未成年者や判断能力に不安がある相続人がいる場合の対応策について

相続手続きでは、相続人全員が「法律行為」を行う能力を備えている必要があります。しかし、現実には、相続人の中に未成年者が含まれている場合や、高齢や障害により判断能力に不安がある方がいるケースも少なくありません。このような状況で、どのように適切に遺産分割協議を進めれば良いのでしょうか。

本記事では、そうした相続手続き上の障害を乗り越えるための法的対応策について、実務の観点から解説します。

目次

1. 相続における「行為能力」の重要性

相続では、遺産分割協議を行う際に相続人全員の合意が必要です。この「合意」とは、単なる意思表示ではなく、有効な法律行為として成立している必要があります。

そのため、未成年者や認知症のある方など「行為能力が制限される相続人」が含まれている場合、そのままでは有効な遺産分割協議が成立せず、手続きが前に進まなくなってしまうのです。

2. 未成年者が相続人に含まれている場合の対応策

2-1. 未成年者は単独で遺産分割協議ができない

未成年者は、原則として「単独での法律行為」ができません。そのため、遺産分割協議に参加するには、親権者が代理人として協議に加わる必要があります。

2-2. 利益相反がある場合は「特別代理人」が必要

ここで注意すべきなのが、利益相反の関係です。たとえば、親権者と未成年の子がいずれも相続人である場合、親が自分の取り分を増やし、子の取り分を減らすような可能性が生じるため、親は子の代理人にはなれません。

このような場合には、家庭裁判所に申立てを行い、「特別代理人の選任」を受ける必要があります。

特別代理人の申立てに必要な書類(例)

  • 申立書
  • 戸籍謄本(親子関係の確認)
  • 相続関係説明図
  • 遺産の内容と分割案の説明書
  • 遺産分割協議書案
  • 収入印紙および郵便切手

審査には数週間かかることが一般的ですので、早めの対応が求められます。

3. 判断能力に不安がある相続人がいる場合の対応策

認知症や精神障害などによって、遺産分割協議を自らの意思で正しく行うことができない相続人がいる場合、その相続人を保護しつつ、手続きを進めるためには成年後見制度の活用が必要です。

3-1. 成年後見制度の概要

成年後見制度は、判断能力が不十分な人を法的に支援する制度です。家庭裁判所の選任を受けた後見人が、対象者(被後見人)の代わりに法律行為を行います。

3-2. 後見人選任の手続き

後見人を選任するには、家庭裁判所に「成年後見開始の申立て」を行う必要があります。申立て人は、配偶者、四親等内の親族、または市区町村長などです。

必要書類には次のようなものがあります。

  • 申立書
  • 本人の診断書(成年後見用)
  • 本人・申立人・親族の戸籍謄本
  • 財産目録(相続対象の財産を含めて)
  • 医療機関からの診断書等

裁判所の審理・調査が必要になるため、手続きには1~2か月程度かかることが一般的です。

3-3. 成年後見人が遺産分割協議に参加

後見人が選任された後は、後見人が本人に代わって遺産分割協議に参加します。ただし、分割の内容によっては、後見人が単独で判断できず、家庭裁判所の「同意」または「許可」が必要となるケースもあります。

4. その他の判断能力支援制度

4-1. 任意後見制度

まだ判断能力はあるが、将来に備えて相続などの手続きを支援してほしいという方には、「任意後見制度」も有効です。こちらは本人があらかじめ後見人を指定し、公正証書で契約しておく制度です。

判断能力が低下した時点で、家庭裁判所の監督のもと後見が開始されます。

4-2. 補助・保佐制度

成年後見制度には、完全な判断能力喪失に至っていない人のための「補助」「保佐」制度もあります。相続の状況に応じて、適切な支援制度を選択することが必要です。

5. 相続人全員の合意が得られない場合の対応

遺産分割協議は、相続人全員の合意があって初めて有効となります。たとえ一人でも署名・押印が欠けていれば、協議は無効です。

判断能力に問題がある相続人に対し適切な代理人を立てなかった場合や、必要な家庭裁判所の許可を得ていない場合には、その協議は後に無効とされるリスクもあります。

また、適切な代理人が選任されたうえでも協議が整わなければ、家庭裁判所に「遺産分割調停」や「審判」を申し立てることになります。

6. 実務の現場での注意点

6-1. 遺産の構成によっては第三者との契約に影響

遺産に不動産や預貯金がある場合、名義変更や解約手続きにあたって、各金融機関や法務局が、協議の有効性を厳しく確認します。よって、形式的な不備(署名者の肩書、代理権の確認書類の不足など)があると、手続きが拒絶される可能性もあります。

6-2. 時間と費用がかかる前提で準備

未成年者や判断能力に不安がある相続人がいる場合、通常より時間もコストもかかることを前提に動く必要があります。早い段階で相続人の構成を確認し、家庭裁判所の手続きが必要となるかを見極めることが重要です。

まとめ 相続人に行為能力制限者がいるときは早期の専門家相談が鍵

未成年者や判断能力に不安がある方が相続人に含まれているとき、法的には「代理人の選任」や「家庭裁判所の許可」など、慎重かつ丁寧な対応が求められます。これを怠ると、せっかく整った協議書が無効になるリスクもあります。

東京都江東区・沖縄県那覇市で相続の手続きを検討されている皆さまは、相続人の状況を丁寧に確認し、必要に応じて行政書士や家庭裁判所に早期に相談されることを強くおすすめします。

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