任意後見制度と家族信託の併用事例、将来の不安を減らすための現実的な資産管理の備えについて

高齢化の進展とともに、「自分が将来認知症になったら」「親の資産管理ができなくなったら」といった不安を抱える方が年々増えています。そこで注目されているのが、任意後見制度と家族信託を併用するスキームです。

この2つの制度をうまく組み合わせることで、本人の意思を最大限尊重しながら、将来の財産管理や相続対策をバランスよく進めることが可能になります。

今回は、東京都江東区や沖縄県那覇市で信託や後見を検討されている方に向けて、制度の基本から具体的な併用事例、実務での注意点までを丁寧に解説していきます。

目次

1. 任意後見制度と家族信託、それぞれの特徴

任意後見制度とは?

本人が元気なうちに「将来自分の判断能力が低下したときに備えて、後見人となる人を指定しておく契約(=任意後見契約)」です。判断能力が衰えた際には、家庭裁判所に申し立てることで正式に効力が発生します。

  • 契約時に本人の意思能力が必要
  • 家庭裁判所が任意後見人を監督
  • 本人が不利益を被らないよう保護する制度

家族信託とは?

信頼できる家族などに、自分の財産の管理や処分を託す仕組みです。契約書で目的やルールを明確に定め、柔軟な資産承継・管理が可能になります。

  • 自分の判断能力があるうちに設計
  • 管理対象は「信託した財産」に限る
  • 家庭裁判所の関与は基本的にない

2. なぜ併用が必要なのか?

信託と後見は、それぞれ得意な領域があります。

  • 家族信託は財産管理には強いが、本人の「身上監護(施設との契約・介護サービスの利用など)」はカバーできない。
  • 任意後見制度は本人の生活・身上保護に対応できるが、財産管理はやや形式的で融通が効きにくい。

つまり、家族信託だけでは生活全体を支えられず、任意後見だけでは資産活用の自由度が乏しいのです。

この2つを組み合わせれば、「柔軟な財産管理」と「生活面での安全確保」を両立することが可能になります。

3. 併用スキームの具体的な設計(モデルケース)

モデルケース:江東区在住の高齢女性Aさん

  • 年齢:75歳
  • 配偶者は他界し、子ども(長男・長女)あり
  • 自宅不動産と定期預金(総資産約5000万円)を所有
  • 将来、認知症などで判断能力が衰えたときの不安を抱えている
  • 長男を中心に家族が協力的

ステップ1:家族信託契約を締結

まず、信託契約を結びます。

  • 委託者:Aさん
  • 受託者:長男
  • 受益者:Aさん(本人)
  • 信託財産:自宅不動産・一部預金
  • 目的:Aさんの生活資金の確保、不動産の管理・将来の売却も可能とする

→この段階で、判断能力があるうちに「財産管理の仕組み」が整います。

ステップ2:任意後見契約を締結

信託契約とは別に、公証人の立ち会いのもとで任意後見契約を結びます。

  • 本人(委任者):Aさん
  • 任意後見人予定者:長男
  • 契約内容には、施設入所手続や医療同意、身上監護の内容も明記

→今は効力が発生しませんが、将来Aさんの判断能力が低下したとき、家庭裁判所に申し立てることで正式に任意後見が開始します。

ステップ3:将来の備えが完成

  • 財産の管理(信託)と生活・医療契約等(任意後見)の両輪が整い、安心して老後を迎えることができます。

4. 併用のメリット

財産管理と身上保護の両立

  • 家族信託では資産を柔軟に管理・処分でき、任意後見では施設契約や医療手続も代行できます。
  • 一方の制度ではカバーできない領域を補完し合います。

認知症リスクへの備えとして強力

  • 認知症発症後、家族信託だけでは対応しきれない事務が出てきます(介護契約、入院手続等)。
  • 任意後見をスタンバイさせておけば、そのときにすぐに生活の支援体制が発動します。

家庭裁判所との関係を最小限に

  • 任意後見が開始するのは、本人の判断能力が低下してから。
  • それまでは、信託で十分に柔軟な財産管理が可能です。

5. 実務での注意点

信託契約と任意後見契約の整合性を保つ

両者の契約内容が食い違うと、運用上トラブルになる可能性があります。たとえば、「信託財産は受託者が管理するが、任意後見人が別人」だと利害調整が必要です。

→信託と後見の設計は、同一人物が担うのが原則。どうしても異なる場合は、役割分担を明記する必要があります。

家庭裁判所への申立て時期の判断

任意後見契約は、契約を交わしただけでは効力が発生しません。実際に本人の判断能力が低下したら、家庭裁判所に「監督人選任の申立て」を行う必要があります。

→早すぎる申立ては逆効果になることもあるため、専門家と慎重に時期を検討しましょう。

医療・介護の意思決定について

家族信託では医療行為に対する同意はできません。任意後見契約の中に、できる限り具体的な「医療・介護に関する希望」や「代行する範囲」を盛り込むことが望ましいです。

6. 江東区・那覇市での活用事例や傾向

東京都江東区では高齢の単身世帯も多く、家族による支援体制がある場合は家族信託と任意後見の併用が効果的に機能しています。

一方、沖縄県那覇市では、親族間のつながりが比較的強く、信託に対する抵抗感が少ないケースも見られます。地域性を考慮しつつ、制度を丁寧に案内することが信頼を得る鍵となります。

7. まとめ

項目家族信託任意後見
対象財産管理・承継身上監護・生活支援
契約時期判断能力があるうち判断能力があるうち
効力発生契約締結後すぐ判断能力の低下後、申立てにより発動
柔軟性高い限定的
裁判所の関与なし任意後見監督人の監督あり

両制度は対立するものではなく、むしろ補完し合う関係にあります。

将来の不安を減らし、安心して老後を迎えるために。
制度を正しく理解し、自分や家族に合った設計をすることが何よりも重要です。

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