
建設業許可を取得する際の要件の一つとして、営業所ごとに「専任技術者」を配置することが求められています。この専任技術者については、「資格」や「実務経験」などの技術的な条件だけでなく、どの営業所に常勤しているか=『専任』の実態があるかどうかも極めて重要な審査ポイントとなります。
この記事では、専任技術者と営業所の関係における「常勤義務」とは何か?について、制度の基本から、実務上のトラブル事例、東京都江東区および沖縄県那覇市での注意点などを交えて、分かりやすく解説していきます。
1.専任技術者とは?
【定義】
専任技術者とは、建設業許可を取得しようとする事業者が、建設工事の施工に関する専門的知識・経験を有する者を、各営業所に配置する制度上の要件です。
【役割】
- 建設工事の技術的責任を担う
- 技術者の監督・育成
- 品質管理・工程管理の指導
そのため、単なる名義貸しや非常勤、他社との兼務などは禁止されており、常勤であることが義務付けられています。
2.「営業所」とは?~ここを押さえないと申請が不許可に
建設業法において営業所とは、「建設業に関する契約締結の業務を常時行う事務所」と定義されます。単なる現場事務所や倉庫、自宅の一室では要件を満たさないこともあります。
【要件】
- 建設業に係る常時の業務が行われている
- 専任技術者や事務職員が常勤している
- 固定電話・机・書類保管棚など事務所としての設備が整っている
この営業所に専任技術者が「常勤」していなければ、建設業許可は認められません。
3.常勤義務とは何か?
【意味】
「常勤」とは、当該営業所で実際に日常業務を行っている状態を指し、以下の点が問われます。
- 就業実態があるか(タイムカード、出勤簿、業務日報など)
- 社会保険への加入状況(健康保険・厚生年金)
- 勤務先の確認(雇用契約書、給与明細)
【求められる実務】
- 専任技術者が常に業務対応可能な状態
- 他の会社で勤務していない
- 他営業所と兼務していない
この「常勤性」が証明できない場合、たとえ十分な実務経験や国家資格を保有していたとしても、専任技術者として認められません。
4.よくある質問と注意点
Q1:自宅を営業所にして、そこに専任技術者を配置することは可能?
可能なケースと不可能なケースがあります。
- 可能な例:自宅の一部を独立した事務所として明確に区分し、事務設備を整え、日常業務を行っている場合(要写真証明)
- 不可の例:リビングや寝室などの生活空間と区別できない場合、勤務実態が曖昧な場合
※自宅兼事務所の場合は、「事務所らしさ」と勤務実態を写真と証明書類でしっかり示すことが必要です。
Q2:他の営業所との兼務は認められますか?
いいえ、できません。
建設業法上、専任技術者は「1営業所につき1人、かつ常勤」が原則です。つまり、複数の営業所で専任技術者を兼務することはできません。
また、他社との兼務も認められません。たとえば、他の建設会社で雇われている技術者を、自社の専任技術者として登録することはできません。
Q3:社長や役員が専任技術者になれますか?
はい、可能です。ただし、以下の条件を満たす必要があります。
- その営業所に常勤していることが証明できる(=役員であっても毎日勤務している)
- 技術的な要件(資格・学歴・実務経験)を満たしている
社長や専務などが現場出身者であり、営業所で日常業務を行っている場合には、専任技術者として十分認められるケースも多いです。
5.実務上の証明方法
専任技術者の常勤性を証明するために、申請時に以下のような資料の提出を求められることがあります。
【主な証明書類】
- 健康保険被保険者証(写し)
- 雇用保険の被保険者資格取得確認通知書
- 給与明細や賃金台帳
- 出勤簿や勤怠管理システムの出力
- 業務日報(業務内容が記載されているもの)
- 写真(営業所での作業状況)
※東京都・沖縄県では、窓口で確認される項目や形式が若干異なることがあるため、事前に管轄の建設業担当課に相談しておくのが安全です。
6.実務上のトラブル事例
【事例1】実体がない「名義貸し」で不許可に
知人の技術者に頼んで専任技術者の欄に名前を記載し、申請後に調査が入ったところ、その人が実際に勤務していないことが発覚し、不許可+行政指導となったケース。
→ 名義貸しは建設業法違反であり、場合によっては刑事罰の対象にもなります。
【事例2】自社の技術者が他営業所で登録されていた
自社の営業所で常勤していると考えていた技術者が、実は他の支店に専任技術者として登録されていたため、更新審査時に重複配置が発覚し、許可の更新が保留に。
→ 「1人1営業所」が絶対原則であるため、社内体制の管理が非常に重要。
7.まとめ 常勤の「実体」が鍵
専任技術者の要件は、形式的に「資格がある」だけでは不十分です。営業所に実際に常勤していること、業務を遂行していることを証明できるかが、許可の可否を左右します。
特に「常勤性の確認」は更新時にも問われるため、申請時にしっかり整備しておくことで、将来のトラブルも防ぐことができます。
ご自身の会社で専任技術者が要件を満たしているか不安な場合は、地域の実務に精通した行政書士に早めに相談することをおすすめします。特に東京都や沖縄県は地域独自の運用があるため、経験ある専門家の支援が不可欠です。