
1 遺言執行者の報酬とは
遺言執行者は、被相続人(亡くなった方)の遺言内容を実現するという重要な役割を担います。
たとえば、不動産や預貯金の名義変更、遺贈の実行、相続人への分配、債務の処理など、膨大で専門的な業務を行う必要があります。
このような職務に対して、遺言執行者は「報酬」を受け取ることができます。
報酬の設定は遺言書であらかじめ定めておく場合もありますが、記載がない場合には、法律の規定に従って家庭裁判所が相当額を定めることになります。
2 報酬の根拠と法的位置づけ
民法第1018条では、次のように規定されています。
遺言執行者の報酬は、遺言に別段の定めがないときは、家庭裁判所が定める。
つまり、遺言書で「遺言執行者の報酬は〇円とする」あるいは「報酬は無償とする」と記載されていれば、その内容が優先されます。
一方で記載がない場合は、相続財産の内容や手続きの難易度などを考慮し、家庭裁判所が適正な金額を決める仕組みになっています。
遺言執行者が専門職である場合は、実務上、一般的な「相場」をもとに報酬が設定されるケースが多いです。
3 遺言執行者の業務内容と報酬額の関係
報酬は、遺言執行者が行う業務の範囲や複雑さに応じて変動します。代表的な業務は次のとおりです。
- 遺言書の内容確認と相続人・受遺者への通知
- 財産の調査・一覧作成(不動産・預貯金・有価証券など)
- 遺贈の実行(特定遺贈・包括遺贈など)
- 登記や口座解約・払戻しなどの実務手続
- 債務の弁済や税金の支払い
- 相続人への報告・遺言執行完了の通知
これらのうち、特に不動産登記や金融機関の手続きが複数に及ぶ場合、業務量が大幅に増えます。
そのため、報酬も単純な金額設定ではなく、遺言内容の複雑さや財産の規模によって柔軟に決める必要があります。
4 実務上の報酬相場の目安
報酬額は、法律で一律に決められているわけではありませんが、一般的な目安として次のような基準が多く採用されています。
- 相続財産の総額が5,000万円未満の場合:30万~50万円程度
- 相続財産が5,000万円~1億円の場合:50万~100万円程度
- 相続財産が1億円を超える場合:100万円以上(財産の0.5~1%程度)
これはあくまで一例であり、実際には、業務の難易度や受遺者・相続人の人数、相続財産の種類によって調整されます。
特に東京都江東区や沖縄県那覇市のように、不動産価値が高い地域では、登記関連の業務量が多くなりがちで、その分報酬もやや高めに設定される傾向があります。
5 遺言書に報酬を定める場合の書き方
遺言書に報酬額を明記しておくことは、後のトラブル防止に非常に効果的です。
記載例としては、次のような書き方が考えられます。
- 「遺言執行者には報酬として金50万円を支払う。」
- 「遺言執行者には、相続財産の1%に相当する金額を報酬として支払う。」
- 「遺言執行者の報酬は無償とする。」
このように明確にしておくことで、相続人間で「いくら払うのか」「報酬の根拠は何か」といった不要な争いを避けることができます。
特に第三者の専門職を遺言執行者に指定する場合は、報酬規定を明示しておくことを強くお勧めします。
6 報酬以外にかかる費用の種類
遺言執行にあたっては、報酬のほかにも実費が発生します。主なものを挙げると次のとおりです。
- 不動産登記の登録免許税
- 戸籍・住民票などの取得費用
- 郵送・通信費、交通費
- 金融機関への手数料(残高証明など)
- 必要に応じた専門家(税理士・土地家屋調査士など)への委託費用
これらの費用は「遺言執行費用」として、相続財産から支出することが認められています。
つまり、遺言執行者が自腹で負担するものではなく、被相続人の遺産の中から支払うことが原則です。
7 家庭裁判所に報酬決定を申立てる場合
遺言書に報酬の定めがなく、相続人と遺言執行者の間で金額の合意ができない場合には、家庭裁判所に「報酬決定の申立て」を行うことができます。
申立て先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
申立書には、遺言執行者の業務内容・期間・財産の種類などを詳しく記載し、それを基に裁判所が「相当額」と判断する報酬を決定します。
このような制度により、遺言執行者が正当な対価を受け取ることができると同時に、相続人も不当な負担を防ぐことができます。
8 専門職に依頼する際の注意点
行政書士・弁護士・司法書士など、専門職に遺言執行を依頼する場合は、契約前に報酬体系を明確にしておくことが大切です。
実務上は次のような2つの方式があります。
- 定額制:業務全体に対して固定金額を設定する方式
- 割合制:遺産総額の一定割合を報酬とする方式
どちらにも一長一短があります。
定額制は費用が明確で安心ですが、業務が膨大な場合に割に合わないこともあります。
一方、割合制は相続財産の規模に応じた公平な設定が可能ですが、少額遺産の場合には割高感が出ることもあります。
契約前に、どの範囲の業務まで報酬に含まれるのか(登記申請、税金対応など)を具体的に確認しておきましょう。
9 報酬をめぐるトラブルを防ぐために
報酬に関するトラブルを防ぐためには、次の3つのポイントが重要です。
- 遺言書に報酬の有無・金額を明記しておくこと
- 相続人全員に、報酬の支払い根拠を明示すること
- 家庭裁判所での決定を利用することも検討すること
特に遺言執行者が相続人の一人である場合、他の相続人から「なぜ自分だけ報酬をもらうのか」と不満が出やすくなります。
事前の説明と透明な処理が、円滑な相続のために不可欠です。
10 まとめ
遺言執行者の報酬は、遺言内容を確実に実現するための正当な対価です。
被相続人の意思を尊重しつつ、公平かつ適正な金額設定を行うことが、トラブルのない相続の第一歩となります。
東京都江東区や沖縄県那覇市のように不動産や預貯金の種類が多い地域では、専門職に依頼して確実に遺言執行を行うケースが増えています。
遺言書を作成する際には、信頼できる遺言執行者を選び、報酬や費用の取り決めを明確にしておくことをおすすめします。
行政書士見山事務所では遺言作成と併せて遺言執行者の指定を頂いている実績がございます、お気軽にご相談下さい。