
1.はじめに
国際化が進んだ現代、相続財産に海外資産が含まれるケースは珍しくなくなりました。不動産、預金口座、株式、ファンド、保険契約など、多種多様な財産が国外に存在することがあり、相続人がこれらの名義変更や移転登記を行う必要が生じます。
日本国内の相続手続きとは異なり、海外資産の名義変更は国ごとの法律・制度に則って行う必要があるため、煩雑で時間も費用もかかる傾向にあります。今回は、実際に相続手続を進めるうえで直面する主なポイントと注意点を詳しく解説します。
2.名義変更・移転登記の対象となる海外資産
主な資産の種類は以下のとおりです。
- 海外の不動産(土地・建物)
- 外国銀行の預金口座
- 外国証券(株式、ファンドなど)
- 海外法人の出資持分
- 海外の生命保険契約
これらの資産を相続するには、現地法に基づいた名義変更・登記が必要です。
3.基本的な流れ
国ごとに制度の違いはありますが、概ね次のステップで手続が進みます。
(1) 必要書類の収集
- 戸籍謄本(英訳・認証付き)
- 被相続人の死亡証明書(Death Certificate)
- 相続関係説明図・法定相続人の証明書
- 遺言書(ある場合)または遺産分割協議書
- 相続人の本人確認資料(パスポート等)
(2) 翻訳・アポスティーユ認証 日本で発行された公文書は、現地で使用するために英訳し、公証人役場または外務省でアポスティーユまたは領事認証を取得する必要があります。
(3) 現地専門家への依頼 実際の名義変更は、現地の弁護士、公証人、登記士、銀行担当者などと連携して進めます。言語や制度の違いがあるため、専門家の関与は不可欠です。
(4) 登録・移転手続き 不動産であれば現地登記所における登記手続、預金であれば銀行での名義書換、証券であれば証券会社への申請となります。
4.国ごとの主な違いと注意点
(1) アメリカ
- 州ごとに法律が異なる(州裁判所の手続が必要な場合あり)
- 遺言書がある場合は「プロベート(Probate)」手続が必要
- 名義変更の前に相続税申告や承認を求められることがある
(2) 中国・香港
- 不動産の名義変更には現地公証が必要
- 相続人が訪中して手続することが求められるケースもある
(3) オーストラリア・カナダ
- 戸籍制度が存在しないため、家族関係を証明する書類を整備するのが困難
- 財産の種類や所在州によって異なる制度あり
5.実務上の落とし穴と対応策
(1) 必要書類の不備 日本で発行された戸籍謄本や遺産分割協議書がそのままでは受理されないケースが大半です。英訳、公証、認証の手間を見越して準備を進める必要があります。
(2) 相続人間の意見不一致 海外資産の分割方法について争いが生じた場合、現地法の適用に従って調整する必要があり、手続が長期化するリスクがあります。
(3) 税務問題 相続税だけでなく、現地での取得税や移転税が発生するケースもあり、日本国内の相続税との二重課税が問題になることもあります。租税条約の活用や、税理士・弁護士との連携が重要です。
6.名義変更にかかる期間と費用
国や資産の種類によって異なりますが、おおよその目安は以下のとおりです。
- 預金口座の名義変更:3~6か月程度
- 不動産の登記移転:6か月~1年程度
- 株式・ファンドの名義変更:1~3か月程度
費用も書類翻訳・認証・専門家報酬・現地税金などを含めて、数十万円から数百万円に及ぶこともあります。
7.まとめ
海外資産の相続に伴う名義変更・移転登記は、複雑かつ多岐にわたる手続を伴います。語学・法制度・書類整備・国際税務の壁があるため、専門家との連携が欠かせません。
東京都江東区・沖縄県那覇市の方で海外資産の相続に直面された場合には、早い段階から行政書士・弁護士・税理士などの専門家に相談し、確実かつスムーズな手続きを進めましょう。