
行方不明のまま長い年月が経過しても、財産や不動産、預貯金などはその人の名義のまま残り続けます。
こうした場合に問題となるのが、「その財産を誰が管理するのか」「相続はいつ発生するのか」という点です。
このようなケースでは、失踪宣告制度と相続財産管理人の選任制度が関わってきます。
どちらも家庭裁判所での手続きとなりますが、目的やタイミングが異なります。
本記事では、失踪宣告の基本的な仕組みから、相続財産管理人が関与する流れまでを詳しく解説します。
1.失踪宣告とは何か
失踪宣告とは、長期間生死が不明な人を「死亡したもの」とみなす制度です。
民法第30条以下に定められており、家庭裁判所が宣告を行います。
失踪宣告には2種類あります。
- 普通失踪
最後の消息を絶ってから7年間生死不明の場合に適用されます。 - 特別失踪(危難失踪)
船舶事故・戦争・震災など生命の危険がある状況で消息を絶ち、1年間生死不明の場合に適用されます。
失踪宣告が確定すると、民法上は宣告によりその時点で死亡したものとみなされるため、相続が開始します。
2.失踪宣告がされるまでの流れ
失踪宣告は、行方不明者の親族や利害関係人(配偶者、相続人、債権者など)が家庭裁判所に申立てを行うことで始まります。
主な流れは以下のとおりです。
- 家庭裁判所へ「失踪宣告の申立て」
- 家庭裁判所による公告(官報等で7か月以上)
- 生存の申告がなければ、失踪宣告の審判を行う
- 審判確定により「死亡」とみなされ、相続が開始
つまり、失踪宣告の確定をもって「死亡」と扱うため、その時点から遺産分割や相続登記などの手続が可能になります。
3.失踪宣告前の段階 財産管理人の選任が必要な場合
失踪宣告がされる前でも、行方不明者の財産を放置することはできません。
例えば、
- 持ち家が老朽化して危険
- 預貯金や家賃収入の管理が必要
- 固定資産税や公共料金の支払いを誰かが行う必要がある
といった場合です。
このようなときは、民法第25条に基づき、「不在者の財産管理人」の選任申立てを行います。
不在者の財産管理人とは
行方不明者の代わりに、その財産を保全・管理するために家庭裁判所が選任する人のことです。
親族や弁護士、司法書士などが選ばれるケースが多く、管理人は裁判所の監督を受けながら必要な管理・処分を行います。
たとえば、老朽家屋の修繕・売却や、滞納税金の支払いなど、生活上・法的に必要な行為を代わりに行えます。
4.失踪宣告後に「相続財産管理人」が登場する
失踪宣告が確定すると、その人は法律上「死亡」したものとされます。
その結果、相続が開始します。
このとき、相続人が存在すれば通常どおり遺産分割が行われますが、もし相続人がいない場合には「相続財産管理人」が選任されます。
相続財産管理人とは
相続人がいない、または相続人の有無が不明なときに、遺産を保全・清算するために家庭裁判所が選任する管理人のことです。
職務は以下のとおりです。
- 被相続人の財産の調査・確保
- 債権者・受遺者への通知と公告
- 債務弁済、遺贈の履行
- 特別縁故者への分与申立て対応
- 残余財産の国庫帰属手続
つまり、失踪宣告により法律上の死亡が確定した後、その財産の清算を担うのが相続財産管理人です。
5.失踪宣告と相続財産管理人の関係を時系列で整理
両者の関係を、実際の手続の流れに沿って整理すると次のようになります。
| 段階 | 状況 | 主な手続・制度 |
| ① | 行方不明状態が続く | 不在者の財産管理人の選任(民法25条) |
| ② | 7年または1年経過しても生死不明 | 家庭裁判所に失踪宣告の申立て |
| ③ | 失踪宣告の審判確定 | 法的に「死亡」とみなされ、相続開始 |
| ④ | 相続人がいない場合 | 相続財産管理人の選任(民法951条) |
| ⑤ | 清算・公告・国庫帰属 | 相続財産管理人が遺産を処理して完了 |
このように、不在者の財産管理人 → 失踪宣告 → 相続財産管理人という3段階で進むのが典型的な流れです。
6.実際に多い相談事例
実務上、次のようなケースで相談を受けることが多くあります。
事例①:一人暮らしの高齢者が行方不明
親族がいないまま高齢者が行方不明になり、近隣住民や大家が困るケースです。
この場合、まずは不在者の財産管理人を選任して財産を保全します。
7年以上経過しても消息がわからなければ、失踪宣告を申立て、死亡扱いとなった時点で相続手続が始まります。
相続人がいなければ、相続財産管理人が選任され、残余財産は最終的に国庫に帰属します。
事例②:夫が行方不明で妻が生活資金を下ろせない
夫婦共有の預金などを管理できず困るケースです。
この場合も、不在者財産管理人の申立てによって代理的に管理・払い出しが可能になります。
ただし死亡扱いにはならないため、失踪宣告が確定するまで相続は発生しません。
7.失踪宣告が取り消された場合の扱い
失踪宣告後に、行方不明だった人が生存していることが判明した場合、家庭裁判所に申立てをして失踪宣告の取消しを求めることができます。
ただし、取消しがあっても、すでに確定した相続や第三者との法律関係は原則として有効です(民法第32条)。
つまり、相続財産管理人がすでに財産を処分していた場合、その処分は有効とされ、戻すことは難しいのが原則です。
8.江東区・那覇市における相談・申立て窓口
失踪宣告や財産管理人の申立ては、行方不明者の住所地を管轄する家庭裁判所で行います。
- 東京都江東区の場合:東京家庭裁判所
- 沖縄県那覇市の場合:那覇家庭裁判所
いずれも、申立書類の作成・添付資料(戸籍・住民票・行方不明の証拠など)には注意が必要です。
申立ての目的が「失踪宣告」なのか「不在者財産管理」なのかによって、提出書類や費用も異なります。
9.まとめ 行方不明者の財産管理は「段階的」に進む
失踪宣告と相続財産管理人の関係を整理すると、次のように理解できます。
- **行方不明直後は「不在者の財産管理人」**が財産を守る
- 長期の不明で「失踪宣告」が確定すると法律上は死亡扱い
- 相続人がいない場合は「相続財産管理人」が清算を行う
- 最終的には国庫に帰属することもある
行方不明のまま財産を放置すると、老朽化や債務滞納などの問題が深刻化します。
できるだけ早い段階で家庭裁判所に相談し、適切な管理人の選任を進めることが重要です。
また、将来的にこうした事態を避けるためには、生前の遺言書作成や信託契約の活用も有効です。
生前・終活相談、遺言作成、相続手続きに精通した行政書士見山事務所にお気軽にご相談下さい。

