
建設業許可には「一般」と「特定」という2つの区分があります。中でも、元請として大規模な下請契約を行うためには「特定建設業許可」が必要ですが、一般許可に比べてはるかに厳しい要件が課せられています。
その中でも経営的なハードルとなるのが「財務要件」です。
この記事では、東京都江東区や沖縄県那覇市で建設業を営む方、またはこれから特定建設業へのステップアップを検討している方向けに、特定建設業の財務要件について分かりやすく解説します。
1. 特定建設業とは? 一般建設業との違い
まずは特定建設業とは何か、一般建設業との違いを簡単に確認しておきましょう。
● 一般建設業
- 下請けに出す工事の金額が1件につき4000万円未満(建築一式は6000万円未満)
- 原則として比較的小規模な工事の元請や下請が対象
● 特定建設業
- 下請けに出す金額が**1件あたり4000万円以上(建築一式は6000万円以上)**の工事を元請として請け負う場合に必要
- 大規模な元請業者が対象
特定建設業を取得すれば、大規模工事の元請として受注できるようになりますが、その分「社会的責任」や「下請保護」の観点から、高度な経営基盤が求められます。
2. 特定建設業に必要な財務要件とは?
特定建設業許可を取得するには、以下の5つの財務的な要件をすべて満たしていなければなりません。どれか1つでも欠けていれば、原則として許可を取得することはできません。
【1】欠損の額が資本金の20%を超えていないこと
これは企業の「累積赤字」に関する要件です。
- 簿記上の繰越損失(利益剰余金のマイナス)が資本金の20%以内であること
- 例えば資本金が1000万円の場合、繰越損失が200万円以内でなければなりません
【2】流動比率が75%以上であること
流動比率は、短期的な支払い能力を示す指標です。
- 計算式:流動資産 ÷ 流動負債 × 100
- 75%以上であることが要件
- 一般に流動比率は100%以上が望ましいですが、特定建設業では75%が最低ラインです
【3】資本金が2000万円以上あること
単純明快な要件です。
- 資本金2000万円未満の会社は、そもそも特定建設業を申請できません
※個人事業主の場合は特定建設業許可を取得できませんので、法人化が必須です。
【4】自己資本が4000万円以上あること
これは企業の「純資産(純粋な自己資本)」がどれだけあるかを示す指標です。
- 貸借対照表の「純資産の部」の合計が4000万円以上必要
- 繰越損失が大きいと、これをクリアできなくなります
【5】直前の決算において、貸借対照表の純資産の部において債務超過でないこと
- 純資産がマイナス(債務超過)である場合、申請はできません
- 資産よりも負債の方が多い状態は、経営基盤が脆弱と見なされます
3. 財務要件はいつの時点の数字で判断される?
特定建設業の財務要件は、直前の決算期の決算書をもとに判断されます。
たとえば、令和6年5月に申請を行う場合、令和5年度の決算書(令和5年3月~令和6年2月など)が使用されます。
また、以下の書類の提出が基本です。
- 貸借対照表(BS)
- 損益計算書(PL)
- 株主資本等変動計算書(必要に応じて)
- 税務署に提出済の法人税申告書の写し
いずれも「会社の実態に即した内容」であることが求められます。
4. クリアできていない場合の対策は?
特定建設業の財務要件は厳しく、特に「自己資本4000万円以上」「流動比率75%以上」はハードルが高く感じる方も多いはずです。では、要件をクリアできていない場合、どうすれば良いのでしょうか?
● 増資する
資本金や自己資本を増やすための基本的な手段は「増資」です。既存株主からの出資、もしくは新規の投資家からの出資により、資本金・純資産を増加させます。
ただし、形式的な見せかけの増資(すぐに払い戻すなど)は認められません。実際に会社の資金として入金されていることが証明できるよう、通帳や出資証明書の準備が必要です。
● 不要な負債を整理する
例えば、役員借入金などが多くある場合は、返済や資本化(デット・エクイティ・スワップ)を検討することで、自己資本を増やすことができます。
また、短期借入金や買掛金を整理することで流動比率の改善も図れます。
● 決算書の構成を見直す
経営実態が良好であっても、会計処理や決算のまとめ方によっては「要件を満たしていないように見える」ことがあります。
- 短期資産を固定資産として処理している
- 仮払金・仮受金が多すぎる
- 役員報酬が過大で利益を圧迫している
このような場合は、税理士と相談のうえ、決算処理の改善を検討するとよいでしょう。
5. 要件を満たしていても「調査」が入ることも
財務要件を満たしていると申請書類上で判断されても、許可権者(東京都、沖縄県等)から「実態確認の調査」や「補足資料の提出依頼」があることもあります。
特に次のような場合には注意が必要です。
- 増資が直近で行われている(見せ金ではないか確認)
- 代表者が複数法人を経営している(資金の流用がないか確認)
- 経営内容が急激に変化している(粉飾や仮装がないか確認)
東京都や沖縄県など各自治体によって、審査の厳しさや着眼点に違いがありますので、申請前に制度や傾向を把握しておくと安心です。
6. 江東区・那覇市の事業者が注意すべき点
東京都江東区や沖縄県那覇市で特定建設業を目指す場合、地域特有の事情も考慮する必要があります。
【江東区】
- 国家プロジェクト(再開発、防災、臨海部インフラなど)の元請を目指す場合、特定建設業が必須となるケースも多い
- 金融機関との付き合いが重要になるため、決算内容や融資取引に信頼性が必要
【那覇市】
- 離島工事、観光施設整備、空港周辺の大型案件などで元請のチャンスがある一方、公共性が高く財務内容が重視される傾向
- 地場企業とのJV(共同企業体)を組む際も、特定建設業の有無が判断材料となることがある
7. まとめ 特定建設業を目指すなら財務基盤の強化が第一歩
特定建設業は、一般建設業に比べて「元請としての格上げ」と言える存在です。より大きな案件、信頼性の高い取引先との関係構築を目指すのであれば、取得を検討する価値は十分あります。
ただし、その分だけハードルは高く、特に財務要件は事前の対策が不可欠です。
ポイントのおさらい
- 自己資本4000万円以上、資本金2000万円以上が必要
- 繰越損失や債務超過があると申請は不可
- 流動比率75%以上など、決算書の内容が審査される
- 地域によって審査の厳しさやチェックポイントに違いがある
特定建設業許可を目指すのであれば、まずは現在の決算内容を正しく把握し、不足している部分があれば早めに改善策を検討しましょう。