どんな人が遺言を書いたほうがよいか、遺言を作成するメリットと作成した方がよいケースについて

生前に遺言書を作っておくといったいどんなメリットがあるのでしょうか。遺言作成のメリットについてきちんと理解をしておけば、遺言は大変有用な生前対策ということがわかります。遺言書を作成しておく最大のメリットを2つについて、解説いたします。

メリット1:法定相続人による遺産分割協議が不要になる
遺言がない場合、原則亡くなった方の相続人が相続財産の分割に関して協議を行い、協議が整ってはじめて遺産分けができることになります。遺産分割協議で一番大変なことは、何といっても相続人全員の足並みを揃えることです。一人でも不同意する者がいれば、相続手続きにおける各種書類への捺印をもらうことができず、いつまで経っても遺産分けができない状態が続くことになります。                                         
遺言者の亡き後、残される相続人にどのように遺産を分配したいかを明確に書きとめておけば、遺産相続における争いを防ぐことができます。
「私の子供たちは皆仲が良いから大丈夫だ」とか「遺言を書くほどの財産はない」と思っていても、自分の亡き後、いざ遺産分割協議となると相続人だけではなく、その利害関係者も協議に入り込んで遺産分割協議が難航するかもしれませんし、財産が少ないからと言っても、揉めないとは言い切ることはできません。
 時の経過によって人の考え方は変わるものですし、あらゆる状況の変化が考えられるので、自分の死後の遺産分けに関し争いが生じることを防ぐためには、遺産分割協議が不要になる遺言を作成し、円満な相続に向けた生前対策について考える必要があると言えます。

メリット2:自分の好きなように死後の財産の行き先を指定する(相続させる)ことができる
遺言があれば、自分の好きなように相続人に財産を相続させることができます。「配偶者に全部相続させたい」、「法定相続人以外のお世話になった人に財産を譲りたい」、「この人は他の相続人よりも多めに相続させたい」など、自分の死後の財産は自分で行き先を決めることができるのは、遺言書ならではのものです。これは大きなメリットと言えます。
ただし、相続人の遺留分について考慮しなければ、後にトラブルを引き起こす遺言になることもあります。遺言を書く場合は、あらゆる状況を想定し、専門家のアドバイスなどを得ながら書くとよいと思います。

遺言を作成したほうがよいケース
遺言書を書いておけば、相続人同士の遺産分割協議が不要になるというメリットについてはお話させていただきましたが、特に次のような方は遺言書作成の必要性が高いと言えます。

・結婚して配偶者はいるが、子がいないケース
子がいなければ原則、自分の親や兄弟姉妹が法定相続人に加わるため、相続手続きの複雑化(親が高齢で相続手続きを取るのが難しい、認知症のため後見人が必要になるなど)、相続人の数が増える等(親が死亡していて、兄弟姉妹が相続人になるケースや、その兄弟姉妹が被相続人よりも先に亡くなっている場合には被相続人の甥姪にも相続権が発生し、より手続きが大変になる。)の問題が生じ、遺産分割協議や相続手続きを取るのが難しくなるケースがあります。
子のいない夫婦であれば自分が先に死亡した場合は、自分の配偶者に全財産を相続させたいと思うのが普通(仲が悪くない限り)でしょうし、残される配偶者に余計な相続手続きの手間をかけさせたり、相続人が増えることによる遺産分割協議の難航化などを回避することが、このケースでは必要です。 

・一部の相続人にどうしても相続させたくないケース
法律上、相続人になる人は決まっていますので、何らかの理由でどうしても一部の相続人に相続させたくない場合、遺言の作成をして、その一部の相続人を除外する必要があります。「親が入院しても病院に顔すら見せない息子には一銭も相続させたくない」、「事実上婚姻関係が破綻している配偶者へは財産を渡したくない」などの理由がある方は、すぐにでも遺言を作成し対策を取るべきです。

・相続人になる人がひとりもいないケース
法定相続人になる人が一人もいない(未婚、子がいない、親が死亡、一人っ子で兄弟姉妹がいない)のであれば相続財産はどこにいくのでしょうか?

この場合は、その相続財産は行き先を失い原則、国庫へいくことになります。例外的に特別縁故者という死亡した者と特別な縁故があった者に財産の全部もしくは一部が分与されることもありますが、これは家庭裁判所によって特別縁故者と認められた場合にのみ該当しますので、相続人がいないケースでは、遺言書を作成すべきです。 

・前の配偶者との間に子がいて、現在は再婚をしているケース
離婚経験があり、その後再婚した方で前配偶者との間に子供がいる方は、ご本人が亡くなった後は、現在の配偶者とともに前配偶者との間の子供も相続人になるため、遺産相続争いになる可能性が通常よりも高いといえます。

遺言作成をご依頼される方で、これを理由によるお悩みを持つ方は多いです。

このようなケースでは遺言書を作成し、残される相続人が遺産分割協議でいやな思いをしないように配慮をしたほうがよいと思います。

・内縁の配偶者に相続させたいケース
法律上の婚姻関係にない内縁の配偶者は、法律上の相続人とならないため、どんなに長年一緒にいたとしても、内縁配偶者の死後、生存側の内縁配偶者は財産を相続できないことになります。(特別寄与料の金銭請求は除きます。)

生存側の内縁配偶者側としては、このような事態は納得できないでしょう。この場合も遺言を作成し、生存側の内縁配偶者に対してその後の生活のこともありますので、充分配慮すべきでしょう。

・法定相続分で遺産分割させることに不公平が生じるケース
法律上では被相続人の死亡後、相続人となるべき人がどのくらいの割合で遺産に対して権利や義務を有するかの指標である法定相続分が定められています。ここでいう法定相続分は遺産分割の目安になりますが、場合によっては、法定相続分で遺産分割することに不公平が生じることもあります。

たとえば、被相続人の老後の面倒をみてきた相続人と全く疎遠であった相続人が同じ相続分の場合、面倒をみてきた相続人側にとっては法定相続分の定めが不公平であると考えることになります。
また、相続人の経済状況や家庭の事情等、遺産分割協議をする際に法定相続分を基準とした遺産分割では公平性が保てないことがあります。

遺言は法定相続よりも優先されます。様々な事情を考慮して相続人間で遺産分けができるよう遺言者は遺言を遺し、自らの遺志を示すことと共に、相続人間の実質的な公平性を保つようにする事がよいのかと思います。

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