
建設業許可を維持する上で最も重要な人材といえるのが、「専任技術者」と「経営業務の管理責任者(以下、経管)」です。これらの要件を満たす人材が会社を退職した場合、すぐに次の人材を確保しなければ、建設業許可そのものが維持できなくなる可能性があります。
この記事では、万が一「専任技術者」や「経管」が退職してしまったとき、どのような対応をとればよいのか、その実務とポイントについて詳しく解説します。
1.なぜ退職が大問題なのか?建設業許可の基本要件
建設業許可を取得・維持するためには、次の5つの要件を常時満たしている必要があります。
- 経営業務の管理責任者がいること
- 専任技術者がいること
- 誠実性
- 財産的基礎
- 欠格事由に該当しないこと
このうち、1と2は「人的要件」と呼ばれ、特に営業所に「常勤」していることが求められます。つまり、専任技術者や経管が退職した時点で、その会社は要件を満たさなくなる可能性があり、早急な対応が求められるのです。
2.退職前に準備しておくべきリスクマネジメント
(1)複数名体制を検討する
もっとも有効なのは、許可取得要件を満たす人材を複数名体制で抱えておくことです。例えば、専任技術者となれる資格を持つ方が2人いれば、一人が退職しても、残った人が代替者として対応可能です。
同様に、経管についても、会社内部で後継者を育て、必要な経営経験を積ませておくことで、有事の際にも体制維持が可能になります。
(2)退職の兆候を早期に察知する
社員の退職には必ず前兆があります。「最近やる気がない」「家族の事情で地元に戻る可能性がある」など、日頃のコミュニケーションから兆候をつかみ、できるだけ早く対応策を講じることが重要です。
3.実際に退職してしまった場合の対応フロー
それでは、実際に退職してしまった場合の対応手順を見ていきましょう。
(1)最初に確認すべきこと、他に代替できる人がいるか?
まず、自社に現在「専任技術者」や「経管」の代替要件を満たせる人がいるかを確認します。
- 専任技術者については、国家資格・学歴+実務経験・実務経験10年などの要件
- 経管については、役員経験、執行役員・補佐経験など
該当者がいれば、変更届を速やかに提出することで建設業許可の継続が可能です。
(2)代替者がいない場合の選択肢
残念ながら代替者がいない場合は、以下の選択肢を検討します。
① 一時的な休業を検討する
営業所を一時的に休業扱いとすることで、専任技術者や経管の欠如を回避できます。営業停止ではなく、「営業所の機能を一時停止」する手続きです。
ただし、この間は営業活動が制限されるため、長期化は避けなければなりません。
② 外部人材の採用
外部から要件を満たす人材を採用し、常勤で雇用することで再び体制を整えることができます。
この場合は、採用→雇用契約→常勤証明の取得→変更届提出という流れが必要です。
4.変更届の提出期限と実務の流れ
(1)変更届の期限は「退職から2週間以内」
建設業許可の人的要件に変更が生じた場合、原則として2週間以内に「変更届」を提出する必要があります。退職日は在籍証明書や離職票等で確認されます。
ただし、都道府県により若干運用が異なる場合があるため、早めに担当窓口に確認しましょう。
(2)提出書類の例(専任技術者の交代の場合)
- 変更届(様式第二号)
- 新しい専任技術者の経歴書、証明書
- 資格証の写しまたは実務経験を証明する資料
- 常勤性を示す書類(社会保険加入証明など)
経管についても同様に、役職登記簿、役員経験証明、補佐体制の証明書類などが必要になります。
5.変更届を出せないとどうなる?リスクとペナルティ
(1)最悪は「許可の取消処分」
人的要件を満たさない状態が継続し、正当な理由なく変更届も提出されない場合、建設業法第29条の取消事由に該当します。
これにより、建設業許可の取消処分を受ける可能性があり、5年間は再取得できないこともあります。
(2)指導・改善命令が下されることも
初期の段階では「改善命令」「報告命令」などが下されるケースもありますが、是正がなされなければ次第に処分が重くなります。
6.まとめ リスクは備えと迅速な対応で最小限に
専任技術者や経管の退職は、建設業許可において重大なリスクです。しかし、事前に複数名体制を整えておくこと、後継候補を育成しておくこと、そして万一退職した場合にも速やかに代替者を立てて変更届を提出することで、許可の維持は十分可能です。
建設業許可を持続するには、日々の人的体制の管理が重要です。退職をリスクとせず、成長や変化のきっかけとして前向きに対応していきましょう。