
遺言書がある場合、その内容を実現するには「遺言執行者(いごんしっこうしゃ)」が必要です。
遺言執行者とは、亡くなった方(被相続人)の最終意思を、法律的な手続きに則って実現するために選任される人のことを指します。
遺言執行者の役割は単に財産を分配することだけではありません。
被相続人の遺志を忠実に実現しつつ、相続人や受遺者に対して公正・透明に対応することが求められます。
そのためには、執行の過程で行う「実務」と、終了時の「報告義務」が非常に重要です。
本記事では、東京都江東区や沖縄県那覇市にお住まいの方々へ向けて、遺言執行の実務の流れと、相続人への報告義務の具体的な内容をわかりやすく解説します。
1 遺言執行者の基本的な役割
遺言執行者は、民法1012条に基づき、遺言の内容を実現するための一切の行為をする権限を持つとされています。
主な業務は以下のとおりです。
- 被相続人の財産を把握し、財産目録を作成する
- 各相続人・受遺者に対して就任通知を送付する
- 遺言内容に沿って財産の名義変更や分配を行う
- 最終的に、執行結果を相続人へ報告する
これらの業務は、相続財産の範囲が広い場合や、相続人間で意見が食い違う場合に特に慎重な対応が求められます。
2 遺言執行の開始と就任通知
遺言執行者が正式に就任したら、まず最初に行うべきことは**「就任通知」**です。
これは、遺言執行者として業務を開始した旨を相続人全員に通知する行為です。
通知の目的は、相続人に対し「これから遺言執行者が代表して遺言内容を実行します」という事実を明確に伝えることです。
就任通知の書面には、
- 被相続人の氏名・死亡日
- 遺言執行者の氏名・連絡先
- 遺言書の種類(公正証書・自筆証書など)
- 今後の手続きの概要
などを記載するのが一般的です。
この通知を怠ると、相続人から「勝手に財産を動かされた」と誤解を受けるおそれがあります。
そのため、遺言執行の初期段階での誠実な情報共有が非常に重要です。
3 財産目録の作成と交付
遺言執行者が就任後、まず行う実務の中心は「財産の把握」と「財産目録の作成」です。
民法1011条では、遺言執行者は相続人に対して「遺言執行に着手する前に、相続財産の目録を作成し、これを交付しなければならない」と定めています。
財産目録とは、被相続人の財産の全体像を示す一覧表です。
記載内容は次のとおりです。
- 不動産(土地・建物)の所在地・登記内容・評価額
- 預貯金の金融機関名・口座番号・残高
- 株式・投資信託などの有価証券
- 負債(借入金・未払金など)
- 貴金属・自動車などの動産
この財産目録を相続人に提示することで、透明性が確保され、後々のトラブル防止につながります。
実務上、金融機関の残高証明や不動産登記簿の取得などに時間がかかるため、行政書士や弁護士などの専門家が代理して調査を行うケースも多くあります。
4 遺言内容の実行(不動産・預金・遺贈)
財産目録を作成したあとは、いよいよ実際の遺言執行に移ります。
(1)不動産の名義変更
「長男に自宅を相続させる」「知人に土地を遺贈する」といった内容があれば、法務局で登記名義の変更を行います。
登記申請書には「遺言執行者〇〇代理」と記載し、審判書や遺言書の写しを添付して申請します。
(2)預貯金の払戻しと分配
銀行口座については、金融機関へ遺言書の写し・執行者選任の証明書を提出し、残高を払い戻します。
その後、遺言に従って指定された受遺者や相続人へ資金を分配します。
(3)遺贈の実行
特定の個人・法人(たとえば福祉団体や寺院など)に対して遺贈がある場合は、その受贈者へ直接財産を引き渡します。
ただし、遺贈には税務上の扱い(相続税または所得税)が関わるため、実行前に税理士などの確認を受けることが望ましいです。
(4)認知や廃除の執行
「特定の子を認知する」「特定の相続人を廃除する」といった内容がある場合は、家庭裁判所への届出など、法的手続きを経て実行します。
5 遺言執行の途中報告と相続人への説明
遺言執行者は、相続人や受遺者に対して誠実に情報提供を行う義務があります。
法的に明文化されてはいないものの、実務上は途中経過を適宜報告することが信頼関係の維持に不可欠です。
特に、財産の範囲が広い場合や処分に時間がかかる場合には、
- 現在の進捗
- 名義変更や払い戻しの状況
- 今後の予定
などを定期的に報告しておくと良いでしょう。
この報告を怠ると、後に相続人から「遺言執行者が不透明な処理をしている」と疑念を持たれ、トラブルにつながることもあります。
6 執行完了後の報告義務
すべての遺言内容を実行し終えたら、遺言執行者には相続人への最終報告義務があります。
民法1011条では、「遺言執行が完了したときは、遺言執行者はその旨を相続人に報告しなければならない」と定めています。
報告書には以下の内容を明記します。
- 実行した日付と内容
- 不動産の登記完了通知や銀行の取引明細の写し
- 受遺者への引渡しが完了した証明書
- 残余財産の分配状況
- 執行に要した費用の明細
この報告書をもって、遺言執行者の業務は完了します。
また、相続人から追加の説明を求められた場合には、合理的な範囲で資料を提示することが望まれます。
7 実務上の注意点
遺言執行の実務では、次のような注意点が挙げられます。
- 遺留分への配慮
遺言の内容が特定の人に偏っている場合、他の相続人から遺留分侵害額請求がなされる可能性があります。執行者は中立的立場で対応する必要があります。 - 財産評価の正確性
相続税の申告や登記に関わるため、財産評価は慎重に行う必要があります。 - 費用の立替・清算
遺言執行に必要な登記費用や郵送費、交通費などは一時的に立替えが発生することがあり、後に相続財産から清算する形となります。 - 相続人の感情面への配慮
遺言執行は法的な行為であると同時に、家族の感情にも配慮が求められます。
事前の説明や報告を怠らないことで、トラブル防止につながります。
8 まとめ ―透明性と誠実さが信頼を築く鍵―
遺言執行者は、単なる事務担当者ではなく、「故人の最終意思を代わりに実現する存在」です。
そのためには、相続人や受遺者に対して誠実に報告・説明を行い、透明性の高い執行を心がけることが最も重要です。
東京都江東区や沖縄県那覇市では、地域密着で相続に詳しい専門家(行政書士・弁護士・司法書士など)が遺言執行の支援を行っています。
専門職が関与することで、法律的な誤りを防ぎつつ、相続人全員が納得できる形で遺言の実現を進めることが可能になります。
被相続人の想いを確実に未来へつなげるために、遺言執行者には「正確な実務」と「誠実な報告」が求められます。
行政書士見山事務所は遺言の作成での遺言執行者の指定を多数受けております、お気軽にご相談下さい。