
1 相続財産管理人とは
人が亡くなったとき、通常は相続人がその財産や債務を承継します。
しかし、まれに「相続人が一人もいない」または「全員が相続放棄した」というケースがあります。
このような場合、遺産は誰も引き継ぐことができず、銀行口座の凍結や不動産の管理放置など、社会的にも問題が生じます。
このとき、家庭裁判所が選任するのが「相続財産管理人(そうぞくざいさんかんりにん)」です。
相続財産管理人は、被相続人の財産を調査・管理・清算し、最終的には国庫に帰属させる役割を担います。
言い換えれば、“相続人不在の遺産を代わりに処理する専門的な管理人” という位置づけです。
2 相続財産管理人が必要となる場面
相続財産管理人の選任が必要となるのは、主に次のような場合です。
- 相続人が最初からいない(被相続人が独身で親兄弟もすでに他界しているなど)
- 相続人全員が相続放棄をした
- 相続人の一部が不明・連絡不能で、遺産分割が進められない
- 債権者や遺贈を受けた人などが遺産から弁済を受けたい
たとえば、賃貸アパートの大家さんが亡くなり、誰も相続手続きをしないまま家賃振込が滞るケースや、
内縁の配偶者が遺産を整理したいが法的権限がない場合なども、相続財産管理人の選任が求められます。
3 申立てを行うことができる人
相続財産管理人の選任を申し立てることができるのは、次のような立場の人です。
- 債権者(未払い家賃・貸金・損害賠償などを請求したい人)
- 遺贈を受けた人
- 特別縁故者(被相続人の生前に世話をしていたなど)
- 被相続人の財産を預かっている人
- 検察官
つまり、「このままでは遺産の管理がされず不利益を受けるおそれがある人」が申立人になります。
4 申立てを行う裁判所と費用
相続財産管理人の選任申立ては、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行います。
申立費用の目安
- 収入印紙 800円
- 郵便切手 数千円程度(裁判所によって異なる)
- 官報公告費用 約5~7万円前後
- 必要に応じて管理人報酬のための予納金(10万円~30万円程度が多い)
特に公告費用や報酬の予納金は裁判所の判断によって異なります。
東京都江東区であれば東京家庭裁判所本庁、那覇市であれば那覇家庭裁判所が管轄となります。
5 申立てに必要な書類
申立てには、一般的に以下の書類が必要です。
- 相続財産管理人選任申立書
- 被相続人の住民票除票または戸籍の附票
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍一式
- 相続人不存在を確認するための親族関係図
- 財産の概要がわかる資料(預金通帳、不動産登記簿、固定資産評価証明書など)
- 申立人の利害関係を示す書面(債権書類、遺贈証書など)
被相続人の戸籍関係は、出生から死亡までのすべてが必要になります。
相続人が本当にいないかどうか、裁判所が慎重に判断するためです。
6 申立て後の流れ
申立てが受理されると、裁判所が調査のうえ相続財産管理人を選任します。
選任されるのは、通常は弁護士など法律の専門家です。
選任後の流れは次のようになります。
- 官報公告(相続人探索の公告)
→ 相続人が名乗り出るよう官報に公告(2か月以上) - 相続人捜索期間の経過
→ 期間中に名乗り出る人がいなければ相続人不存在が確定 - 債権者や受遺者への公告
→ 債権の届出を求める公告を行い、弁済・清算 - 特別縁故者への財産分与
→ 該当する人が申立てをし、裁判所が認めれば財産の一部を取得可能 - 残余財産の国庫帰属
→ すべての清算が終わった後、残りの遺産は国に帰属
このように、相続人がいない場合の遺産も、法律に基づいて段階的に処理されていきます。
7 相続人不存在の確認と注意点
相続財産管理人の選任において、最も重要なのは「本当に相続人がいないかどうか」の確認です。
これを怠ると、後に相続人が現れてトラブルになることがあります。
例えば、遠縁の甥や姪が後から戸籍調査で見つかることも珍しくありません。
戸籍は全国にまたがることも多いため、出生地・本籍地など複数の自治体で戸籍をたどる必要があります。
また、相続放棄があった場合は、放棄した人がいることを示す裁判所の「相続放棄受理証明書」も添付します。
こうした調査や書類準備は非常に煩雑なため、行政書士や弁護士に依頼するケースが一般的です。
8 特別縁故者との関係
相続人がいない場合、被相続人に特別な関係を持つ人(内縁の配偶者・療養看護をした人など)が財産の一部を受け取れる制度があります。
これは「特別縁故者への財産分与」と呼ばれます。
ただし、この制度を利用するためには、まず相続財産管理人が選任されていることが前提です。
つまり、相続財産管理人の選任 → 相続人不存在の確定 → 特別縁故者の申立て という順序になります。
したがって、特別縁故者として遺産を受け取りたい方は、まずこの管理人選任申立てを経る必要があります。
9 まとめ 相続財産管理人の手続きは慎重に
相続財産管理人の選任は、相続人がいないという特殊な状況で行われる重要な手続きです。
放置してしまうと、被相続人名義の不動産が管理されないまま荒廃したり、債務の整理ができなくなるおそれがあります。
東京都江東区や沖縄県那覇市のように人口が多く、単身高齢者も多い地域では、こうした「相続人不存在」のケースが増えつつあります。
家庭裁判所への申立ては書類が多く、公告・報告など複雑な手続きが伴いますので、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
相続手続を円滑に進めるには、「誰が」「どの順序で」「どの範囲まで」対応するのかを明確にし、
被相続人の財産を適切に整理することが大切です。
終活・生前相談、遺言の作成、相続手続に精通した行政書士に見山事務所までお気軽にご相談下さい。