
相続の現場では「遺贈」と「相続放棄」という二つの制度が交錯することがあります。たとえば「相続人が相続放棄をしたけれど、同時に遺贈を受けることはできるのか」といった疑問です。実務上も珍しくないテーマですが、正確な理解がなければトラブルにつながりかねません。今回はこの問題を整理し、江東区や那覇市にお住まいの皆さまにわかりやすく解説します。
1 遺贈と相続の違いを整理
まず「遺贈」と「相続」は、似ているようで性質が異なります。
- 相続
法律によって当然に承継される権利義務です。配偶者や子などの法定相続人に、被相続人の財産が承継されます。相続放棄をすれば最初から相続人でなかったことになります。 - 遺贈
被相続人の意思(遺言)によって財産を承継する制度です。相続人以外の第三者や法人でも受け取ることが可能です。遺言に基づくため、法律上の相続とは独立しています。
つまり、遺贈は「遺言で指定された人に与える贈与の一種」であり、相続とは別のルートで財産が承継されるのです。
2 相続放棄をした相続人は遺贈を受けられるのか
結論からいえば、相続放棄をしても遺贈を受けることは可能です。
これは、相続放棄はあくまでも「法定相続分に基づく承継を放棄する」という行為であって、遺言で指定された「遺贈を受ける権利」には影響しないためです。
たとえば、以下のようなケースを考えてみましょう。
- 被相続人には長男と次男がいる。
- 遺言で「次男に自宅を遺贈する」と記載されている。
- 次男は借金の存在を理由に相続放棄をした。
この場合、次男は相続人としての立場を失いますが、遺言による「自宅の遺贈」は有効です。したがって、相続放棄後でも自宅を受け取ることができます。
3 例外に注意、遺贈を放棄することも可能
一方で、遺贈を受けたくない場合には「遺贈の放棄」という選択肢があります。遺贈の放棄は家庭裁判所ではなく、単に「受遺者が受け取らない意思を表明する」ことで成立します。
ただし注意点があります。遺贈には 負担付き遺贈(特定の義務を伴う遺贈)があります。この場合、受け取ると同時に義務を履行しなければなりません。例えば「財産を譲る代わりに仏壇を守ること」「施設に寄附すること」といった条件が付いているケースです。
受け取る義務が負担になりそうな場合には、遺贈の放棄も視野に入れる必要があります。
4 遺贈と相続放棄が同時に生じる典型的ケース
実務でよく見られるのは、次のような場面です。
- 借金が多い相続
相続人が相続放棄をする一方で、プラスの財産については遺贈の対象となっているケース。 - 特定の人に遺言で譲る意思がある場合
被相続人が「借金は相続させたくないが、自宅は確実に渡したい」と考えて遺言を残している。 - 公益法人や地域団体への遺贈
相続人は相続放棄を選びつつ、遺言で指定された法人に遺贈財産が渡るパターン。
特に江東区や那覇市のように高齢化が進んでいる地域では、財産管理や相続の在り方に配慮して遺贈を活用するケースが増えています。
5 相続人と受遺者の権利関係
ここで重要なのが、遺留分との関係です。
- 相続放棄をした人には遺留分請求権もなくなります。
- しかし、他の相続人には遺留分が残るため、遺贈の内容が遺留分を侵害している場合は争いになることがあります。
たとえば「すべての財産を友人に遺贈する」という遺言があった場合、相続人が相続放棄をしていれば問題ありませんが、放棄をしていない相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。
6 実務的な対応の流れ
相続放棄と遺贈が同時に生じる場面では、次のような流れを意識するとよいでしょう。
- 遺言書の有無を確認
法務局の遺言保管制度や公正証書遺言が残されていないかを確認します。 - 相続財産の全体像を把握
プラスの財産とマイナスの財産を一覧化し、相続放棄の必要性を検討します。 - 相続放棄の手続き
家庭裁判所に申述を行い、受理されれば相続人でなかったことになります。 - 遺贈を受けるかどうかの判断
負担付き遺贈か否かを含めて内容を確認し、受け取るか放棄するか決定します。 - 税務申告
遺贈財産は相続税の課税対象になります。放棄した場合も、税務上は「一度取得した後に放棄した」とみなされるケースがあるため、専門家の確認が必要です。
7 まとめ
- 相続放棄をしても遺贈は受け取れる。
- 遺贈は相続と独立した制度である。
- 遺留分や負担付き遺贈には注意が必要。
- 実務上は「遺言確認 → 相続放棄 → 遺贈の受諾または放棄」という流れで進めるのが安全。
江東区や那覇市で相続や遺言のご相談を受けていると、「相続放棄をすればすべて終わり」と誤解されている方が多くいらっしゃいます。しかし、遺贈という別の制度が関わることで、相続放棄後も財産を受け取る可能性が残るのです。
相続と遺贈は一見似ていても異なる仕組みです。状況に応じて正しい手続きを行い、ご自身やご家族の利益を守るためには、専門家に早めに相談することをおすすめします。
終活・生前相談、遺言の作成、相続手続に精通した行政書士見山事務所までお気軽にご相談下さい。