
公共工事に参加するために避けて通れない「経営事項審査(経審)」ですが、その評価指標であるP点(総合評定値)は、業種によって求められる水準や評価傾向が異なることをご存じでしょうか?
本記事では、特に自治体で多く発注される主要業種である建築一式工事・電気工事・管工事の3つに焦点を当て、業種ごとのP点の目安、注意点、効果的な加点戦略を解説します。
1. 経審P点とは?各業種で何が違うのか
P点(総合評定値)は以下のように構成されます:
P点 = (X1+X2)×0.25 + Y×0.15 + Z×0.2 + W×0.25 + 絶対評価点(業種別)
このうち、**「絶対評価点」**は業種ごとに異なります。これは国土交通省が定める補正値で、同じX・Y・Z・W点でも業種によってP点が変わる要因となります。
また、各地方自治体が定める入札参加ランク基準(例:A・B・Cランクの境界)も業種別に異なるため、目指すべきP点の「水準」も業種によって戦略を変える必要があります。
2. 建築一式工事業のP点戦略
特徴:
- 発注金額が大きく、競争が激しい
- 一般・特定建設業の区別が明確
- 技術者数・実績の有無でY点に大きな差
目安P点:
- Aランク目安:900点以上
- Bランク目安:850点前後
- Cランク目安:800点前後
戦略ポイント:
(1)X点(経営規模)をしっかり確保
建築一式工事は工事規模が大きくなる傾向があるため、完成工事高の金額が高いほど有利です。売上の安定的な成長がX点加算の鍵です。
(2)Y点(技術力)で差がつく
- 監理技術者(1級施工管理技士)の確保
- 3年間の元請工事実績の積み上げ
これらを社内で体系的に支援する仕組みがあるかが、差になります。
(3)Z点で他社と差をつける
建築業界は競争が激しいため、Z点(社会性)も満点に近づけることが必要です。
ISO認証、防災協定、建退共、障がい者雇用などの加点対象をすべて洗い出して対応しましょう。
3. 電気工事業のP点戦略
特徴:
- 特定の自治体では入札機会が多く、安定した需要がある
- 技術力と資格保有者が重要視されやすい
- 業者数が多いため、点数で差がつきやすい
目安P点:
- Aランク目安:870点前後
- Bランク目安:820点前後
- Cランク目安:750点前後
戦略ポイント:
(1)Y点(技術力)を重視
- 第一種電気工事士や1級電気工事施工管理技士の在籍人数が評価に直結
- 元請実績が少ない場合でも技術職員数で得点確保が可能
(2)Z点で確実に加点
- 電気工事は比較的小規模な会社も多いため、Z点の取りこぼしが目立ちます
- 建退共、法定福利の完全適用、BCP、防災協定などをきちんと取得
(3)X点は過度にこだわらず安定重視
電気工事の完成工事高は建築に比べると控えめでも通用します。売上の安定性と継続年数を重視した設計を行いましょう。
4. 管工事業のP点戦略
特徴:
- 上下水道、空調、衛生設備など、自治体の生活インフラ整備に密着
- 地域密着の中小企業が多く、Z点・W点の評価で差が出やすい
- 技術者の確保が他業種に比べてやや難しい
目安P点:
- Aランク目安:860点以上
- Bランク目安:800点前後
- Cランク目安:750点以下
戦略ポイント:
(1)Y点対策に注力
- 技術者(1級・2級管工事施工管理技士)の資格支援制度を構築
- 小規模元請工事でも積極的に申請実績に残すことが重要
(2)Z点加点で差を出す
- 管工事業界はZ点での加点意識が薄いケースが多く、加点余地が大きいです
- 建退共、CPD、ISO、女性活躍推進、障がい者雇用などの項目を意識的に確保
(3)財務の整備(W点)で大きく差がつく
- 財務内容が不安定な事業者が多いため、黒字経営・借入金整理によるW点の向上が戦略的に有効です
5. 共通戦略とまとめ:全体の底上げが重要
どの業種でも、P点を伸ばすためには以下の共通項目を毎年チェックする仕組み作りが必要です。
【共通して取り組みたいこと】
- 毎年の経審前にZ点加点項目の棚卸し
- 技術者の資格取得と更新支援体制の整備
- 黒字決算を意識した会計戦略(仮払金・貸付金の整理)
- 元請実績の記録徹底
【業種ごとの重点配分の目安】
業種 | 重視すべき点 | 補足 |
建築一式 | X点・Y点重視 | 売上・技術・実績の全方位戦略 |
電気工事 | Y点・Z点重視 | 技術職員数と社会性で差をつける |
管工事 | W点・Z点重視 | 中小企業が多く、財務と加点対策が有効 |
おわりに 地域ごとの基準も要確認を
江東区や那覇市をはじめ、自治体ごとに入札参加ランクのP点基準や配点比率は若干異なります。
経審は「点数を取る」ための制度ではなく、実際の会社経営の健全さや信頼性を証明する制度です。
経審対策を単なる数値調整で終わらせず、会社全体の実力アップと経営改善のための手段として位置づけることが、長期的に見て最も効果的です。