相続の際に最も重要なステップの一つは、遺産の評価です。この評価額が決定しないと、相続人間での公平な分割や、税務処理が難しくなります。遺産の評価額を算定する基準時は、相続開始時と遺産分割時の二つの時点が考えられます。これらの基準時には、それぞれ異なる留意点が存在しますので、詳しく見ていきましょう。
1. 遺産評価の基準時
遺産の評価額を算定する際には、以下の二つの基準時が存在します。
1.1 相続開始時の評価
相続が開始された時点、すなわち被相続人が亡くなった時点での遺産の評価額が「相続開始時の評価」となります。この時点での評価は、相続税の計算や特別受益・寄与分の計算に使用されます。相続税法に基づく評価額は、相続税の申告書に記載するための基準となり、遺産分割の基準額ともなります。
1.2 遺産分割時の評価
遺産分割協議を行う際の評価額は「遺産分割時の評価」となります。遺産の現物分割や代償金の支払いなど、具体的な分割の方法を決定するためには、実際に分割が行われる時点での遺産の評価額が必要です。この評価額は、相続人が実際にどの財産を取得するかを決定する際の基準となります。
2. 遺産評価の具体的な手順
2.1 相続開始時の評価の算定
相続開始時の評価額を求めるためには、以下の手順が一般的です:
- 資産の調査と評価:被相続人が所有していた不動産、株式、預金などの資産を調査し、それぞれの評価額を算定します。専門家による査定が必要な場合もあります。
- 負債の確認:相続開始時の負債も確認し、資産から差し引く必要があります。負債には、ローンや未払いの税金などが含まれます。
- 評価額の合意:相続人間で評価額について合意する必要があります。合意に基づき、相続税の申告が行われます。
2.2 遺産分割時の評価の算定
遺産分割時の評価額を求めるためには、以下の手順が一般的です:
- 現物分割の評価:実際に分割する財産の現物評価を行います。例えば、不動産の場合は、分割時点での市場価格を基に評価します。
- 代償金の計算:現物分割が行われた場合、相続分の過不足を代償金で調整する必要があります。この際の代償金額も遺産分割時の評価額に基づいて計算されます。
- 分割協議書の作成:遺産分割協議が成立した後、分割協議書を作成し、各相続人の相続分に基づいた財産の分配を行います。
3. 留意点
3.1 特別受益・寄与分の問題
特別受益や寄与分が関係する場合、相続開始時の評価額と遺産分割時の評価額の二つの時点での評価が必要です。特別受益や寄与分の計算においては、相続開始時の評価額を基にして計算することが求められます。これにより、相続人間での公平な分配が可能となります。
3.2 合意の必要性
相続人全員の合意が得られた場合には、相続開始時の評価と遺産分割時の評価が同一であるとすることも可能です。相続人間での評価額の合意は、相続手続きの円滑な進行に寄与します。評価額についての合意を事前に取っておくことが重要です。
3.3 評価額の基礎資料の準備
評価額の合意を得るためには、評価の基礎となる資料をしっかりと準備することが重要です。不動産の登記簿謄本や金融機関の残高証明書など、正確な情報をもとに評価を行う必要があります。
4. まとめ
遺産の評価額を算定する際には、相続開始時と遺産分割時の二つの基準時を考慮する必要があります。相続開始時の評価は相続税の申告や特別受益・寄与分の計算に使用され、遺産分割時の評価は実際の分割や代償金の計算に使用されます。評価額についての合意や基礎資料の準備は、相続手続きをスムーズに進めるために重要です。相続人間での信頼関係を維持し、公平な分割を行うためには、適切な評価とその基礎資料の準備が欠かせません。