建設業許可における適正な経営体制とは何か?~制度の全体像と法改正の背景~

建設業許可を取得するためには、事業者としてさまざまな要件を満たす必要があります。その中でも特に重要かつ複雑なのが「適正な経営体制の確保」という要件です。これは、かつての「経営業務の管理責任者(略称:経管)」制度が見直され、2020年10月の建設業法改正により大幅な制度変更が行われた部分です。

今回は、制度の全体像や改正の背景、そしてどのような点に注意すべきかを、初めて建設業許可を申請される方にもわかりやすくご説明いたします。

目次

1. 適正な経営体制とは

建設業法における「適正な経営体制」とは、建設業を営む上で必要な経営能力とその裏付けを持つ体制を整えていることを意味します。具体的には、建設工事の契約、原価管理、人員配置、資金繰りなどを適切に運営し、工事を円滑かつ継続的に遂行できる体制のことです。

これは、建設業という業種の特性に由来します。建設業は請負契約に基づく業務であり、工事期間が長期に及ぶことや高額な取引になることが多いため、経営体制に問題があると元請業者や発注者、さらには下請業者や労働者に大きな不利益が及ぶことになります。

そのため、建設業許可を取得する際には、単なる書類審査を超えて、実質的に「経営に責任を持つ人材がいるのか」「その人物が建設業の実務に精通しているのか」という点を問われるのです。

2. 法改正の背景 旧制度の課題と見直しの理由

かつての制度では、「経営業務の管理責任者」と呼ばれる者が常勤の役員または個人事業主として営業所にいることが求められていました。この制度は長らく運用されてきましたが、以下のような課題が指摘されていました。

(1) 要件が過度に形式的であった

旧制度では、取締役や代表者として5年以上の経験が必要とされていましたが、その実態が形骸化している例も多く、実際に経営に関与していない人物が形式的に名を連ねているというケースが見受けられました。

(2) 多様な経営形態に対応できなかった

建設業界でも企業統治の在り方は多様化しており、いわゆる執行役員制度や分権的な組織構造の導入などが進んでいます。こうした実態に対し、旧制度は柔軟に対応しきれていませんでした。

(3) 中小企業・新規参入者にとって高いハードルであった

家族経営の小規模事業者や、新しく建設業に挑戦するスタートアップにとって、旧制度の要件を満たすことは大きな障壁でした。経営経験はあるが形式的な役職に就いていないために申請ができないというケースも多く、結果として許可制度が実情と乖離しているとの指摘がありました。

これらの課題を受けて、2020年10月に建設業法が改正され、「経営業務の管理責任者」制度は廃止され、新たに「適正な経営体制を有していること」が求められるようになったのです。

3. 現行制度における基本構造

法改正後の制度では、次の2パターンのいずれかに該当すれば、適正な経営体制があると認められます。

パターン1:経営経験者が役員に就任している場合

次のいずれかの経験がある人物が、常勤役員または個人事業主として営業所に在籍していれば、適正な経営体制があるとされます。

  • 建設業で5年以上の取締役・執行役等としての経営経験(業種不問)
  • 建設業における5年以上の執行役員としての管理経験
  • 建設業で6年以上、副支店長等の立場で経営を補佐していた経験

このように、役職や経歴に応じて複数のパターンが用意されており、従来より柔軟な判断ができる仕組みになっています。

パターン2:補佐体制を整えている場合

一定の経営経験がある常勤役員を配置した上で、「財務管理」「労務管理」「業務運営」のそれぞれについて5年以上の経験を持つ補佐者を配置することでも、適正な経営体制があると認められます。

これは、大企業における機能分化を前提とした制度設計で、役員1人がすべてを把握していなくても、分野ごとの実務担当者の補完体制があればよいという発想です。

4. 実務上のポイント

(1) 経験の証明が必要

いずれの要件も「経験年数」が基準になっており、その証明資料を提出することが不可欠です。たとえば、取締役の経験であれば登記簿謄本、就業証明書、辞令等が求められます。

このため、過去の資料が手元に揃っていない場合には、準備に時間がかかることがあります。とくに個人事業や非営利団体等に関する経験は、証明資料の整備が難しいケースもあります。

(2) 経営と技術の分離が求められる

適正な経営体制とは、あくまで「経営能力」に関する要件です。技術者としての能力(専任技術者の要件)とは別に評価されるため、同一人物で兼ねる場合にも両方の要件を個別に満たす必要があります。

(3) 地域差への配慮

東京都江東区や沖縄県那覇市では、都市部と地方とで事業者の規模や組織形態に違いがあります。都市部では補佐体制を組みやすい一方、小規模事業者が中心の地域では、補佐者を確保することが困難な場合もあります。こうした実情に応じて、どのパターンで要件を満たすかを慎重に検討する必要があります。

5. 今後の展望

建設業界を取り巻く環境は今後も変化し続けると考えられます。高齢化や事業承継の問題、外国人材の活用、リモートワーク等、経営体制そのものの多様化も進んでいます。

こうした中で、建設業許可制度も、より実態に即した柔軟な運用が求められることになるでしょう。適正な経営体制に関する要件は、法改正後も引き続き注目されるテーマです。

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