理

  • 工事台帳、注文書・請求書、下請契約書、施工体制台帳などを工事ごとにファイリング
  • 工事完了後、少なくとも5年間は保管(公共工事では10年保管が原則)

(3) 施工体制台帳・施工体系図の作成

  • 元請が下請に出す工事については、施工体制台帳施工体系図を作成し、現場に備え付けが必要です
  • 専任技術者が現場に常駐している場合には、通知義務も発生するため注意が必要

3. 専任技術者と現場管理体制

特定建設業では、建設業許可申請時に営業所に常勤していた「専任技術者」が、一定規模以上の現場に配置転換されることがあります。

この際、次の点に留意が必要です。

実務対応の注意点:

  • 現場に専任技術者を配置した場合、営業所の専任技術者が一時的に不在になることがあり得ます
  • この場合は、別の技術者を営業所の専任技術者に補充しないと、許可要件を満たさなくなるリスクがあります
  • 一時的な交代も含め、役所への変更届出が必要となることもあるため、事前に確認しましょう

4. 財務内容と経営事項審査(経審)の意識

特定建設業を取得した企業の多くが、公共工事入札への参加も視野に入れています。
その際に必須となるのが、経営事項審査(経審)です。

注意点:

  • 特定建設業においては、自己資本額4,000万円以上、かつ資本金2,000万円以上の財務基準を維持する必要があります
  • 許可を取得した後の財務悪化(赤字決算など)が続くと、次回更新時に特定建設業の継続が難しくなる場合もあります

実務対応:

  • 毎期の決算書について、顧問税理士と連携し、建設業財務諸表を正確に作成
  • 建設業許可の更新前、経審前には、経営状況分析のシミュレーションを実施し、資本比率や収益性指標をチェック

5. 許可更新・業種追加時の注意点

特定建設業取得後、次にやってくるのが「許可更新」や「他業種追加」のタイミングです。

実務ポイント:

  • 許可更新時には、財務内容と専任技術者要件が継続して満たされているかを再チェック
  • 元請工事の実績を証明する際には、注文書や請求書だけでなく、入出金の記録も添えることで証明力が強化されます
  • 業種追加の場合も、特定業種として追加するには、その業種での実績・技術者が必要になる点に注意

6. よくある誤解と注意点

「特定建設業=大企業専用の制度」ではない

→ 中小企業でも、元請で一定規模の工事を行うなら必要になります

「4,000万円は外注費の合計」ではない

→ 発注者からの請負金額が基準。仮設工事などを含めて総額が超える場合は注意

「元請実績が出ないから特定はいらなかった?」と後悔しないために

→ 将来的な受注予定・公共事業参入・入札参加を見据えて取得するケースも多くあります。3年〜5年先の事業計画と連動して判断すべきです

7. まとめ「許可取得後こそが実務の本番」

特定建設業は、取得しただけでは意味がなく、その後の実務管理・経営の健全性維持が求められる制度です。
特に江東区や那覇市のように、都市インフラ・再開発・観光関連の大規模工事が今後増える地域では、特定建設業を活かすチャンスが多くあります。

許可取得後も、次のような点に日頃から取り組んでおくことが重要です。

  • 工事実績の管理と書類の整備
  • 技術者の人事配置と適切な体制整備
  • 財務内容の見直しと資本の強化
  • 公共事業への参加を見据えた経審対策

建設業界における「信頼」は、許可の有無だけでなく、運用の誠実さから生まれます。
許可取得後こそ、本当の意味での“経営力”が試されるタイミングです。

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