
1 障がいのある子を残して親が亡くなる不安
ご家族の中に障がいをお持ちのお子様がいらっしゃる場合、日常生活のサポートだけでなく、将来の財産管理に関する不安は尽きません。
特に、お子様ご本人が知的障がい・精神障がい・発達障がいなどにより自己判断で財産管理を行えない場合、親御さんが生きている間はサポートできますが、亡くなった後のことを考えると大きな課題となります。
例えば次のような悩みが多く寄せられます。
- 自分が亡くなった後、子の生活費はどう管理されるのか。
- 相続財産を障がいのある子のために確実に残したい。
- 兄弟姉妹に迷惑をかけすぎず、子の将来を守れる仕組みはないか。
このような悩みに応える有効な方法の一つが「家族信託」です。さらに、身上監護など財産以外のサポートについては「後見制度」と組み合わせることで、より安心な体制を整えることができます。
2 家族信託とは何か
家族信託とは、信頼できる家族や親族(場合によっては親族以外の信頼できる人)に財産を託し、その人(受託者)が契約に基づいて財産を管理・運用し、その利益を障がいのある子(受益者)の生活のために使う仕組みです。
特徴
- 親が元気なうちに契約できる:遺言や相続発生を待たず、すぐに将来の仕組みを準備可能。
- 柔軟な財産管理が可能:預金、不動産、株式などを対象に管理ルールを決められる。
- 相続発生後も継続:親が亡くなった後も、契約通りに財産が子のために管理・給付される。
例えば、親が所有する自宅を信託財産とし、受託者(長女)がその管理を担い、収益や預金を障がいのある次男の生活費に充てる、という設計が可能です。
3 遺言や相続だけでは解決できない課題
従来は「遺言で障がいのある子に財産を相続させる」という方法が一般的でした。しかし、遺言や単純な相続だけでは、以下の問題を解決できません。
- 子が自分で財産管理できない場合、相続財産を適切に利用できない。
- 財産の使い道に制限がなく、誤って浪費や不正利用されるおそれがある。
- 兄弟姉妹に全てを任せると、負担や不公平感が生じる。
家族信託はこれらを解決する実務的な仕組みとして注目されています。
4 障がいのある子のための家族信託の設計例
例:那覇市在住のAさん家族の場合
- 父Aさん(70歳)
- 母Bさん(68歳)
- 長女Cさん(40歳、既婚、会社員)
- 次男Dさん(35歳、知的障がいがあり就労支援施設に通所中)
Aさん夫婦は高齢になり、「自分たちが亡くなった後、次男Dの生活をどう守るか」が大きな課題でした。
設計の流れ
- 信託契約の締結
Aさんを委託者、長女Cさんを受託者、次男Dさんを受益者とする信託を設定。 - 信託財産の範囲
自宅不動産、預金3000万円。 - 管理のルール
預金から年間生活費を施設費用と生活費に充てる。自宅はDが住み続けられるようCが管理。 - 終了後の取り決め
Dさんが亡くなった後、残余財産は長女Cが相続。
この設計により、親亡き後も長女Cが契約に基づき確実にDさんの生活を支える仕組みが整いました。
5 家族信託と後見制度の併用
ただし、家族信託は財産管理を中心とした仕組みです。生活面・医療面などの身上監護(病院への入院手続き、福祉サービス契約など)についてはカバーできません。
そのため、障がいのある子の生活をより万全に守るには「成年後見制度」や「任意後見制度」との併用が望ましい場合があります。
例えば、信託で財産を管理し、後見制度で生活全般を支援する体制を取れば、財産と生活の両面から安心を確保できます。
6 費用シミュレーション(目安)
実際に家族信託や後見制度を利用する場合のコスト感覚も重要です。
家族信託の場合
- 契約書作成費用(専門家報酬):30万~80万円程度
- 公証役場での公正証書作成費用:数万円
- 登記費用(不動産信託の場合):登録免許税、不動産価格の0.3%
成年後見の場合
- 申立費用:数万円(収入印紙、鑑定費用含む)
- 後見人報酬:月額2万~5万円程度(裁判所が決定)
両者を組み合わせた場合、初期費用として50万~100万円程度を見込むケースが多く、その後は後見人報酬が継続して発生します。
7 契約文例のイメージ
以下は簡略化した信託契約条項の例です。実務では専門家が個別事情に合わせて調整します。
第○条(信託の目的)
委託者は、受益者である次男Dの生活及び福祉の安定を目的とし、信託財産を受託者に託す。
第○条(信託財産の管理及び給付)
受託者は、信託財産から生じる利益を、受益者Dの生活費・医療費・福祉サービス費用に充てる。
第○条(残余財産の帰属)
受益者Dが死亡したときは、残余財産を長女Cに帰属させる。
8 まとめ
障がいのある子を持つ親御さんにとって、自分の死後も子の生活を守れるかどうかは最大の関心事です。
- 家族信託は、親亡き後も財産を子のために使い続けられる仕組み。
- 遺言や単なる相続では実現できない「継続的な財産管理」が可能。
- 身上監護は後見制度と組み合わせることで万全の体制となる。
- 契約設計や費用は専門家に相談し、家族の状況に合った仕組みを整えることが大切。
沖縄県那覇市や東京都江東区でも、障がいのある子の将来を見据えたご相談は年々増えています。早めに準備を始めることで、ご本人もご家族も安心して日常生活を送ることができるでしょう。