相続トラブルを防ぐ“思いやり遺言”の書き方~兄弟仲が悪くなる前にやっておくべきこと~

「うちは仲の良い家族だから大丈夫」
そう思っていても、相続が“争族”になるケースは後を絶ちません。

特に兄弟姉妹間でのトラブルは、感情が複雑に絡み合いやすく、こじれると修復が難しいのが特徴です。

この記事では、実際に相続手続きに携わる中で多く見てきた現場の声をもとに、家族に争いを残さない“思いやり遺言”の書き方と心がけを、実践的に解説します。


目次

相続トラブルの約7割は「遺産額5000万円以下」の家庭で起きている

よく誤解されがちですが、相続トラブルは「資産家」だけの話ではありません。

実際、家庭裁判所の統計では遺産額5000万円以下の相続で全体の約75%1000万円以下でも約30%のトラブルが起きています。

不動産・預金・生命保険……。いずれも「金額」より「分けにくさ」「感情のぶつかり」が問題になるのです。


よくある兄弟間の相続トラブル例

ケース1:実家を相続した兄に不満が集中

「長男が親の面倒を見ていたから」と親が実家を長男に残す遺言を残したが、他の兄弟は「そんな話聞いてない」「不公平だ」と猛反発。感情的な亀裂が残ったまま、関係が断絶。

ケース2:遺言がなかったために“法定相続分”で大揉め

親が遺言を残さず亡くなり、兄弟で財産を法定相続分で分けることに。ある兄弟が勝手に預金を引き出してしまい、他の兄弟が激怒。協議は完全に決裂し、家庭裁判所に持ち込まれた。


「思いやり遺言」とは何か?

“思いやり遺言”とは、単に法的効力のある遺言を書くことだけではありません。

家族への配慮・説明・感謝の気持ちをきちんと伝える
それが「残された家族が争わない」ための遺言の本質です。

  • 誰に何を残すかを明記する
  • その理由や気持ちも言葉にする
  • 実行に移しやすい内容に整える

これらを意識することで、遺言は「争いの火種」ではなく「家族を守るメッセージ」として機能します。


■ “思いやり遺言”を書く5つのステップ

ステップ1:家族構成と財産の整理

まずは、自分の家族構成と財産状況を整理しましょう。

  • 配偶者・子・兄弟姉妹などの法定相続人は誰か?
  • 持っている財産の種類・おおよその金額は?
  • 不動産、預金、有価証券、車、借金なども忘れずに

東京都江東区や那覇市など都市部では、不動産の評価額が高い傾向があります。評価額が大きくても「現金化しづらい」=揉めやすいという特徴があります。

ステップ2:誰に何を残すかを決める

遺産は「均等に分ける」のが正解ではありません。家庭ごとに考慮すべき事情があります。

例:

  • 長男は親の介護をしてくれた
  • 次男は経済的に苦しい
  • 長女は遠方に住んでいてほとんど関わりがなかった
  • 妻には自宅と老後の生活資金を残したい

これらを総合的に考えて、「公平」ではなく“納得できる分け方”を設計しましょう。

ステップ3:遺言書の形式を選ぶ(自筆 or 公正証書)

自筆証書遺言

  • 自分で全文を手書きで作成
  • 2020年の法改正により、財産目録はパソコン作成もOK
  • 費用がかからないが、形式不備で無効になるリスクあり

公正証書遺言

  • 公証役場で公証人とともに作成
  • 証人2名が必要(専門家に依頼可能)
  • 遺言が確実に実行される(家庭裁判所の検認不要)

※家族間トラブルを避けるには、公正証書遺言が最も安全です。

ステップ4:付言事項で「想い」を伝える

遺言には「付言事項」として、法的効力はないが、遺産の分け方の理由や家族へのメッセージを書くことができます。

例:

「長男には生前多くの支援を受けたため、感謝の気持ちを込めて多めに遺します」
「子どもたちには、争うことなく助け合って生きていってほしいと願っています」

この一文があるかないかで、受け取る側の気持ちは大きく変わります。

ステップ5:定期的な見直しと保管方法

状況が変われば遺言も変わるのが自然です。

  • 相続人に変化があった(死亡・結婚・離婚など)
  • 財産内容が大きく変動した(不動産の売却など)
  • 気持ちや優先順位が変わった

こうしたときには、定期的な見直し・更新を行いましょう。

また、自筆証書遺言は2020年以降、法務局での「遺言書保管制度」も利用可能になりました。


遺言作成でよくある失敗例と注意点

×「財産をすべて妻に相続させる」とだけ書いた

→ 子どもがいる場合、遺留分(最低限の取り分)があり、争いのもとになる

× 不動産の名義が古くて誰のものか不明

→ 登記の名義を変更していないと、相続人がさらに増えて複雑に

× 遺言が古すぎて現実と合っていない

→ 相続時に混乱を生む。定期的な見直しが必要


■ “思いやり遺言”が生むもの:安心と家族のつながり

思いやりを込めた遺言は、家族が安心して未来を歩むための贈り物です。

  • 「お父さんがこう言ってくれてるなら、従おう」
  • 「お母さんの気持ちが伝わって、納得できた」
  • 「きちんと準備してくれてありがたい」

遺言は死後に開かれます。つまり、あなたの最後の言葉になります。
それが温かく、優しいものであれば、家族の絆は守られます。


まとめ 思いやり遺言で“争族”を防ごう

  • 相続トラブルはどの家庭にも起こり得る
  • 家族構成・財産状況を踏まえて納得できる分け方を考える
  • 遺言の形式と内容に注意し、「気持ち」をきちんと伝える
  • 定期的な見直しと、安全な保管を忘れずに

兄弟姉妹の仲が壊れる前に。
元気なうちに“思いやり遺言”を準備することが、残された家族への最大の思いやりです。

目次