
建設業においては、工事の受注から完成・引き渡しまでに長期間を要することが一般的です。そのため、会計処理においても他業種とは異なる独特のルールが求められます。特に「未成工事支出金」は建設業会計の要所であり、建設業許可の財務諸表においても適切な処理が重要です。
この記事では、「未成工事支出金」とは何か、どう処理すべきか、そして建設業許可申請や経営事項審査(経審)における実務上の注意点について詳しく解説します。
1. 「未成工事支出金」とは何か?
未成工事支出金とは、工事が完成していない段階で発生した支出を一時的に資産として計上する項目です。仕掛品や前渡金とは異なり、工事完成後には完成工事原価へ振り替えられる性質を持ちます。
具体例
- 材料費や外注費、労務費など、工事現場に投入されたが、まだ工事が完了していない支出
- 支払済の仮設費用や現場管理費など
対応する勘定科目
- 貸借対照表(B/S):未成工事支出金(流動資産)
- 損益計算書(P/L):完成後に完成工事原価へ振替
2. 「工事進行基準」との関係
会計上、建設工事の収益認識には「完成基準」と「進行基準」があります。未成工事支出金が特に重要となるのは、工事進行基準を採用している場合です。
工事進行基準とは
工事の進捗に応じて、売上や原価を按分して計上していく手法です。企業会計基準第15号により、一定の要件を満たす長期工事については進行基準の採用が求められています。
進行基準での処理イメージ
- 未成工事支出金 → 完成工事原価 → 売上原価
- 工事進捗割合をもとに、工事収益・工事原価を認識
未成工事支出金の額が正確でなければ、工事原価・収益認識の誤りに直結し、財務諸表の信頼性を損ないます。
3. 建設業許可申請における位置づけ
なぜ重要なのか?
建設業許可申請(新規・更新・変更届)においては、直近の決算に基づく財務諸表を提出する必要があります。その中で、未成工事支出金が適切に計上されていないと、以下のようなリスクがあります。
- 自己資本額が過大・過小評価される
- 完成工事高と財務諸表の整合性が取れない
- 「財産的基礎」の基準(自己資本500万円以上)を満たさないと誤判断される
財務諸表との整合性チェック
- 完成工事高(P/L)と未成工事支出金(B/S)との関係を明確にする
- 決算変更届を作成する際には、工事原価内訳明細書との突合が必要
4. 実務における処理と記載のポイント
未成工事支出金の正しい記帳方法
- 工事原価に関わるすべての支出(材料、外注、労務、現場管理等)を対象とする
- 完成まで原価として繰り延べ、完成時に費用化(完成工事原価へ振替)
工事台帳との連携
- 未成工事支出金の元データは、工事台帳や原価管理表から取得する
- 工事ごとに進捗状況を把握し、進捗割合に応じて処理
よくある誤りと注意点
誤りの例 | 問題点 |
工事が完了しているのに未成工事支出金として残っている | 財務諸表上の矛盾、経審での減点リスク |
複数の工事をまとめて処理している | 工事ごとの損益把握ができず、信頼性に欠ける |
支出ではなく見積額を計上している | 実態のない資産の計上(粉飾の疑い) |
5. 会計ソフトとの連動・留意点
弥生会計やfreeeなどの会計ソフトでは、建設業特有の会計処理(未成工事支出金や完成工事原価の計上)に非対応なケースがあります。
対応方法
- 工事台帳を別途エクセル等で作成し、ソフト上では期末仕訳で対応
- 「工事進行明細表」などを独自に整備し、工事別の金額管理を行う
建設業会計に対応したソフトの活用
- 建設業に特化した会計ソフト(例:建設奉行、建設大臣など)の導入も検討
6. 税務申告との違いにも注意
建設業許可で求められる財務諸表は、法人税申告書に基づくものと完全に一致しない場合もあります。未成工事支出金の扱いについても、次のような違いが生じます。
税務申告と建設業会計の違い
項目 | 税務申告 | 建設業会計(許可用) |
未成工事支出金 | 原則、費用計上 | 資産計上し、完成時に振替 |
工事進行基準 | 利用に制限あり | 原価配分が必要 |
工事別原価の記載 | 任意 | 必須 |
そのため、建設業許可用の財務諸表を作成する際は、税理士や行政書士と連携し、申告書とは別に「建設業会計ベース」の調整を行う必要があります。
7. 経審への影響と対策
経営事項審査(経審)では、財務諸表をもとに企業の信用度や経営体力を点数化します。未成工事支出金が適切でない場合、以下のような影響を及ぼします。
- 自己資本比率が正しく計上されず、点数が下がる
- 完成工事高との不一致により、審査員の評価が低下
- 「原価の平準化」ができていないとみなされる
対策
- 未成工事支出金は毎期繰越される項目のため、適正な工事進捗管理が不可欠
- 決算後のチェックリストを作成し、整合性を事前確認
- 建設業経理士のサポートも有効
まとめ
未成工事支出金は、建設業の財務諸表において非常に重要な要素です。その正確な計上と管理は、建設業許可申請や経営事項審査において、信用力の裏付けとなります。
現場・経理・行政書士・税理士が連携し、正確な会計処理と資料整備を行うことが、許可取得・維持の第一歩です。特に東京都江東区や沖縄県那覇市といった都市部では、競争も激しく、信頼される企業体制を築くためにも、こうした基礎資料の整備を怠ることはできません。