
現代では、家族の形が多様化し、非嫡出子(婚姻外の子)や養子が家族の一員であることは決して珍しいことではありません。しかし、相続においては、法律上の「親子関係」や遺言の内容によって、受け取れる財産の量や権利が大きく異なります。
特に次のようなケースで、正確な理解と対策が必要です。
- 「非嫡出子に正当な財産を渡したいが、戸籍上は認知していない」
- 「養子にした子に、他の相続人よりも多くの財産を渡したい」
- 「相続人ではない子にも何かを遺したい」
このような思いを実現するには、「遺言書の作成」が非常に有効ですが、その際には法定相続制度との調整や遺留分への配慮が欠かせません。
この記事では、非嫡出子や養子に財産を遺すための遺言書作成時のポイントを、わかりやすく解説します。
1. 非嫡出子・養子に対して遺産を遺すには?
まず、非嫡出子や養子が法律上の「子」として相続人になっているかどうかで、大きく対応が分かれます。
【A】相続人である場合
以下のいずれかに該当すれば、非嫡出子や養子も実子と同等の相続権を持ちます。
- 非嫡出子だが、生前に認知している
- 養子縁組をしている(普通養子・特別養子)
この場合、遺言がなくても、他の子どもと同様に法定相続分を取得できます。
ただし、「他の子より多くの財産を遺したい」「特定の不動産を遺したい」といった希望があるなら、遺言で明確に指定する必要があります。
【B】相続人ではない場合
次のようなケースでは、そのままでは遺産を受け取れません。
- 非嫡出子で、認知されていない
- 養子縁組をしていない子(事実上の子)
- 内縁の配偶者の子
このような人に財産を遺したい場合は、「遺贈(いぞう)」として記載することで実現できます。
2. 非嫡出子や養子に遺産を渡す方法
① 相続人であれば「相続させる」旨を記載
法定相続人である非嫡出子・養子に対し、他の相続人とは異なる財産配分をしたい場合は、次のように遺言に記載します。
例文:
長男〇〇には、自宅不動産(東京都江東区〇〇番地の土地建物)を相続させる。
養子△△には、預金全額を相続させる。
このように特定の財産を特定の相続人に相続させる旨を明記することで、遺産の分配方法をコントロールできます。
② 相続人でない場合は「遺贈する」と記載
たとえば、「認知していない非嫡出子」や「養子縁組をしていない子」に対しては、「相続させる」ではなく「遺贈する」という表現を使います。
例文:
私は、〇〇(昭和〇年〇月〇日生)に、預貯金のうち500万円を遺贈する。
これにより、遺言により相続人以外の人にも財産を遺すことが可能になります。
3. 遺言作成時の注意点① 遺留分への配慮
法定相続人には「遺留分(いりゅうぶん)」という最低限の取り分が法律で保障されています。これは、たとえば以下のような配分をした場合に問題になります。
ケース
- 養子にすべての遺産を遺贈
- 認知していない子に全財産を遺贈
- 長男には何も与えない
これに対し、他の相続人(遺留分権利者)が「遺留分侵害額請求」を行うと、金銭の支払い義務が発生する可能性があります。
遺留分の権利者
- 配偶者
- 子(嫡出・非嫡出問わず)
- 父母などの直系尊属(子がいない場合)
兄弟姉妹には遺留分がありません。
対策
- 相続人に配慮し、完全な排除は避ける
- 必要に応じて「遺留分に配慮した財産配分」を設計する
- 円滑な相続を望む場合は、公正証書遺言を作成し、家族に遺言の存在を伝えておく
4. 遺言作成時の注意点② 認知との併用
非嫡出子に財産を残すために、遺言と同時に認知を行うことも可能です。これにより、その子を法定相続人にすることができます。
遺言認知の仕組み
- 遺言書に「〇〇を私の子と認知する」と記載
- 被相続人の死後、遺言執行者が認知の届出を行う
- 認知された子は、法定相続人となり、遺留分も主張できるようになる
注意点
- 他の相続人が争う可能性がある
- 財産配分が大きく変わるため、家庭内での説明も重要
5. 遺言書の形式と保管の注意点
非嫡出子や養子に関するデリケートな内容を含む遺言書は、正確な形式と確実な保管方法が必要です。
自筆証書遺言
- 全文自筆で書く必要あり(財産目録はパソコン可)
- 方式不備で無効になるおそれあり
- 法務局での「自筆証書遺言保管制度」を活用するのがおすすめ
公正証書遺言
- 公証人が作成するため、形式的な無効の心配なし
- 原本が公証役場に保管され、家庭裁判所の検認も不要
- 相続人の間でトラブルが予想される場合には最適
6. 非嫡出子・養子へ遺す想いを確実に実現するには
非嫡出子や養子に特別な思いがあっても、法律に沿った遺言がなければ、その想いは叶わない可能性があります。以下の点を意識しましょう。
- 誰に、何を、どのように遺すかを明確に記載
- 相続人でない人には「遺贈」と記す
- 法定相続人の遺留分に配慮し、後のトラブルを防止
- 認知を望む場合は、遺言で認知の意思表示を忘れずに
- 公正証書遺言の活用で形式の不備を避ける
まとめ
非嫡出子や養子が関わる相続は、家族関係が複雑であるほどトラブルのリスクも高まります。自分の意思を正しく伝える手段として、遺言書は非常に有効です。しかし、形式や文言に誤りがあると、かえって無効になったり、紛争の原因となるため、慎重な作成が求められます。
江東区や那覇市で相続や遺言に関心がある方は、ご自身の家族構成をふまえて、「誰に、どのように財産を残したいか?」を早めに整理しておくことが大切です。