
相続手続の中でも、特に負担が大きくなるケースの一つが、相続人の一人が海外に住んでいる場合です。国内にいる相続人だけで進められると思っていた手続も、海外在住者が関わるだけで書類の形式や準備すべき書類が増え、時間も通常の数倍かかることがあります。本記事では、東京都江東区および沖縄県那覇市にお住まいの方を対象に、海外在住の相続人がいる場合の遺産分割協議書の作成ポイントを、地域実務や必要書類、典型的なトラブルを踏まえて詳しく解説します。
1 海外在住の相続人がいると手続きが難しくなる理由
国内在住の相続人であれば、署名押印・必要書類の取得・郵送などが比較的スムーズに進みます。しかし、海外在住の相続人が含まれる場合には、次のような理由で手続きが複雑になります。
- 書類の署名や署名証明を海外で取得する必要がある
- 郵送期間が長く、書類が届くまでに時間がかかる
- 国によって書類の様式や必要な認証が異なる
- 実印・印鑑証明書が使えないため、日本国内の手続きと方法が異なる
- 英語表記の名前でサインされるため、戸籍の氏名との同一性を別途証明する必要が生じる場合がある
特に江東区や那覇市のように相続不動産が多い地域では、遺産分割協議書の不備があると不動産の相続登記が進まず、結果として長期化することがあります。
2 遺産分割協議書そのものは日本国内と同じ形式で作成する
海外在住者がいる場合でも、遺産分割協議書自体は日本の一般的な様式で作成します。全員の署名欄と住所欄、そして国内相続人は実印を押し、印鑑証明書を添付します。
ただし、海外在住の相続人については、日本の実印制度を利用できないため、次のいずれかの方法で署名証明を付ける必要があります。
- 在外公館領事部が発行する署名証明書
- 現地公証人の認証を受けた署名証明
両者には大きな違いがあり、手続きに影響します。
3 在外公館(日本大使館・領事館)での署名証明が最も確実
海外在住の相続人が日本国籍である場合、多くのケースで在外公館(大使館・領事館)で署名証明を取得する方法が選ばれます。
在外公館の署名証明は、日本国内での印鑑証明書と同等に扱われるため、金融機関や法務局での相続手続きでも受理されやすいのが特徴です。
取得の流れは次の通りです。
- 遺産分割協議書をプリントアウトして海外在住者に送付
- 海外在住者が協議書を持って在外公館の窓口へ
- 本人確認を受け、署名の実施
- 日本の役所に提出するための署名証明書が発行される
- 証明書と協議書を日本の相続人に返送
在外公館で署名証明を取得できれば、日本の金融機関や不動産登記の場面での拒否がほとんどありません。
4 現地の公証人で署名証明を取得する場合は注意が必要
海外在住者が現地の公証人の認証を利用するケースもありますが、この場合は注意点が多いのが実務上の特徴です。
- 日本の法務局が受理しない様式の証明書であることがある
- 追加でアポスティーユや領事認証が必要になる
- 証明書が英語や現地語のため、日本の相続人側で翻訳が必要
特にアメリカ、カナダ、オーストラリアなど英語圏に住む相続人が利用する場合、金融機関ごとに受理できる証明の形式が異なるため、事前確認が欠かせません。
江東区や那覇市のケースでも、最も多いトラブルが「現地公証人で証明を受けたが、登記に使えなかった」というものです。この場合、再度署名し直す必要があり、手続きが数か月延びることがあります。
5 署名と戸籍上の氏名の同一性の確認が必要なケース
海外在住者は、現地の運転免許証やパスポートを日常的に利用するため、英語名やカナ名で署名することがあります。
しかし、遺産分割協議書に記載すべき名前は戸籍上の日本名となります。
次のようなケースでは、追加書類が求められることがあります。
- 戸籍名が「山田太郎」だが、署名が「Taro Yamada」の場合
- 結婚により現地名で生活している(例:サラ スミス)
- 日本国籍を離脱して海外名のみになった場合
このような場合には、戸籍とパスポートの写しを併用し、本人であることを説明することで登記が通ることがほとんどですが、法務局に事前確認をしておくことが重要です。
6 書類の送付と返送は必ず余裕を持って進める
海外からの郵便は、日本国内のように数日で届くことはありません。地域によっては数週間以上かかることもあります。
送付方法の目安としては次の通りです。
- 海外宛ての郵便は追跡番号付きで発送する
- PDFで書類内容を事前共有し、ミスがないか確認する
- 相続人には書類の記入例を添付して送る
- 帰国予定がある場合は、そのタイミングに合わせて署名を行う
江東区でも那覇市でも、不動産の相続登記には期限がないため放置されがちですが、遺産分割が長期化するほど相続人の状況が変わり、さらに複雑化する傾向があります。
7 よくあるトラブルと予防策
海外在住の相続人がいる場合、次のトラブルが非常に多い傾向にあります。
- 在外公館での署名方法が誤っており、証明書が使えなかった
- 協議書に署名すべき箇所を間違え、書類が無効になった
- サインがパスポートと同じでなく、本人性の確認が求められた
- 郵便事故で書類が届かず、再発行が必要になった
- 現地公証人の認証方式が日本の基準に合わなかった
これらは、事前に必要な書類を専門家がチェックすることで防げることがほとんどです。
8 江東区・那覇市で海外在住者が絡む相続が増えている理由
近年、江東区と那覇市で海外在住者を含む相続相談が増えています。これには次の地域性が関係しています。
- 江東区では若い世代の海外転勤や留学が多い
- 那覇市では米軍関係の仕事や海外移住者が一定数いる
- 両地域とも不動産資産が多く、相続財産の大半が不動産というケースが多い
不動産登記の場合、遺産分割協議書に不備があると手続きが止まってしまうため、海外在住者が含まれる場合ほど慎重な書類管理が必要となります。
9 まとめ
海外在住の相続人がいる場合の遺産分割協議書の作成は、国内相続人だけで行うよりも手続きが複雑で時間がかかるのが一般的です。
特に重要なポイントは次の通りです。
- 遺産分割協議書は日本の様式で作成する
- 海外在住者は在外公館の署名証明が最も確実
- 現地公証人の認証は追加手続きが必要になることがある
- 戸籍名と署名が異なる場合は本人確認書類で補う
- 書類の郵送には時間がかかるため早めに準備する
- 地域実務として、江東区・那覇市ともに不動産相続が多く、登記の不備が問題になりやすい
海外在住の相続人が絡む相続は、適切な書類の準備と早期の段取りが何より重要です。必要であれば、専門家のサポートを活用しながら円滑に進めることをお勧めします。
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