
相続税の対策として「生前贈与を活用する」といった話を耳にしたことがある方は多いのではないでしょうか。確かに、生前贈与は相続財産を減らし、将来の相続税負担を軽減する有効な方法のひとつです。
しかし注意しなければならないのが、相続開始前3年以内の贈与です。この期間内に被相続人から相続人へ行われた贈与は、原則として相続税の課税対象に組み込まれるため、単に贈与しただけでは節税効果が得られない場合があります。
那覇市や東京都江東区のように、不動産評価が高く、相続財産が比較的多くなりがちな地域では、特に正確な理解が重要です。
この記事では、生前贈与と相続税の関係、3年以内の贈与加算ルール、節税につながる例外措置について解説します。
1.生前贈与とは?
生前贈与とは、被相続人が生きているうちに、財産の一部を他人(主に家族)に無償で渡すことを指します。贈与を受けた人には、その年の贈与額に応じて「贈与税」が課されることになります。
贈与税の課税は原則として、1月1日から12月31日までの1年間に110万円を超える贈与を受けた場合に発生します。この110万円は「基礎控除額」と呼ばれ、贈与者ごとに適用されます。
たとえば、父親から80万円、母親から70万円の贈与を受けた場合、合計は150万円ですが、それぞれの贈与が110万円以下であれば贈与税は発生しません。
このように、年間110万円までの贈与を継続的に行うことで、将来の相続財産を少しずつ減らし、相続税の課税対象を抑えるという考え方が「生前贈与による節税」です。
2.相続開始前3年以内の贈与は相続税の対象に加算される
相続税法では、被相続人が亡くなる前の3年以内に相続人に対して行った贈与は、相続税の計算において「相続財産に加算」されると定められています。
この制度の目的は、「亡くなる直前に大量の財産を贈与して相続税を回避する」ような行為を防ぐことにあります。
加算対象となるケース
次の3つの要件をすべて満たす場合、3年以内の贈与は相続税の課税対象に加算されます。
- 贈与を受けた人が相続または遺贈により財産を取得している
- 贈与をした人が被相続人である
- 贈与が相続開始前3年以内に行われている
つまり、相続人が受けた贈与であれば、相続時にその贈与分が相続財産に足されるということです。
加算対象外となるケース
贈与を受けた人が相続人ではない場合(たとえば孫や親族の配偶者など)、その贈与は3年以内であっても相続税の加算対象にはなりません。
ただし、相続人でなくても「特別受益者」や「相続を放棄した者」である場合には別途注意が必要です。
3.具体例で見る「3年以内贈与」の加算
【事例】
被相続人Aさんが、亡くなる2年前に長男Bさんに300万円を贈与しました。死亡時点での相続財産は3000万円でした。
この場合、相続財産3000万円に加えて、贈与分300万円が加算され、相続税の計算上は3300万円の財産があったものとして扱われます。
なお、Bさんが贈与時に贈与税を支払っていた場合には、その金額分は後から相続税額から控除されます。
4.贈与税と相続税の二重課税にはならないのか?
3年以内の贈与が加算されると、「贈与税も支払ったのに、さらに相続税もかかるのか」と疑問に思う方も多いはずです。
実際には、すでに支払った贈与税額は、相続税額から差し引かれるため、二重課税にはなりません。
ただし、贈与時に贈与税の申告をしていなかった場合や、納税をしていなかった場合には、本来支払うべき贈与税を追徴されるリスクがあります。
そのため、生前贈与を行う際には、適切な申告・納税を行うことが重要です。
5.3年以内贈与加算の対象外となる特例
以下のようなケースでは、たとえ3年以内の贈与であっても、相続税の加算対象にはなりません。
1.相続人以外への贈与
孫や甥・姪、嫁などの「相続人ではない人」への贈与については、3年以内の贈与であっても加算されません。
ただし、相続人ではなくても遺言によって財産を受け取る場合は「受遺者」となり、贈与加算の対象になることがあります。
2.相続時精算課税制度の適用を受けた贈与
相続時精算課税制度を使った贈与は、3年以内であろうと加算されます。ただし、この制度はもともと「相続時にまとめて精算する」ことを前提としているため、贈与加算とは別の取り扱いとなります。
この制度を選択すると、年間110万円の基礎控除は適用されなくなります。制度の利用は慎重に検討する必要があります。
6.贈与加算の有無は、実質的に相続税額に影響するのか?
実務上、贈与加算が相続税額に影響を与えるかどうかは、相続税の基礎控除を超えているかどうかで判断されます。
【例】
・加算前の財産総額が基礎控除内 → 贈与加算で基礎控除を超える → 相続税が課される
・加算後でも基礎控除内 → 相続税はかからないが、申告義務が生じる可能性あり
このように、相続税がかからないケースであっても、加算により申告義務だけが生じるというケースもあります。無申告に対する罰則もあるため、注意が必要です。
7.節税目的で生前贈与を検討するときの注意点
生前贈与は有効な節税手段である一方、次の点に留意する必要があります。
継続的な贈与でないと効果が薄い
一度に大きな金額を贈与しても、3年以内に相続が開始すれば意味がありません。5年〜10年単位で計画的に贈与する必要があります。
書面と記録の保存が不可欠
贈与契約書を作成し、贈与税の申告と納税を行っておくことで、税務署からの問い合わせにも対応できます。
現金の動きが確認できるようにする
口座間の振込で贈与を行い、通帳の写しなどで贈与の事実が客観的に分かるようにしておくことが大切です。
まとめ
生前贈与は、相続税対策として有効な手段ですが、相続開始前3年以内の贈与は、原則として相続税の課税対象に加算される点に注意が必要です。
節税効果を得るには、長期的かつ計画的な贈与が求められます。また、正しい書面管理と税務申告も非常に重要です。
那覇市や江東区のように不動産の評価額が高い地域では、少しの評価額の違いが相続税の有無を分けることもあります。
不安な方は、早めに相続と贈与に強い専門家へご相談ください。
当事務所では、生前贈与や提携税理士と連携した相続税の試算、遺言書作成支援など、相続に関する幅広いご相談を承っております。
贈与のタイミングや方法、申告の要否など、実務的なアドバイスを交えながらサポートいたします。
那覇市・江東区をはじめ、地元密着で地域事情にも対応しております。お気軽にお問い合わせください。