法人への遺贈とは?—地域社会へ想いを託すための遺言の形について—

人が亡くなると、その財産は相続人に引き継がれます。
しかし、遺言書を作成することで、その一部または全部を**法人(会社・NPO法人・公益法人など)**へ遺贈(いぞう)することも可能です。
「お世話になった福祉施設に寄附したい」「地域医療に貢献したい」など、個人の想いを社会につなぐ方法として、法人への遺贈は注目を集めています。

本記事では、法人への遺贈の仕組みと実務的な注意点を、東京都江東区および沖縄県那覇市の相続実務を踏まえて解説します。

目次

1 法人への遺贈とは

遺贈とは、遺言によって自分の財産を特定の人や法人に無償で譲り渡すことをいいます。
受け取る側を「受遺者(じゅいしゃ)」と呼びます。

この「受遺者」は、個人に限られず、法人も対象とすることができます。
したがって、被相続人(亡くなった方)が遺言書で「財産の一部を〇〇法人に遺贈する」と記載すれば、その法人は遺言の効力発生とともに財産を受け取ることができます。

法人への遺贈は、主に次のような場面で活用されています。

  • 長年お世話になった福祉法人・医療法人・学校法人などへの感謝の気持ちを形にしたい
  • 地域の文化・教育・福祉活動を支援したい
  • 自分の財産を社会貢献につなげたい

このように、「遺贈=社会貢献」という形を取るケースが増えつつあります。

2 法人への遺贈ができる条件

法人であれば、原則としてどのような法人にも遺贈することが可能です。
ただし、法人格が明確に存在していることが条件になります。

対象となる主な法人の例を挙げます。

  • 一般社団法人・一般財団法人
  • 公益社団法人・公益財団法人
  • 医療法人
  • 学校法人
  • 社会福祉法人
  • 特定非営利活動法人(NPO法人)
  • 株式会社・合同会社などの営利法人

ここで注意したいのは、法人格のない団体には遺贈できないという点です。
たとえば「町内会」「同窓会」などの任意団体には、法的な人格がないため、直接財産を遺すことはできません。

このような場合には、遺言の中で「団体を代表する個人を受遺者とする」など、別の方法を検討する必要があります。

3 法人への遺贈の方法と書き方

法人に財産を遺すには、遺言書を作成することが前提です。
遺言書の作成方法は、自筆証書遺言・公正証書遺言などがありますが、法人が関わる場合には、証拠能力が高く、執行が確実な公正証書遺言が推奨されます。

書き方の基本は次のとおりです。

第○条 私は、次の財産を特定非営利活動法人〇〇会(所在地:東京都江東区〇丁目〇番〇号)に遺贈する。

    不動産 東京都江東区〇丁目〇番〇号 土地・建物

    預金 〇〇銀行〇〇支店 普通預金口座 番号〇〇〇〇〇〇

このように、法人の正式名称・所在地を正確に記載し、遺贈する財産を特定します。
法人の正式名称が曖昧であると、遺言の執行時にトラブルになる可能性があります。

4 法人が遺贈を受ける際の注意点

法人が遺贈を受ける際には、いくつかの実務上の留意点があります。

(1) 遺贈を受けるかどうかの意思表示

法人が遺贈を受ける場合も、個人と同様に「承認」「放棄」の意思表示が必要です。
法人の理事会などで正式に議決を行い、遺言執行者または相続人に通知します。

(2) 受遺による税務上の扱い

法人が遺贈によって財産を受け取ると、原則として法人税の課税対象となります。
ただし、公益法人やNPO法人など、非営利活動を目的とする法人の場合、公益目的事業に充てる場合には非課税扱いとなることがあります。
税務の取扱いは法人の種類や事業内容により異なるため、税理士への確認が不可欠です。

(3) 財産の管理・処分

遺贈によって受け取った財産を、法人がどのように活用・処分するかについては、遺言書で条件を定めることも可能です。
たとえば、「〇〇施設の運営資金として使用すること」「売却して福祉事業に充てること」などの具体的な指示を記載することができます。

5 遺留分との関係に注意

法人への遺贈を行う場合でも、相続人の遺留分を侵害してしまうと、遺留分侵害額請求が発生するおそれがあります。
遺留分とは、法律で定められた「最低限の取り分」であり、配偶者や子などの相続人には一定の割合が保障されています。

たとえば、すべての財産を法人に遺贈した場合、相続人が遺留分を請求すれば、法人はその分を金銭で支払う義務が生じることもあります。
したがって、法人への遺贈を検討する際は、遺留分に配慮した遺言内容にすることが重要です。

6 地域で多い法人遺贈の事例

東京都江東区や沖縄県那覇市では、地域社会に密着した法人への遺贈が増えています。
たとえば次のようなケースです。

  • 江東区内の社会福祉法人に、自宅不動産を遺贈し、高齢者支援事業の資金に充ててもらう
  • 那覇市内の医療法人に預金を遺贈し、地域医療に役立ててもらう
  • 公益財団法人に対し、奨学金基金として使うことを条件に現金を遺贈する

このような遺贈は、「社会に恩返しをしたい」という想いを形にする手段として、非常に意義があります。

7 遺言執行者の指定を忘れずに

法人への遺贈を行う場合、遺言書の執行を確実にするために遺言執行者を指定することが不可欠です。
法人と相続人の間で利害が対立することもあるため、第三者である専門職(行政書士・司法書士・弁護士など)を指定するのが安全です。

遺言執行者がいれば、遺言に基づいてスムーズに名義変更や財産移転の手続きが進められます。

8 まとめ 法人への遺贈は「想いを未来へつなぐ」仕組み

法人への遺贈は、単なる財産の移転ではなく、ご自身の想いを社会へ引き継ぐ行為です。
一方で、法的・税務的な整理を怠ると、せっかくの意思が実現できないこともあります。

確実に実行される遺言を作るためには、

  • 法人名・所在地の正確な記載
  • 遺留分への配慮
  • 遺言執行者の指定
  • 税務面での検討

といった要素を丁寧に整えておくことが大切です。

江東区や那覇市には、地域に根ざした公益法人・福祉法人・NPOなどが数多く存在します。
こうした団体への遺贈は、人生の集大成としての社会貢献にもつながります。

遺言書を通じて「想いを託す先」を明確にすることが、これからの時代に求められる新しい相続の形と言えるでしょう。

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