事業承継と建設業許可、親族への引き継ぎで注意すべき許可要件について

目次

1. 建設業の「事業承継」は単なる名義変更ではない

建設業を長年営んできた事業者の中には、近年、後継者不足や高齢化の影響で「親族への事業承継」を検討するケースが増えています。
たとえば、父親が経営してきた会社を息子に引き継ぐ、個人事業を法人化して息子を代表にする――こうした流れはよく見られます。

しかし注意しなければならないのは、建設業許可は自動的に引き継がれないという点です。
建設業許可は「会社(法人)または個人」に対して与えられるものであり、名義変更や代表者変更で簡単に承継できるものではありません。

そのため、親族間の承継であっても、状況によっては「廃業届」と「新規許可申請」が必要になるケースがあります。
許可の空白期間が生じると、工事受注や公共入札に支障をきたすため、事前に慎重な計画を立てることが重要です。

2. 承継の基本形と、それぞれの許可上の扱い

事業承継の形にはいくつかのパターンがあります。
それぞれで建設業許可の扱いが異なりますので、次の分類で整理してみましょう。

(1)法人内で代表者を親から子に交代する場合

最も多いのがこのケースです。
会社自体(法人格)は同じで、代表取締役が交代するだけの場合、新たな許可申請は不要です。

ただし、代表者変更は建設業許可の「変更事項」にあたるため、
変更後30日以内に変更届を提出する必要があります。

また、代表者変更に伴い、経営業務の管理責任者が交代する場合には、
別途「経営業務管理責任者の変更届」を2週間以内に提出しなければなりません。

つまり、単なる代表者交代であっても、
「経営業務管理責任者」「専任技術者」が適正に配置されているかを再確認する必要があります。

(2)個人事業を親から子へ引き継ぐ場合

個人事業主の建設業許可は、その「個人」に対して付与されています。
したがって、親の死亡や引退により子が事業を引き継ぐ場合、
許可は自動的に引き継ぐことはできません。

この場合、次のような手順になります。

  1. 親の建設業許可を「全部廃業」として廃業届を提出
  2. 子が新たに建設業許可を「新規申請」する

つまり、許可の面では完全に別の事業者として扱われます。
この「廃業届+新規許可申請」のセットは、親族承継の中でも最もトラブルが起こりやすいパターンです。

なぜなら、新規申請には再び「経営業務の管理責任者」「専任技術者」「財産的基礎」の全要件を満たす必要があるからです。
特に、息子がまだ建設業の経営経験を積んでいない場合、すぐには新規許可を取れないことがあります。

(3)個人事業を法人化して承継する場合

もう一つの典型的なパターンが、個人事業を法人化して親族へ引き継ぐケースです。
この場合も、法人は「新しい事業者」として扱われるため、
個人の建設業許可をそのまま法人に移すことはできません。

したがって、流れとしては以下のようになります。

  1. 法人を設立(親や子を取締役に就任)
  2. 法人として新規に建設業許可を申請
  3. 許可が下りた後、個人の許可を廃業

この際、親が法人の役員として残り、経営業務の管理責任者を一定期間務めることで、
息子が経営経験を積むまでの「橋渡し期間」を設けることも可能です。
スムーズな承継を実現するには、このような計画的な役員構成が重要です。

3. 経営業務の管理責任者の承継が最大のハードル

親族承継において最も問題となるのが、経営業務の管理責任者(以下:経管)の承継です。

経管は「建設業の経営に関する経験を有する常勤の役員等」であることが要件です。
つまり、単に親族であるというだけでは引き継ぐことはできません。

経営経験の要件は以下のように定められています。

  • 建設業の経営業務に通算5年以上従事した経験があること
  • もしくは、法人の役員として5年以上の建設業経営経験を有していること

そのため、息子がこれまで現場監督や技術者として働いていても、
経営業務(契約・請負管理・人員管理など)に関わっていなければ、経管として認められないことがあります。

この場合、承継をスムーズにするための方法としては、

  • 親を取締役として残し、一定期間は経管を兼任してもらう
  • その間に子が役員として経営経験を積み、後に経管として交代する

という二段階方式が現実的です。
経管不在の状態が発生すると、許可の維持ができなくなるため、事前の計画が極めて重要です。

4. 専任技術者の承継にも注意が必要

もう一つの要件が専任技術者です。
これは、営業所ごとに必ず常勤で配置しなければならない技術者であり、許可業種ごとに異なる資格や経験年数が求められます。

親が一級土木施工管理技士などの資格を持っていた場合、子が同等の資格を持っていなければ、
承継後に許可業種を維持できないこともあります。

たとえば、息子が二級施工管理技士しか持っていない場合は、特定建設業の許可を引き継ぐことができず、
一旦「一般建設業」に切り替えるなどの調整が必要になるケースもあります。

5. 承継時に必要な届出と申請の判断基準

事業承継に伴う手続きは、状況に応じて以下の3パターンに分かれます。

承継の形態手続き内容書類提出先注意点
法人内代表交代変更届出都道府県・国交省経管・技術者の要件確認
個人→親族個人廃業届+新規申請都道府県・国交省経管要件に注意
個人→法人化法人新規申請+個人廃業都道府県・国交省経管・財務要件を再確認

これらの手続きはすべて期限があり、

  • 変更届出:変更後30日以内
  • 廃業届:廃止後30日以内
  • 経管・技術者変更:変更後2週間以内

に行う必要があります。

特に「廃業後に新規許可を取る場合」は、許可が下りるまで無許可期間が生じるため、
工事契約のスケジュールをずらす、請負契約を一時停止するなどの実務対応が求められます。

6. 専門家による事前相談の重要性

建設業の事業承継は、単なる登記や相続手続きとは異なり、許可要件を途切れさせない計画的な承継が必要です。
行政書士などの専門家に早めに相談することで、以下のようなメリットがあります。

  • 経管・技術者の配置計画の立案
  • 許可失効を防ぐためのスケジュール管理
  • 承継後の新規許可申請や廃業届の同時進行サポート
  • 必要書類(証明書、登記簿、納税証明書等)の事前準備

特に東京都や沖縄県では、自治体ごとに提出様式や添付資料が異なるため、
地域事情に詳しい行政書士に相談することで、無駄な時間を省けます。

7. まとめ スムーズな承継の鍵は「事前準備と要件確認」

建設業の事業承継は、単に「社長を交代する」「息子に任せる」というだけでは済みません。
建設業法上の厳格な許可要件(経営業務の管理責任者・専任技術者・財務基準)を途切れさせずに維持する必要があります。

そのためには、

  • 承継計画を1年前から立てる
  • 親を一定期間役員として残す
  • 経管・技術者の要件を満たす人材を確保する
    といった準備が不可欠です。

「廃業」と「再取得」の中間に位置するこのテーマは、許可を守るうえで最も実務的な課題の一つです。
東京都江東区や沖縄県那覇市で家族経営の建設業を営む方は、ぜひ早めに承継体制を整えておきましょう。

建設業許可申請に精通した行政書士見山事務所までお気軽にご相談下さい。

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