建設業許可申請における財務諸表(建設業会計)の作成ポイント

建設業の財務諸表は、一般の企業会計とは異なる独自のルールがあり、建設業許可申請や決算変更届、さらに経営事項審査(経審)にも直結する非常に重要な書類です。東京都江東区や沖縄県那覇市で建設業を営む事業者の方からも「一般の会計事務所に作ってもらった決算書ではだめなのか」「建設業会計の作成ルールがよくわからない」という相談が多く寄せられます。

この記事では、建設業許可制度で求められる財務諸表(建設業会計)の基本と、実務上の注意点を具体的に説明します。

目次

1. 建設業会計の目的

建設業会計は、建設業ならではの特徴をふまえた会計方式です。建設業は工事ごとに期間や規模が大きく異なり、材料費や外注費も業態により大きく変動します。そのため、工事ごとに実際の原価や利益を把握しなければ、適切な経営状況を確認できません。

建設業会計が求められる主な理由は次の点です。

  1. 経営内容を正確に把握するため
  2. 建設業許可申請や決算変更届に用いるため
  3. 経営事項審査(経審)で経営状況を正しく評価してもらうため
  4. 金融機関が業績判断に用いるため

建設業会計に沿っていないと、許可行政庁からの訂正指示が入ることがあり、審査が遅れる原因になります。

2. 建設業許可で提出する財務諸表の構成

建設業許可申請・決算変更届で提出する財務諸表は次のとおりです。

  1. 貸借対照表
  2. 損益計算書
  3. 株主資本等変動計算書(法人の場合)
  4. 注記表
  5. 工事原価報告書
  6. 完成工事原価報告書(決算変更届時)

このうち、一般企業の決算書にはないのが「工事原価報告書」と「完成工事原価報告書」です。ここに建設業会計特有の注意点が集約されています。

3. 工事原価報告書の作成ポイント

工事原価報告書では、工事にかかった原価を項目ごとに記載します。主な項目は次のとおりです。

  1. 材料費
  2. 労務費
  3. 外注費
  4. 経費
  5. その他の工事原価

特に外注費は建設業において大きな割合を占めるため、正確な計上が必要です。
実務上、見落としが多いのは次の点です。

・材料費をまとめて処理してしまい、工事ごとの原価が不明になる
・社内の職人の給与のうち、工事に直接関わった部分が労務費に計上されていない
・重機の燃料代などが原価ではなく経費に入ってしまっている

工事原価報告書は経審の原価評価にも使われるため、誤った区分は経審の点数にも影響します。

4. 完成工事原価報告書のポイント

決算期に完成した工事の原価のみを集計する書類です。工事原価報告書との違いは、次の点にあります。

・工事原価報告書=当期に発生した工事全体の原価
・完成工事原価報告書=当期に完成した工事の原価だけ

ここが曖昧なまま作成すると、売上と原価の整合性が崩れ、損益計算書との値が一致しなくなります。この不一致は許可行政庁からの補正の対象となるため十分注意が必要です。

5. 重要な勘定科目の処理ポイント

建設業会計では、特に次の科目で間違いが起こりやすいとされています。

1. 未成工事支出金

工事がまだ完成していない場合、発生した原価は資産として計上します。
「外注費」「材料費」などと誤って損金処理してしまうと、工事進行中の財務内容が正確に把握できなくなります。

2. 未成工事受入金

発注者から請負代金の前払金を受け取ったときに用いる科目です。
収益ではなく負債として計上する点が重要です。

3. 工事完成基準

建設業会計では「工事完成基準」が基本です。
完成した時点で売上を計上します。
一方、「工事進行基準」を採用する場合は税務署への届出が必要で、会計処理も複雑になります。

6. 注記表の作成ポイント

建設業会計では注記表も重要で、特に以下の情報を明記します。

・工事契約の処理方法(完成基準か進行基準か)
・主要な固定資産の減価償却の方法
・関連会社との取引状況(該当すれば)

注記表の内容が不十分だと、財務諸表全体の信頼性が低下します。

7. 行政庁がチェックする主なポイント

東京都(江東区を含む)や沖縄県那覇市での実務において、行政庁が特に見るのは次の点です。

  1. 資本金や自己資本が許可要件を満たしているか
  2. 債務超過ではないか
  3. 貸借対照表と損益計算書、工事原価報告書の整合性
  4. 該当年度の決算期が正確に反映されているか
  5. 金融機関借入金の処理が正しく行われているか

特に自己資本額の確認は重視されており、新規許可申請だけでなく更新時にも注意が必要です。

8. 税理士任せにしてはいけない理由

税理士が作成した決算書が、必ずしも建設業会計の形式になっているとは限りません。
一般的な企業会計で処理すると、次の問題が起こる可能性があります。

  1. 工事原価報告書が作成されていない
  2. 未成工事支出金が正確に処理されていない
  3. 経審の評点が本来より低くなる
  4. 許可行政庁からの指摘が入り、補正が必要になる

決算の段階で建設業会計のルールが守られていないと、後から修正する手間が大きく、入札参加資格や経審のスケジュールに影響することもあります。

9. 財務諸表を正しく作成するための実務ポイント

適切な建設業会計を実現するためには次の点が重要です。

  1. 工事ごとに原価を管理する体制を整える
  2. 毎月または四半期ごとに工事台帳を更新する
  3. 外注契約・材料発注の書類を整理しておく
  4. 前払金の処理を正しく行う
  5. 経審を見据えて「自己資本比率」を意識する
  6. 税理士と行政書士の連携を取る

特に、江東区や那覇市では小規模な事業者が多く、原価管理が現場任せになるケースがありますが、それでは正確な財務諸表を作れません。
日常の記帳体制を整えることが最も大切な対策となります。

10. まとめ

建設業会計に基づく財務諸表は、建設業許可申請、決算変更届、経審、入札参加資格審査など、建設業を継続していくうえで欠かせない重要書類です。
特に、工事原価報告書や未成工事支出金の処理など、一般会計とは大きく異なる点が多いため、正しい理解が必要です。

東京都江東区や沖縄県那覇市で建設業を営む皆さまにとって、財務諸表の適切な作成は、許可維持だけでなく信頼性の高い経営の基盤にもなります。日常の原価管理と決算書の作成体制を整え、許可更新や経審に対応しやすい経営環境を構築していくことをおすすめします。

建設業許可申請に精通した行政書士見山事務所へお気軽にご相談下さい。

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