
建設業を始めるには、建設業許可を取得することが必要不可欠です。その許可取得のためには、技術的・経営的な要件に加えて、「財産的基礎があること」という要件を満たす必要があります。この記事では、建設業許可の中でも特に重要で、かつ多くの方がつまずく「財産的基礎」について、詳しく解説していきます。
1. 財産的基礎とは何か?
建設業法第7条第3号では、建設業者が「請負契約を履行するに足りる財産的基礎を有すること」と規定されています。これは、工事を円滑に遂行するための経済的な裏付けがあるかどうかを判断するものであり、資金繰りの悪化や倒産リスクの高い企業に対して許可を出すことを防ぐ制度的役割を持ちます。
一般建設業と特定建設業で異なる基準
- 一般建設業:自己資本額500万円以上 または 一定の金融要件を満たすこと
- 特定建設業:資本金2,000万円以上、自己資本4,000万円以上 など、より厳しい基準
この記事では、主に一般建設業の許可申請における「財産的基礎」の基準を中心に解説していきます。
2. 自己資本500万円以上とは?
自己資本とは何か?
自己資本とは、会社や事業主が外部からの借入によらずに保有している純粋な資金を指します。法人であれば、貸借対照表上の「純資産の部」の合計額、個人事業主であれば、確定申告書の「元入金」がこれに該当します。
例:法人の場合
- 資本金:300万円
- 利益剰余金:200万円
- → 自己資本合計:500万円
どのように証明するのか?
自己資本の証明には、直近の決算を反映した財務諸表を提出する必要があります。具体的には、次のような資料です。
- 貸借対照表(直前の事業年度のもの)
- 財務諸表の注記や明細書(必要に応じて)
いずれも、建設業許可申請においては「建設業財務諸表様式」に合わせて作成・提出する必要があります。これは、通常の税務申告の決算書と項目が異なるため、単なる転記ではなく、一定の変換作業が必要です。
千円単位の記載に注意
建設業許可に提出する財務諸表は、原則として千円単位で記載します(例:「2,000,000円」は「2,000」と記載)。百万円単位が求められるケースもありますが、大企業以外では千円単位が基本です。
3. 自己資本が500万円に満たない場合の代替基準
自己資本が500万円未満の場合でも、以下のいずれかの条件を満たせば「財産的基礎あり」と判断されることがあります。
① 500万円以上の預金残高(残高証明書の提出)
建設業許可申請の際に、金融機関発行の残高証明書(発行日が申請日前1か月以内)を添付し、預金残高が500万円以上あることを証明することで代替が可能です。
注意点
- 残高証明書は通帳コピーでは不可
- 発行日が古いものは無効
- 定期預金も可。ただし、解約不能な定期は除かれる可能性あり
② 直前5年間において許可を受けて継続して営業した実績がある
すでに過去に建設業許可を受けており、直近5年継続して営業していた実績がある場合も、「財産的基礎あり」と判断されます。ただし、これは新規申請ではなく、更新や許可業種追加時に該当する例です。
③ 営業継続年数+返済能力で判断されるケース
やや例外的な扱いですが、融資を受けている場合、返済能力のある安定したキャッシュフローを証明できれば、補完的資料として評価されることもあります。融資証明書の提出や返済実績などが求められます。
4. 流動比率などの財務指標のチェックポイント
財務的健全性を測る指標として、自己資本以外にも「流動比率」や「自己資本比率」がチェックされることがあります。これらは明文化された要件ではありませんが、行政庁が判断材料とすることがあります。
流動比率(Current Ratio)
計算式
流動資産 ÷ 流動負債 × 100(%)
この数値が高ければ高いほど、短期的な支払い能力が高いとされます。一般的には120%以上が望ましいとされています。
自己資本比率(Equity Ratio)
計算式
自己資本 ÷ 総資産 × 100(%)
これは会社の総資産に占める自己資本の割合であり、財務の健全性を示す重要な指標です。30%以上が一つの目安です。
5. 実務上のポイントとよくある間違い
税務署提出用の決算書をそのまま使ってしまう
税務申告用の決算書と、建設業許可申請用の財務諸表は科目や分類が異なります。たとえば、売掛金は「完成工事未収入金」、買掛金は「工事未払金」とする必要があります。修正せずに提出すると、差し戻しのリスクがあります。
貸借対照表だけを整えて損益計算書を軽視する
損益計算書に記載された「完成工事高」や「営業利益」なども、許可の審査において参考にされます。税務上の表現との違いを理解したうえで、正確に記載しましょう。
通帳コピーで済まそうとしてしまう
残高証明書の提出が求められる場合、通帳コピーでは原則認められません。正式な証明書を金融機関で発行してもらいましょう。
6. まとめ 書類整備の段階から戦略的に
建設業許可の申請における「財産的基礎」は、単にお金があるかないかだけでなく、その資産内容が正確に証明できるかどうかが重要です。そのためには、申請前の数か月から財務内容を整理し、残高証明書や財務諸表の作成準備を進めることが不可欠です。
東京都江東区や沖縄県那覇市でこれから建設業許可の取得を検討している事業者の皆様は、ぜひ一度ご自身の財務状況をチェックし、早めの準備を心がけましょう。必要に応じて専門家に相談することも、スムーズな許可取得への近道となります。