
相続対策や認知症リスクへの備えとして広まりつつある家族信託。
中でも注目されているのが、柔軟な財産承継を可能にする点です。
特に東京都江東区や沖縄県那覇市では、将来の相続争いを避けるために、「二次相続」「三次相続」まで見据えた信託設計を希望されるケースが増えています。
本記事では、家族信託のスキームの中で、どのように“柔軟な承継ルート”を設計できるのか、実際の文言例とともに解説します。
1. 「柔軟な財産承継」とは何か?
一般的な遺言や相続制度では、財産の承継先を決められるのは「一代限り」です。たとえば、父が亡くなって長男が相続すれば、その後の財産は長男の遺言や法定相続に委ねられることになります。
しかし家族信託なら、次のような「段階的な承継先の指定」が可能です。
- 第1受益者(父)死亡後 → 長男が第2受益者
- 長男死亡後 → 次男が第3受益者
- 次男死亡後 → 孫が最終的な帰属権利者
つまり、「父 → 長男 → 次男 → 孫」といった継承のルートを、生前に設計できるのが最大の特徴です。
2. 柔軟な承継設計が必要とされる背景
江東区や那覇市でも以下のようなニーズが頻繁に見られます。
【ケース1】一族で自宅を守り続けたい
- 父が築いた不動産を、長男→孫→ひ孫へと継承させたい
- 売却されるリスクを排除したい
→ 柔軟な承継ルート設計+処分制限条項が有効です
【ケース2】障害のある子や高齢の配偶者がいる
- まずは妻に安心して暮らしてもらい、その後は子へ
- 子が亡くなった場合も孫へ確実に承継させたい
→ 二次・三次の受益者設定が不可欠です
【ケース3】家族関係に不安がある
- 子ども同士が不仲、または再婚家庭で血縁が複雑
- 長男に財産を託すが、次男にも配分したい
→ 信託条項でバランスよく配分ルールを定めることが可能です
3. 柔軟な承継設計のための文案例
ここでは、実際に信託契約書で使用される代表的な条項文例をご紹介します。
(1)複数の受益者を段階的に指定する
第〇条(受益者の変更)
1 本信託の第1受益者は、委託者甲とする。
2 第1受益者である甲が死亡した場合、第2受益者は長男乙とする。
3 第2受益者である乙が死亡した場合、第3受益者は孫丙とする。
※受益者が次々と変わる形(=後継ぎ型受益者連続型信託)
(2)承継ルートを条件付きで柔軟に
第〇条(受益権の帰属に関する条件)
受益者乙が第1受益者の死亡時点で既に死亡している場合、乙の子である丙を第2受益者とする。
→「誰が生きているか」によって承継順序を柔軟に切り替えられます。
(3)受益権の分割や持分割合を指定
第〇条(受益権の分配)
第1受益者死亡後、第2受益者である乙および次男丁が各2分の1の割合で受益権を有する。
→兄弟間で公平に利益を受けさせる設計が可能。
(4)受益者が存在しなくなった場合の帰属権利者
第〇条(信託終了および帰属権利者)
すべての受益者が死亡した場合、本信託は終了し、信託財産は孫丙に帰属させる。
→最終的な“出口”を明確にすることで、信託の完結性が担保されます。
(5)処分・譲渡の制限
第〇条(信託財産の譲渡等の制限)
受託者は、受益者の同意がない限り、信託財産である不動産を売却、担保提供、賃貸してはならない。
→「将来も家族の手に財産を残したい」意向に応える条項です。
4. 柔軟な設計に潜む落とし穴
家族信託は自由度が高い半面、次のようなリスクや制限にも注意が必要です。
税務上の問題
- 複数代にわたる受益者指定は、贈与税や相続税の課税関係が複雑になります。
- 実際の課税は「受益権の取得=経済的利益の移転」に基づくため、専門家の確認が不可欠です。
不動産の登録・信託登記
- 不動産を信託財産とする場合、「信託目録」への記載と登記が必要になります。
- 受益者が複数にわたる場合、受益権割合などの登記内容にも細心の注意が必要です。
家庭裁判所との関係
- 柔軟な承継設計は、後の相続人間で争いの火種となることも。
- 特に受益者が認知症等で判断能力を失った場合は、成年後見制度との整合性も検討すべきです。
5. 江東区・那覇市での活用実例
江東区の例:不動産資産の「家系内固定」
湾岸地域にマンションを所有する父親が、長男→孫へと承継させる信託を設計。
「資産売却を避けたい」という意向に応え、不動産の処分に制限をかけた上で、受益者を3代先まで設定した事例があります。
那覇市の例:再婚家庭での公平な設計
父親が再婚しており、前妻との子と現妻との子の両方がいるケース。
「配偶者→長男(前妻の子)→次男(現妻の子)」と段階的に受益権を承継させる条項を盛り込むことで、公平性と相続防止の両立が図られました。
6. まとめ
家族信託を活用すれば、従来の相続制度では実現できなかった柔軟な財産承継ルートの設定が可能になります。
機能 | メリット |
受益者の段階的指定 | 二次・三次承継まで本人が決定可能 |
処分制限条項 | 家系に不動産を固定できる |
条件付き承継 | 相続状況に応じて対応可 |
分割指定 | 兄弟間で公平に配分できる |
最終帰属指定 | 信託終了後の混乱を回避 |
制度を理解するだけでなく、現実的で実効性ある文言をどう設計するかが成功のカギとなります。
信託契約書は、単なる“書類”ではなく、将来の家族関係と資産の流れを定めるライフデザインそのものです。
江東区や那覇市で家族信託をお考えの方は、ぜひ早い段階から専門家とともに、柔軟かつ具体的な契約内容を構築していくことをおすすめします。